第189話 クラス代表選考会 予選②

「では……始め!」


 一抹の不安を覚える中、一―二の担任である伊藤アスカの合図で立花の試合が始まった。


「さあ、おいで……ボクの精霊ガイスト


 主である立花の召喚に応じ、一体の精霊ガイストがまるで立花を守るかのように姿を現したが、もちろん、あの[ジークフリート]じゃない。


 それは。


「[伏犠ふっき]……」


 俺はその精霊ガイストの名をポツリ、と呟く。

『ガイスト×レブナント』の初回予約特典として封入されているコードを入力することで手に入る、主人公のために用意されたアパター。

 その姿は、精悍な顔立ちをした青年が中華風の赤い甲冑に身を包み、その両手には不釣り合いなクレイモアを携えていた。


 とはいえ、[伏犠]はあくまでアバターでしかなく、その能力は[ジークフリート]と全く同じ。

 これだと、せっかくクラスチェンジしたのに何の恩恵もないんじゃ……。


「えーと……みんな、かかってこないの?」


 そんな俺の不安とは裏腹に、立花は頬をきながら苦笑すると、対戦相手のクラスメイト達に声を掛けた。

 その余裕の態度は、その四人のクラスメイトの逆鱗に触れたようだ。


「立花くん、いい度胸じゃない! 私達四人が同時¥相手したら、いくら立花くんでも無理でしょ!」

「そうだぜ! 調子に乗り過ぎなんだよ!」


 そう叫ぶと、四人の精霊ガイストが一斉に襲い掛かる。


 だけど。


「「「「っ!?」」」」

「あはは、ゴメンね?」


 立花がはにかみ、[伏犠]はそのクレイモアを無造作に振り回すと、四人の精霊ガイストは軽々と舞台の端まで吹き飛ばされた。


「っ! ……その剣、相当厄介ね」

「えへへ、でしょ?」


 悔しそうな表情を浮かべながら睨む女子生徒に対し、立花は嬉しそうに微笑んだ。

 俺には、ただ剣を振り回しただけにしか見えなかったけどなあ……。


「クソッ……! 俺の精霊ガイストの身体に触れてない・・・・・のに弾き飛ばされたぞ……!」

「っ!?」


 苛立たし気に放った男子生徒の言葉に、俺は息を飲んだ。

 触れてない《・・・・・》ないのに弾き飛ばされたって、どういうことだ!?


「みんな、離れて攻撃するぞ!」


 四人は立花から距離を置き、一斉に魔法による攻撃を仕掛けた。


「あはは、【玄武】」


 [伏犠]は両手を前にかざすと、四人の精霊ガイストが放った魔法がその手前で全て霧散した……って!?

 そこには、[伏犠]の前方を完全に覆うかのように亀の甲羅のような盾が浮遊していた。


「チクショウ! なんだよその盾は!」

「これ? これは[伏犠]のスキルの一つで【玄武】と言ってね、どんな攻撃でも防ぎ切ってくれるんだ」


 へえ……つまり、サンドラの精霊ガイスト、[ペルーン]の【ガーディアン】みたいなモンか。

 でも、【ガーディアン】と違って前方だけしか展開できないみたいだし、汎用はんよう性はそこまで高くなさそうだな。


 というか……なんでただのアバタースキンが変わっただけなのに、[ジークフリート]とスキルまで変わっちまってるんだよ!?


「あはは、【青龍】」


 立花がそう告げると、[伏犠]のクレイモアの刃に青色の龍がまとわりつくようにとぐろを巻いていた。

 あ、さっきアイツ等を弾き飛ばしたのは、ひょっとしてあの青い龍の仕業か?


 そして[伏犠]がまた無造作に二、三回クレイモアを振ると。


「グアッ!?」

「キャッ!?」


 クラスメイトの二人が、突然吹き飛ばされて場外へと落ちた。


「クソオオオオオオオッッ!」


 残る二人のうち、男子生徒のほうがたまりかねて[伏犠]へと突っ込む。


「食らえっ! 【アイスバウン……「あはは、コメンね」……なあっ!?」


 だが、立花の[伏犠]は相手の精霊ガイストをクレイモアの腹で横薙ぎに叩きつけると、先の二人と同じように場外へと弾き飛ばされた。


「うん……あと一人、だね」


 そう言うと、舞台の上に残る最後の一人……クラスメイトの“菊池きくちショウコ”を見据えた。


「クッ……! ま、負けない! 私だって……私だって、代表になりたいもん! 立花くんにも、サンドラさんやプラーミャさんにも、負けたくない!」


 菊池さんは立花を睨みつけ、会場に響き渡るほどの声で叫んだ。

 だけど、俺の名前は含まれてなかった……まあ、俺も元々、クソザコモブ……「そして!」……お、まだ何かあるのか?


「そして……私だって、これまで精一杯頑張ってきたんだ! 毎日! 毎日! あの・・望月くんみたいに・・・・・・・・!」

「っ!」


 ここで、まさか俺の名前が出てくるなんて思わなかった。

 というか……俺って知らないうちに、誰かの目に留まってたりしてたんだな……。


「……ヨーヘイ」

「あ……サンドラ……」


 見ると、サンドラが俺を見つめていた。

 それも、すごく……誰よりもすごく、嬉しそうに微笑みながら。


「分かっタ? ヨーヘイって、アナタが思っているよりも、もっともっとすごいんですのヨ? だっテ……ヨーヘイですもノ!」


 はは……クソザコモブの俺なんて、先輩とサンドラ以外、誰も気に掛けてないと思ってたんだけどなあ……。


「だかラ、ヨーヘイ……これからも、ワタクシ達は目一杯アナタを追いかけるんだかラ!」

「あ……うん……」


 俺はうつむきながら、サンドラにそう返事するのが精一杯だった。だって、今の俺の顔、誰にも見せられないほど熱いし、絶対に変な顔してると思うから。


 そして。


「それまで! 勝者、“立花アオイ”くん!」


 結局、菊池さんは場外に飛ばされ、立花が第一組の予選通過者となった。

「ホラ……せっかくですシ、手を貸してきてあげなさいナ」


 そう言うと、サンドラがポン、と俺の背中を押した。


「はは、ちょっと行ってくるよ」


 俺は場外で倒れる菊池さんのそばへ駆け寄り、ス、と手を差し伸べた。


「菊池さん」

「あ、あははー……負けちゃったー……やっぱり立花くんは強かったよー……」

「そっか。でも、菊池さんもナイスファイト」


 菊池さんが俺の手を取って立ち上がると、ポンポン、と服についた汚れを払う。


「しょうがないから、望月くんが仇を取ってよ。私達の代表・・・・・として」

「! ああ……!」


 そうだな……立花やサンドラ、プラーミャは『ガイスト×レブナント』の主人公やメインヒロインで、俺や菊池さんは、基本的にただのモブ・・・・・、だもんな。


 じゃあ……そのモブの矜持ってヤツ、この俺が見せてやる!


 期待の眼差しで見つめる菊池さん達を見つめながら、俺は心の中でそう誓った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る