第303話 氷室先輩も!?
昼食を済ませ、昼休みも終わりそうなので俺達は食器を返却口へと返しに行くと。
「…………………………」
……サクヤさんの鋭い視線が、俺の背中にメッチャ刺さってる……。
こ、これは早めに弁明をしたほうがよさそうだな。
俺はそそくさと食器を返却し、続く先輩とすれ違いざま。
「……ちょ、ちょっと次の授業、サボってくれませんか?」
「っ!?」
小さな声で耳打ちすると、俺はすぐに離れて食堂の出口へと向かった。
「? ヨーヘイ、教室に戻りませんノ?」
「お、おお……悪い、ちょっと寄るところがあるから、先に戻っておいてくれ」
「?」
サンドラは不思議そうに首を傾げたけれど、プラーミャに腕を引っ張られて教室へ戻って行った。
さて……。
「……望月くん」
「……行きましょう、か……」
同じく食堂を出たサクヤさんを連れて、俺は学園の敷地内にある初心者用の
「それで……私をこんなところに連れてきて、どういうつもりだ?」
サクヤさんはそう言うと、ギロリ、と睨む。
ウーン……全然機嫌が直らない……。
「あ、あははー……ここなら、遠慮する必要ないですから、その……“サクヤ”さん」
「っ!? ……う、うむ!」
サクヤさんの名前を告げた瞬間、その険しかった表情がやわらかいものに変わった。
「そ、その……さすがにみんなのいてる前で、いきなり名前で呼んだりしたら、絶対変に勘繰られますし……」
「あ……う、うむ、確かに……」
ホッ……どうやら分かってくれたみたいだ。
「だ、だから、その……サクヤさんって呼ぶのは、二人っきりの時に……」
「う、うん……」
そう言うとサクヤさんは恥ずかしそうに
「そ、それで、実は先輩に、一つだけお願いしたいことが、そのー……ありまして……」
「お願い? も、もちろん、望月くんのお願いなら何でも聞くとも!」
上目遣いでおずおずと尋ねると、すっかり機嫌がよくなったサクヤさんは、ズイ、と身体を乗り出して嬉しそうに承諾してくれた。
「あの……お、俺だけサクヤさん、って呼ぶの、フェアじゃないと思うんです……」
「っ!? そ、それって……!」
「あ、あははー……できれば俺も、その……“ヨーヘイ”って、呼んでもらえると……」
うう……ちょ、ちょっと調子に乗り過ぎただろうか……?
俺はチラリ、と先輩の様子を
「! と、当然だとも! そ、その……“ヨーヘイ”、くん……」
「っ! は、はい!」
うわあ……モジモジしながら俺の名前を呼ぶ先輩、最高に尊い……!
お願いして正解だった!
「そ、それじゃ、俺の用事は終わりましたから、授業に……っ!?」
「そ、その……今から行っても五時間目の途中だし、だから……」
「あ、そ、そうですね……」
俺とサクヤさんは、五時間目の授業が終わるまでの間、初心者用の
もちろん、お互いを下の名前で呼び合いながら。
◇
「さあ……いよいよ、だな……」
放課後、俺達九人は街の外れにある“バベル”
もちろん、これから攻略を開始するために。
「では、当初の予定通り、私とヨ……望月くん、サンドラ、プラーミャに中条を加えたチーム、そして氷室くん、立花くん、土御門くん、加隈くんのチームで攻略を行う。ああ、それと……」
サクヤさんは全員の顔を見回すと、すう、と息を吸った。
「……各自、この“バベル”
サクヤさんの言う通り、この
あの賀茂が“バベル”
「ハア……今回も、望月くんと一緒のチームじゃなかった……」
そう言って、立花があからさまに落ち込んだ表情を見せた。
「はは……ま、まあ、別にこの
「! そ、そうだよね! ようし! 次こそは……!」
立花はフンス、と意気込む。
いや、俺と一緒のチームになることよりも、“バベル”|領域の攻略に意気込めよ。
「ま、任せろ立花! 今回も、この俺がバッチリサポートすっからさ!」
加隈が立花の前に立ち、ドン、と胸を叩いた。
いや、何のアピールだよ。そもそも立花が意気込んでるのは、次の攻略で俺のチームになることだからな? 残念だけど。
「そうですね……
「あ、あははー……」
いつの間にか俺の傍にいた氷室先輩に耳元でささやかれ、俺は思わず愛想笑いをする。
確かに、今回については氷室先輩に頼りっきりだ。
“バベル”
だけど、氷室先輩が欲しい
すると。
「……私のことも“カズラ”と呼んでほしいですね……
「っ!? どど、どうしてそれをっ!?」
氷室先輩の言葉に、俺は思わず聞き返した。
い、いや、あの五時間目の時は誰もいなかったことは確認したし、いくら氷室先輩でも分からないがずなのに!?
それとも、ひょ、ひょっとして、[ポリアフ]の解析スキルはそんなことまで分かるのか!?
「ふふ……先程の藤堂さんの発言から推測をしてカマをかけたんですが……どうやら正解だったみたいですねて……」
そう言って、氷室先輩はニタア、と口の端を吊り上げた。
チクショウ! はめられた!?
「さあ、おっしゃってみてください」
うう……べ、別に嫌なわけじゃないけど、恥ずかしい……。
「そ、その……カ、カズラ、さん……」
「っ! こ、これは……想像以上です……!」
一体何が想像以上なのかは分からないけど、氷室先輩は満足したのか、鼻を押さえながら軽い足取りで立花達の元へと行った。
「……このこと、サクヤさんにバレないようにしないと……」
俺は氷室先輩の背中を眺めながら、ポツリ、とそう呟いた。
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