第345話 出逢ってから、ずっと

「おはようございます!」


 賀茂を倒した次の日の朝、いつもの待ち合わせ場所で俺を待つサクヤさんに元気に挨拶をする。


「ふふ……おはよう、今日はいつになく元気だな」

「はは、そうですかね」


 サクヤさんに指摘され、俺は思わず頭をいて苦笑する。

 まあ、本音を言えばカラ元気に近いんだけど。


 といっても。


「あ……」

「ふふ……私には、無理をして元気に振舞う姿を見せなくても、いいんだぞ……?」


 そんな俺の気持ちに気づいてるサクヤさんは、俺の手をキュ、と握り、柔らかい微笑みを浮かべた。

 はは……やっぱりあなたにはお見通しですよね……。


「それで……賀茂と、彼女達のことについてだが……」


 そう言うと、サクヤさんが少し言い淀む。

 俺が無理して振舞っていることもあってか、サクヤさんは気遣ってくれているんだけど……。


「サクヤさん、教えてください。アイツ等がその後、どうなったのかを」

「う、うむ……」


 それからサクヤさんは学園に着くまでの間、訥々とつとつと説明してくれた。


 まず、賀茂カズマについては、やはり今回の事件の全ての黒幕ということで、“GSMOグスモ”に連行されて取り調べを受けている最中とのことだ。

 ただ、昨日の取り調べの状況では『コンナハズジャ……』だの、『オレハ選バレタ人間ナノニ……』だの、ブツブツと愚痴をこぼしてばかりで、ヒロイン達に対して行った数々の所業については完全黙秘をしているらしい。


「……賀茂カズマの供述については、これからも取り調べを行って全容を明らかにするとのことなのだが、あの男はもう精霊ガイスト使いではない。それで、引き続き“GSMOグスモ”の管理下に置くのか、それとも一般の警察機関に委ねるのか、整理しあぐねているそうだ」

「ああー……」

「ただ、お父……学園長としては、引き続き“GSMOグスモ”の管理下に置きたいらしい。精霊ガイスト使いが自身の精霊ガイストを失うという現象も、今までに例をみないことであるからな」


 確かに『攻略サイト』に記されているゲーム本編の内容を見ても、精霊ガイストが消えてなくなるなんてイベントはない。

 研究者でもある学園長……藤堂マサシゲからすれば、恰好の研究対象だろうな。


「あとは……何やら『攻略サイト』などという言葉を時折呟いているらしい」

「っ!? ……『攻略サイト』、ですか……?」

「ああ……だが、それに関しては“GSMOグスモ”もゲームか何かの話だろうということで、それ以上のことはないんだがな」


 ふう……『攻略サイト』って言葉が出た時はヒヤリとしたけど、特に興味を持たれなくてよかった。

 あんなものが知れてしまったら、大混乱におちいるところだからな……。


「じゃあ賀茂に関して、しばらくは“GSMOグスモ”が取り調べを行うような形になるんですね」

「まあ、そういうことだ」


 精霊ガイストも失くしてしまったし、賀茂の奴もさすがに今後は俺達に絡んでくることもなく、これからはモブ以下・・・・……いや、犯罪者・・・としての人生を歩んでいくことになるんだろうな……。


「次に、小森チユキをはじめとした女子生徒達だが……」


 ヒロイン達については、本人達が素直に自供していることや、賀茂カズマに弱みを握られて操られていたことを考慮し、ほとんどが停学処分程度で済みそうとのことだ。


 とはいえ、サンドラとプラーミャの部屋を襲撃した実行犯である吉川サヤと、姿は確認できなかったものの玄関側から襲撃していたもう一人のヒロインの正体……小森チユキは、退学処分になるらしい。

 これも、吉川サヤと小森チユキが自供したことで分かったものだ。


「……まあ、それも午前中に行われる職員会議の結果次第だがな」

「そうですか……」

「“GSMOグスモ”の職員達も不思議がっていたよ……どうしてあんなガラクタ・・・・のようなもの・・・・・・を奪われたからといって、犯罪に手を染めてしまうほどに追い詰められていたのか、と」


 そう言って、サクヤさんが苦笑した。

 それもそうだろう。他の人からすればキーアイテム・・・・・・なんて、なんの価値もないからな。


 だけど……『ガイスト×レブナント』のキャラにとっては、何物にも代えがたい、想いの詰まった宝物・・だ……。


「ふふ……だが、私には彼女達の気持ちは分かる。私だって、もし君がくれたを奪われてしまったら、どんなことをしてでも取り戻そうとするだろうから……」


 サクヤさんは俺のつかんだ右手ごと自分の左手をかざし、“シルウィアヌスの指輪”を嬉しそうに見つめる。


「でも……退学となる小森チユキと吉川サヤはともかく、それ以外の生徒達にとっては、停学後の復帰はつらいものになるだろう、な……」


 そう……ヒロイン達がしたことは、全て“GSMOグスモ”に自供しているのだ。

 当然、賀茂にされたこと・・・・・・・・も、学園に知られてしまうわけで。


 すると。


「……ヨーヘイくん、これだけは覚えていてくれ」


 急に立ち止まり、正面に立ったサクヤさんが真紅の瞳で俺を見つめる。


「……何を、ですか……?」


 俺は、おずおずと尋ねると。


「今回の事件、ヨーヘイくんは頑張った。彼女達の大切なもの・・・・・を取り戻し、彼女達に返してあげたことも含めて。だから……彼女達の顛末てんまつがどうだったとしても、私は君を誇りに思う」

「……ありがとうございます」


 俺はサクヤさんにお礼を言うと、うつむいてしまった。

 サクヤさんは褒めてくれたが、俺のしたことは結局、ヒロイン達の人生をメチャクチャにしたわけだから。


 なのに。


「あ……サクヤさん……」

「私がこんなことを言ったところで、誰よりも優しい君が苦しんでいることも分かる。彼女達を不幸にしたんだと、自分自身を責めていることも理解している……だから君の苦しみを、私にも分けてくれ。君が苦しむのなら、私も一緒に苦しむ。自分が罪深いと考えるなら、私も一緒にその罪を背負う。だから……」


 そう言って、サクヤさんが俺をギュ、と強く抱きしめてくれた。

 本当に、あなたって人は……。


「はい……ありがとうございます……」


 俺は……俺は出逢ってからずっと、あなたに救われています。


 ――世界一大切な、あなたに。

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