第137話 氷と炎のチェスの駒

「いえ、今回はアイツを倒します。この三人で」

「「はあああああああああああ!?」」


 俺の言葉に、先輩とサンドラが絶叫した。


 クイーン=オブ=フロストの強さを知っている先輩は言わずもがなだけど、この“ぱらいそ”領域エリアが危険だって言われた後で、先輩ですら避けようとする幽鬼レブナントと戦うなんて言われたら、まあそうなるか。


 だけど、サンドラはともかく、先輩は忘れてしまっているようだ。

 このクイーン=オブ=フロストが、氷属性・・・だってことを。


「先輩、忘れたんですか? 俺達は“レムリア”領域エリアで【氷属性反射】を入手したことを」

「っ! そ、そうか!」

「エ? エ? どういうことですノ?」

「ふふ! サンドラ、あの幽鬼レブナントは、氷属性の攻撃を得意としているのだ!」

「ア……そういうことですのネ……」


 そう……仮に俺達がクイーン=オブ=フロストと戦っても、物理攻撃にさえ注意すれば、ノーダメージで完勝できるってことだ。

 これこそが、俺が考えたレベルを効率的にアップさせるための策の一つだ。


「はは……ということで、今度は圧倒してやりましょう!」

「うむ!」

「エエ!」

『ハイなのです!』


 先輩とサンドラがそれぞれ精霊ガイストを召喚すると、[関聖帝君]の【威圧】スキルに反応したクイーン=オブ=フロストが、早速俺達に向けて【アイススフィア】を仕掛けてきた。


 だけど。


『ッ!?』

『はう! そんな攻撃、この[シン]には通用しないのです!』


 まさか【アイススフィア】を反射されるとは思わなかったクイーン=オブ=フロストは、彫刻の像であるがゆえにその表情は一切変わらないが、それでも、一瞬後ずさるかのような反応を見せた。


 というか……確かにこの“ぱらいそ”領域エリアを踏破して真のラスボスと戦おうと思ったら、五つの・・・領域エリアを全て攻略する必要があるな。


『それー! なのです!』


 [シン]はクイーン=オブ=フロストを遥かに凌駕する速さでその後ろへと回り込むと。


『【縛】』


 呪符を貼り付け、その動きを封じてしまった。

 こうなると、あとは一方的だな。


「おおおおおおおおおおおおおッッッ!」

「アアアアアアアアアアアアアッッッ!」


 [関聖帝君]の青龍偃月刀と[ペルーン]のメイスがクイーン=オブ=フロストを襲う。

 そして、何度目かの斬撃や打撃を受けた後、クイーン=オブ=フロストは幽子とマテリアルに変化した。


「ははっ! 楽勝!」

「うむ!」

「あっけなかったですワ!」


 俺達は、三人でハイタッチを交わす。


『はうはうはう! [シン]もなのです!』

「おう! やったな!」


 俺は手のひらを向けると、[シン]はパアン、と気持ちいい音が鳴るほど思い切りタッチした。


 そして。


「なるほど……ようやく理解したぞ。つまり望月くんは、この領域エリアを何度も出入りして幽鬼レブナントを復活させ、レベル上げをしようということなのだな?」


 そう言うと、先輩は納得したとばかりに嬉しそうにウンウン、と頷いた。

 それはサンドラも同じようで、ガイストリーダーを眺めながら頬を緩めている。


「ひょっとしてサンドラ、レベルアップしたのか?」

「エエ! クラスチェンジした時以来ですワ!」


 うん……良かったな、サンドラ。

 俺は顔を綻ばせながら喜ぶサンドラを眺めた。


『マスター! [シン]は? [シン]はレベルアップしてないのですか?』


 [シン]がガイストリーダーを見せろと言わんばかりに、俺の身体にしがみつく。

 はは、そうだな。ひょっとしたら俺達も……。


 そう思ってガイストリーダーを見るが……。


『残念なのです……レベルが上がらなかったのです……』


 [シン]は、あからさまにガッカリした表情を見せた。

 だけど[シン]の奴、どうやら分かってないみたいだぞ?


「イヤイヤ、まだこれで終わりじゃないから」

『「「へ?」」』


 俺の言葉に、[シン]だけじゃなく先輩とサンドラも気の抜けた声を漏らした。


「まさか先輩とサンドラも、これで終わりだと思ったんですか?」

「い、いや、確かまた出入りして戦うのだったな……」

「そ、そうでしたわネ……」


 あー……やっぱり少し思い違いしてるみたいだ。


「いえ、今度はこの通路の反対側の十字路にいる幽鬼レブナントを倒しに行きますよ」

『「「へ?」」』

「はは、まあついて来てください」


 俺は先輩とサンドラに声を掛けて、いつものように真っ直ぐに向かわず、左に曲がって進んだ。


「も、望月くん……一体どこに向かっているんだ……?」

「ご心配なく。もう着きましたから」

「ヘ? どういうことですノ?」


 不安な顔をする先輩と、不思議そうな表情を浮かべて尋ねるサンドラ。

 俺はそんな二人に、通路の先を指差すと。


「「っ!?」」


 そこには、クイーン=オブ=フロストの倍はあろうかという大きさの、彫刻の男性像のような幽鬼レブナントがいた。

 しかも、一定時間経過したら、時計回りに九十度動くところも変わらない。


「あれは……?」

「はい。アレ・・も、倒した幽鬼レブナントと同じ性質ですね。ただし、こちらは火属性・・・ですが」

「「っ!」」


 俺の説明を聞き、二人は瞳を輝かせた。

 それはそうだろう。だって、カモが目の前にいるんだから。


『はうはうはう! とっちめてやるのです! [シン]の養分にしてやるのです!』

「あ、オ、オイ!」


 俺の制止も聞かず、[シン]は通路の先にいる幽鬼レブナント、“キング=オブ=フレイム”へと突撃していった。


 当然、[シン]の存在に気づいたキング=オブ=フレイムは、その口を大きく開き、【火属性魔法】の上級魔法である【ヘルファイア】を吹き出した。


『はう! そんなもの、効かないのです!』

『ッ!?』


 【ヘルファイア】をはね返され、キング=オブ=フレイムはたじろぐ。

 その隙を狙って、[シン]は肉薄すると。


『食らえー! なのです! 【凍】!』

『ッッッ!?』


 キング=オブ=フレイムに何枚もの呪符を貼り付け、氷属性攻撃によるダメージを与え続ける。


「[シン]! 後は任せろ! おおおおおおおおおおッッッ!」

「【裁きの鉄槌】! ですワッッッ!」


 もう虫の息の状態のキング=オブ=フレイムに対し、[関聖帝君]と[ペルーン]が無慈悲な一撃を与え、そして……幽子とマテリアルへとその姿を変えた。


『はう! 圧勝なのです!』


 嬉しそうに胸を張る[シン]。

 俺はそれを見て、思わず口元を緩めた。

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