第292話 勉強会の後は、みんなで食事

「うぐう……」


 “ぱらいそ”領域エリアを出た後、俺とサンドラは先輩の家でテスト勉強の真っ最中なんだけど……チクショウ、分からん。


「ふふ……望月くん、ここはこの式を代入してだな……」


 そんな俺の様子を見た先輩は、苦笑しながら俺の隣に来て顔を寄せ、丁寧に教えてくれた。

 というか先輩、そのー……大きな胸が背中に当たって、集中できません。


「……ということだから、もう一度解いてみるといい」

「は、はい!」


 だけど、全然頭に入ってなかったとはとても言えず、俺は自力で問題を解いてみる。


「ア、ここ間違えてますわヨ? これハ……」


 するとサンドラがすかさず俺のミスを指摘し、詳しく説明してくれた。サンドラ、ナイス!


「ふむ……では、今日のところはここまでにしようか」

「終わったー!」


 先輩の終了の合図と共に、俺は拳を突き上げた。


『はう、終わったのです?』


 すると、今まで姿を見せなかった[シン]が、ヒョコッと現れた。


「おう、終わったぞ!」

『はうはうはう! やっとアイスが食べられるのです!』


 コノヤロウ……マスターの俺が、口から魂抜けてたっていうのに……!

 そんなはしゃぐ[シン]をジト目で見ながら拳を震わせていた、その時。


「お嬢様、皆様、食事の用意ができました」

「うむ! みんな、食堂に移動しよう!」

「「はい」」


 迎えに来てくれたカナエさんの隣を、先輩が並んで歩く。

 で、俺達はその後をついて行ってるんだけど……先輩、メッチャはしゃいでません?


「マ、マア、先輩は食べることが好きな方ですかラ……」


 サンドラは少し顔を引きつらせながら、そう呟いた。

 まあ、そこが先輩の魅力の一つではあるんだけど。


 そして、俺達は食堂へと到着すると。


「おお……!」


 なんと、テーブルの上に所狭しと豪華な料理の数々が並べられていた。

 何ですかコレは。誰かのお誕生部パーティーですか?


「お嬢様からのオーダーで、腕によりをかけさせていただきました」

「は、はあ……」


 恭しく一礼をしながらそう告げるカナエさんに、俺には曖昧な返事しかできない。


『[シン]のアイスは! アイスはどこなのです!』

「はい、こちらにご用意しております」


 慌ててテーブルの上を確認する[シン]に、カナエさんが指し示す。

 そこには……アレって、冷蔵庫?


「こちらの冷凍庫に、[シン]様のための“アイスケーキ”をご用意いたしております」

『はうはうはうはうはう! ま、まさか伝説の“アイスケーキ”なのですか!?』


 いや、そんな伝説聞いたことねーよ。

 というか。


「なんだよ[シン]。アイスケーキ食べたかったの?」

『はう! 当然なのです! 前にお母様と一緒にテレビで見た時から、[シン]の憧れなのです!』


 グイ、と思い切り詰め寄って興奮しながら訴える[シン]。

 というか[シン]、何気に母さんとテレビ見たりしてるんだな。


「ふふ……ではみんな、料理が冷めないうちに席に着いて食べよう」


 澄ました様子で静かに告げる先輩。

 だけどその真紅の瞳は、さっきから料理にばかり目がいってますよ?


 ということで、俺達は席に着くと。


『「「「いただきます!」」」』


 手を合わせ、食事を始めた。


 ◇


「ふう……ごちそうさまでした」


 いやー、食べたなー……。

 というか、普段めったに食べられないようなものばかりな上、カナエさんの料理は本当に美味い。


「うむ! やはりカナエさんの料理は最高だ!」


 先輩はといえば、食べるスピードが一向に衰えず、今も次々と口の中に放り込んでいる。

 ウーン、あの主張が激しい大きな胸を考えたら、それだけ栄養が必要なのかもしれない。


「ワ、ワタクシはもう無理ですワ……」


 頑張って食べてはみたものの、元々少食なサンドラはあまり食べられずに机に突っ伏していた。

 多分、この差が胸のサイズに現れてるんじゃないだろうか。


『はうはうはう! まだまだ食べられ……あーっ! 関姉さま食べ過ぎなのです!』

『……(プイ)』

『……! ……!』


 コッチはコッチで[シン]と[関聖帝君]がアイスケーキを取り合いしていて、それを[ペルーン]が必死に仲裁に入ってる……な、なかなか見ない光景だな……。


「ふふ、[関聖帝君]もアイスケーキには目がないか」

『(コクリ!)』


 先輩の言葉に力強く頷く[関聖帝君]。

 もし俺が別の世界の人間で、『ガイスト×レブナント』のゲームをプレイしてたら、まさか準ラスボスと最強の精霊ガイストが食いしん坊だなんて、思いもしなかっただろうなあ。二次創作ではありそうだけど。


「それにしても、カナエさんってどちらで料理を覚えたんですか?」


 おかわりの水を注いでくれたカナエさんに、俺は何となく聞いてみる。

 いや、カナエさんの見た目の年齢って大学生……いや、高校生っていっても通用するくらいなんだけど、この料理のレパートリーの数々といい、礼儀作法といい、一朝一夕で身につくようなものじゃないと思うんだけど。


「私が藤堂家にお仕えするようになったのは、今から五年前。ちょうどお嬢様が中学生になられた頃です」


 へえー……って、そうするとカナエさんの年齢は一体いくつなんだ?


「……もう五年になるのだが、カナエさんの容姿はその頃から一切変わっていないんだ……多分、二十……「お嬢様はデザートはいらないようですね」……あああああ!? ち、違う! 違うんだ! ごめんなさい!」


 カナエさんの非常な一言に、先輩が慌てて謝る。

 やっぱり、女性に年齢を聞いたりするのはタブーだよなあ……俺、聞かなくてよかった。


 その後、カナエさんに何とか許してもらい、デザートのシフォンケーキを食べてご満悦の先輩を眺めながら、俺は口元を緩めた。

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