第343話 温王に過ぎたるもの
「どうりゃあぁぁぁぁっ!!」
豪快な気合いの声とともに人が降ってくる。
やっぱり聞き覚えのある声と姿。
ヴァルキリーではなく、ドワーフ族の戦士だ
豪腕アレクサンドラ。
振りかぶった戦斧は、雷帝の斧グランダリル。
「なんだかよくわからないけど! そのバケモノをぶっ飛ばせばいいんだね!」
なんてこったい。
事情がわかってない人を召喚しちゃったよ。魔王イングラルったら。
無茶苦茶すぎるな。
ピヤーキーの上で手を振っている場合じゃないのよ?
一直線に落ちてくる赤銅色の髪の女戦士。
そのまま地面にたたきつけられた間違いなく死んじゃうと思うんだけど、グランダリルを使ってうまいこと軌道を微調整している。
そういえば、カダノトーアとの戦いに乱入したときも、高い建物から飛び降りたんだったな。このひと。
迎え撃つように数十の触手が伸びていく。
やばい。
あれにさわられたらおしまいだ。
「させません! 八つ裂きリング!!」
「ホーリーシールドもですわ!」
迫る触手ゑ氷の輪が切り裂き、アレクサンドラの前に光輝く半透明の盾が浮かぶ。
うまい。指示なんか出していないけどミリアリアとメイシャは最適解をつかんだな。
なにが最適かって、アザトースの目にはアレクサンドラの落下攻撃がよほど重要な攻撃にみえたってこと。
ここまで手厚く守るんだからね。
警戒した。
してしまった。
「なにかあると思わせるだけで、判断力の何割かは奪われる。だったな、お母さん」
アザトースの注意が上空に向いたその一瞬、砂時計から落ちる砂粒が数えられるほどのわずかな隙を見逃さず、タティアナがグングニールを突き込む。
そして、彼女に勝るとも劣らない勝負勘の持ち主が、あと二人いるんだよ。
「せい!」
「とあー」
七宝聖剣と炎剣エフリートが、同時にアザトースを切り裂いた。
ふたたび響き渡る絶叫。
気が狂いそうなほど耳障りだけど、二回目ならなれたものだ。
めちゃくちゃに振り回される触手が、次々に地面に縫い付けられていく。
ユウギリの矢によって。
「目をつぶしても復元してしまうなら、復元しても意味がない方法にしてみました。お味はいかがですか」
直接的な戦果を求めるのではなく、アザトースの動きを阻害するという手段を執ったのだ。
さすがクレバーなユウギリである。どこまでもそつがない。
アレクサンドラが地上に到達するまでの数瞬にこれだけのことが起こった。
ほとんど同時に。
どれに対応すべきがアザトースといえども迷う。
「あたいのことを忘れるなよ。さみしいだろ」
その瞬間にグランダリルが叩きつけられ、魔皇の本体を存分に切り裂いた。
「ゲ……ガ……」
直接攻撃だけで、グングニール、七宝聖剣、エフリート、グランダリルのものを一度に受けたのである。たまらずよろめくアザトース。
「グアアアアアァァァァァ!!!」
そしてよろめいた先にあったものは、ホーリーウェポンのかかったマキビシが原だ。
もちろんメグの仕業である。
仲間たちがアザトースをふらつかせると信じて、隠形したままカルトロップをまいていたのだ。
「たたみかけるぞ! 全員、
叫びながら、俺も皓月千里を何発も撃ち出す。
もう防御のことは考えない。
ここで決める。
「こちらはこれで打ち止めです!」
俺の横に立ったユウギリが腰の矢筒から、残った矢をすべて抜き去って発射する。
斉射を三回。
三十本の矢が、同時にアザトースに襲いかかった。
地面に触手を縫い付けられ、聖なるマキビシが体中に刺さった邪神は避けるとか防ぐどころではない。
まともに食らってしまう。
ハリネズミのような姿になり、怒りの咆哮をあがる。
「ミリミリー よろしくねぃ」
その口の中に炎を吹き上げながらエフリートがものすごい速度で飛んでいく。
投擲したのか!
そのスピードならたしかに避けようがない。
けど、アイシクルランスの弾速はそこまで速くないぞ。
「ぶっつけ本番は勘弁してください! 得意じゃないんですから」
フェンリルの杖から飛び出す氷の槍。
「アイシクルランス!
縦一列に並んで。
途中一本目、二本目って脱落するたび、先端部分の速度が上がっていく。
なにあれ?
どういう理屈でそうなってんの?
「ミリミリならできるのだぁ」
サリエリが笑った瞬間、アザトースの口の中でエフリートとアイシクルランスが衝突する。
轟音とともに巨体が大爆発した。
閃光の中に消えていく魔皇。キノコ型の雲が湧き上がり、にわか雨が降り出す。
それで終わってくれればよかったんだけど、至高神が取りこぼしてしまうほどの邪神はさすがにしぶとい。
爆煙がはれると、不格好な人型の怪物が残っていた。
手と足があり、顔とおぼしきところには無数の目がある。
「とっさに体を捨てて作り直したか」
「……よくしっているな。稀代の軍師ライオネル」
顔の中心府にある口のようなものが動くけど、そこから声が出ているのかはわからない。
「ニャルラトテップが同じことをしたからな。アンタができないとは思わないさ」
「なるほど」
にやりと笑みのカタチにゆがむ口。
ぎょろりと無数の目が動く。
「さあ、第二ラウンドとしゃれ込もうではないか」
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