第174話 招かれざる客

 昼休みの修羅場? を乗り越えた俺は、放課後になり、サンドラと一緒に生徒会室に向かっている。


 というか、サンドラは俺の説明に納得してくれたけど、先輩と立花は結局最後までの納得がいかないといった態度だった。

 ……もう二度と、こんな勝負はやらないぞ。


「それにしてモ……ヨーヘイはあんなに食べてお腹、大丈夫なんですノ……?」

「いや……正直言って、お腹が張ってヤバイ」

「ですわよネ……」


 などと心配した様子を見せるけど、サンドラだってこうなった原因の一人なんだからな?


「それにしても、学園祭も終わったというのに、一体何の用なのかしラ?」

「ウーン……まあ、生徒会の仕事なんて、年中あるモンなんじゃないの? 知らんけど」


 そう、俺達は昼休み終了間際、放課後は生徒会室に集合するように指示を受けたのだ。

 具体的な話は聞いていないけど、やっぱり生徒会の仕事じゃなかろうか。普通に領域エリアに行くだけだったら、いつものように合流すればいいだけだもんな。


「そんなことより、とにかく急ごうぜ。先輩も氷室先輩も待ってるだろうし」

「まあ、そうですわネ」


 ということで、俺達は足早に生徒会室に向かい、扉を開ける。


「二人共、来たか」

「お疲れ様です」


 何やら話をしていた二人がこちらへと振り返る。

 まあ……昼休みの遺恨が残ってないようでなによりだ。


「それで、俺達を呼んだのは……?」

「うむ。実は学園祭が終われば、今度は体育祭が待っているのだが……氷室くん」

「はい。元々、体育祭に関しては生徒会の業務ではないのですが、今年に限っては少々事情が変わりました」


 先輩から話を引き継ぎ、氷室先輩が説明を始める。


「といいますと?」

「今年の体育祭は、“メイザース学園”との交流戦になります」

「っ!」


 その言葉に、俺はピンときた。

 というのも、氷室先輩が言った“メイザース学園”との交流戦……これは、『まとめサイト』にあったメインシナリオの一つで、ここで主人公は仲間やヒロイン候補と出会う。


 そして……物語終盤まで関わってくるライバルキャラ・・・・・・・とも。


「そういうわけでな。お父……学園長からの指示で、体育祭でのメイザース学園との調整を生徒会で行うように、とのことだ」

「そうですか……」

「それデ、調整と言われてもワタクシ達は何をすればいいんですノ?」


 俺が頷いていると、サンドラが先輩に質問した。


「ああ。体育祭は一か月後に開催されることになるが、生徒会としてすることは主に三つ。一つはメイザース学園の生徒会と、当日に向けたプログラムや受け入れについてなどの調整だ」


 ふむ……まあ、交流戦ってことだし、お互いにとってフェア・・・になるようにすり合わせをするのは当然、か。

 それに、『まとめサイト』によれば、メイザース学園はうちのアレイスター学園を目の敵にしていて、必勝を期してやって来るって設定だからな。メンドクサイ。


「二つ目は、メイザース学園の受け入れ態勢の準備。こちらは生徒会がメインというわけではなく、向こうとの調整内容を踏まえて、先生達に段取りをしてもらう。まあ、先生側との橋渡しだな」


 ふむふむ、これも当然といえば当然だ。それに、基本的には先生達の仕事っぽいし、ほうれんそう・・・・・・だけしっかりしていれば大丈夫だろう。


「そして、最後の三つ目。むしろこちらが本題というやつでな……」


 そう言うと、先輩が言い淀む。

 だけど、俺はその内容を『まとめサイト』で知っている。

 というか、むしろこのためだけに、今回の交流戦が組まれたようなものだしな。


「……体育祭の大トリとして、お互いの学園代表による精霊ガイストでの団体戦を行う」

「ッ!」


 それを聞いたサンドラは思わず息を飲む。

 氷室先輩はあらかじめ先輩から聞いていたのか、表情に変化はない。といって、氷室先輩はいつも表情が変わらないけど。


「それデ……その学園代表というのは、どうやっテ……?」

「それは、メイザース学園との調整の場で団体戦の方法を決めてから、お互いの学園で代表を決定する方法を決めることになる、な」

「…………………………」


 先輩の説明を聞き、サンドラが唇をキュ、と噛んだ。

 元々、『レイフテンベルクスカヤ家』……プラーミャや両親に認めてもらうために頑張ってきたサンドラだ。今はもうそんな考えじゃないとしても、それでも、思うところがあるんだろう。


