第278話 突破!


 名状しがたき教団が拠点にしている廃城は、わりと普通の山城だ。

 草原にぽつんと立っているわけでもないので、まず近づくのに苦労する。

 道の左右にある森の中に兵を伏せられたら、そりゃもうしんどいんですわ。


「城の正門まで、敵はいないス」


 すっとあらわれたメグが報告してくれた。

 俺は軽く頷く。


 隠形して先行偵察していたのである。

 彼女の働きがあってこそ、俺は作戦を立てることができるんだ。


「博士。教団は戦力を集中して迎え撃つつもりのようです」

「兵を伏せてないというだけで、相手の作戦まで見えるものなのかね。軍師というのは」


 ため息とともに首を振るアーミテイジ博士。

 なんだか疲れたような表情で。


「読んだだけですよ」


 兵を伏せて散発的に奇襲するって戦法は、俺たちの損害も大きくなるけど敵もたくさん死ぬ。

 けっこう鉄血な作戦なんだ。


「でも俺たちを撤退させたいなら、鉄血に徹するのも選択肢なんです」


 ぶっちゃけ消耗戦である。

 損害が大きくなりすぎたら、こっちとしては退くしかない。


「しかし彼らは選択しなかった。そのこころは?」

「士気が下がりすぎていて、部隊を外に出しておくとそのまま逃げちゃうってことでしょうね」


 狂信者なんてものは、基本的に自分の命を惜しまない。

 だけど徒死いぬじにとなれば話は別だ。

 ここで、イタクァを倒したって事実が生きてくる。


「少数の部隊で迎撃に出ても意味がない。意味のない戦いで死ぬのはまっぴらだ、とね」

「それで、こちらを引きずり込んで袋叩きにしようって話なるわけか」


 ふーむと博士が腕を組む。

 理解が早くて助かります。


「そんなわけで、城門までは安全に進むことができます」

「君が敵でなくて良かったよ。ライオネルくん」


 褒められたと思っておきますよ。博士。






 フレアチックエクスプロージョンは使えない。

 本当は、こいつで城門を吹き飛ばしてしまうのが一番ラクなんだけど、またさっきみたいに魔力を使われて悪魔召喚をされたら大変だからね。


大地の槍グランドランス!」


 ミリアリアの撃ち出したぶっとい岩の鑓が、轟音とともに城門にぶつかる。

 破城槌がわりだ。


 フェンリルの杖で強化できるのはアイシクルランスだけだから、グランドランスは単発でしか撃てないんだよね。

 なので、城門が破れるまで何発も何発も撃ち込まないといけない。


 もちろん敵も黙って見てるわけじゃない。城壁の上から矢とか魔法とか、ばっしばし飛んできてる。

 魔術結社の魔術師たちが防御魔法を展開してるけど、それでも怪我人が続出する。


「ライオネルくんなら、城門もあっさり突破できるかと思ったよ」

「そんなわけないでしょうが」


 アーミテイジ博士の言葉に、俺は肩をすくめた。


 城攻めに奇策はない。

 夜陰にまぎれて少人数が侵入するって方法もあるにはあるんだけど、それって失敗すると敵中に孤立することになっちゃうからね。

 簡単に実行できる作戦じゃないんだ。


「城門を破って突入して、城内の拠点を制圧していく。それしかありませんよ」

「普通すぎるな。つまらんつまらん」

「博士は俺になにを期待してるんですか」


 苦笑しか出ないよ。

 そうこうするうち、十数発目のグランドランスがついに城門を破った。


 間髪入れずに飛び込んでいくアスカ。

 それをフォローするように駆けるサリエリ。

 一拍遅れて、西方魔術結社の方々が突入する。


「お疲れさん。ミリアリア」


 ちょっとずれてしまったとんがり帽子をなおしてやりながら労う。


「グランドランスをこんなに連発したのは初めてですよ」


 ふふっとミリアリアが笑った。

 あんまり使いどころのない魔法なんだってさ。


 たしかに、炎の槍や氷の槍のほうが使い勝手が良いような気もするよね。

 こいつはかなり物理攻撃に近いから、普通に槍部隊がズドンと突き込んでも同じだし。


風の槍エアランスよりはマシなんですけどね」

「そうなのか」

「使えなすぎて一般的な魔法コモンマジックの教本に載ってないレベルです。かわりに風の刃エアカッターが載ってます」


 見えないし、まっすぐしか飛ばないし、すぐに霧散してしまうんだそうだ。

 いわれてみると、風の魔法は切るイメージの方が強いね。


「疲れただろ。少し休んでいろ」

「大丈夫です。いけますよ」


 俺の提案には、にやっと笑うミリアリアだった。


 案の定、名状しがたき教団の士気は底まで落ちてるっぽい。

 こちらが一歩進むと、敵は二歩も三歩も後退するような有様である。


 城門突破から小半刻(約十五分)もしないうちに、四つの監視塔すべてが陥落し、正面玄関も破られ玄関ホールまでこちらの手に落ちた。


「歯ごたえがなさすぎて、怖いくらいだよ」

「油断はしないでくださいね。博士」

「判っている。勝ち戦のときこそ気を引き締めねばな」


 俺の言葉にアーミテイジ博士が頷き、魔術師たちに油断するなと檄を飛ばした。

 まだ敵は三百人近く残っているはずだから、ほんとうに足下をすくわれる場合だってあるのである。


「メグ。下を探ってくれるか?」

「了解ス」


 すうっとメグの姿が消えた。

 隠形して俺の意識の外に出た、と頭では判っているんだけど、相変わらず本当に消えたようにみえるよね。


「ハスターとやらを呼ぶとしたら礼拝堂だろう。イハ・ンスレイにあったようなやつがどっかにあると思うんだ」


 姿の見えないメグに方針を伝えておく。


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