 そう、思ったんだけど。


「フフ……」

「? サンドラ?」

「いい機会ですワ……! この代表戦で、ワタクシはヨーヘイに宣戦布告しますわヨ!」

「へ……?」


 突然サンドラにビシッと指を突きつけられ、俺は思わず呆けた声を漏らす……って!?


「いや、俺!? なんで!?」

「決まっていますワ! ワタクシはヨーヘイに見て欲しいんですノ! 感じて欲しいんですノ! アナタのおかげで強くなった、このワタクシの姿ヲ!」

「っ!」


 胸に手を当て、不敵な笑みを浮かべるサンドラ。

 その姿に、俺の胸もかあ、と熱くなる。


 はは……! だったら、俺も受けるしかないよな!


「ああ……だったら見てやるよ! 感じてやるよ! 俺と[シン]の、全身全霊で!」

「エエ!」


 その時。


「コホン」


 俺とサンドラが最高潮に盛り上がっているところに水を差すように、氷室先輩が咳払いをした。

 ええー……もう少し、空気を読んで欲しいんだけど……。


「お二人共、盛り上がっているところ悪いんですが、まだ選抜方法が決まっていませんので」

「「あ……」」


 そうだった……まずはメイザース学園と代表戦の内容について決めてからだった……。

 えーと、『まとめサイト』では確か、代表は主人公を除くキャラで、能力値の高い奴から順に選ばれる仕様だったな。

 で、桐崎先輩は最強キャラなのに、何故か代表には選ばれないという。


 まあ……準ラスボスがこんな序盤で登場するわけないんだけど。


「ふふ……二人の気合いや想いは分かった。なら、できる限り二人の期待に添えるように、メイザース学園と調整しよう」

「! ありがとうございます!」

「ありがとうございますワ!」


 微笑む先輩に、俺は頭を下げてお礼を言った。

 もちろん、サンドラも一緒に。


「うむ。それで、その調整の日だが、明後日の昼休みに顔合わせも兼ねて昼食会ということにしてある。もちろん、二人にも同席してもらうぞ?」

「はは! 当然ですよ!」

「エエ! むしろ、これから戦う相手ですもノ! この目で確かめておかないト!」

「ふふ……話は以上だ。では、解散としよう」

「「「はい」」」


 ……といっても、この後も四人で領域エリア攻略に行くんだけど。


 ◇


 二日後の昼休み。


 メイザース学園の生徒会の面々を出迎えるため、俺達生徒会は校門の前で待つ。


「それにしても、遅いですね……」

「いや、さすがにもう来ると思うのだが……」


 そう尋ねると、先輩は時計を見て首を傾げる。

 いや、予定では昼休み早々にやって来ることになってるんだけど、既に三十分以上経っている。このままだと、昼休みが終わりそうなんだけど。


「マアマア……どちらにしてもワタクシ達は、メイザース学園との調整で午後の授業は出られないのだかラ」

「ま、まあ、そうなんだけど……」


 すると。


「……どうやら来たようです」


 氷室先輩の言葉を受け、俺達は校門の先から伸びる通学路を見やると……確かに、この辺りじゃ見かけない制服を着た人達が四人、向こうからやって来る……っ!?


「アイツはあああああああああああッッッ!」


 その四人を見て、先輩が大声で吠えた。

 もちろん俺も、ソイツ・・・の姿を見た瞬間、腹の底から怒りがこみ上げていた。


 何故なら。


「うふふ……ごきげんよう」


 現れたのは、俺を“グラハム塔”領域エリアの第二十一階層で置き去りにしたクソ女・・・


 ――“木崎セシル”なのだから。

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