第291話 ガイリアはお祭り騒ぎ


 マンティコアを倒した俺たちは、あらためて広間を見回す。

 下への階段と、お、宝箱発見。


 誰も潜ったことのない初物・・のダンジョンには、これがあるから美味しいんだよな。

 モンスターがため込んだものではなく、最初から置かれていたやつだ。


 ミノーシル迷宮で一回、ラクリス迷宮でも一回、たまたま俺たちはそういうのを発見している。

 金銀財宝もさることながら、古代魔法王国時代のマジックアイテムなんかが手に入ることもあるんだ。


 アスカが予備武器にしている魔法のマインゴーシュも、そうやって手に入れた逸品だね。

 まあ、あいつが左手にまで武器を装備しないといけない状況なんて、そうそう滅多にないと思うけど。


「オレの出番スね」


 両手をわきわきと動かしながら、メグが宝箱に近づいていく。

 戦闘で役に立たなかったと嘆いていたけど、彼女の本職はこっちだ。


 多くの場合、宝箱には罠が仕掛けられている。

 ちくっと針が飛び出すものから、大爆発を起こすようなものまで、ものすごく種類も豊富なうえに、ひとつひとつ解除方法が違う。


 仕掛けた人間の癖も出るってメグがいってたな。

 罠を解除する作業ってのは、迷宮製作者クリエイターの履歴書を読むようなものなんだってさ。


 どうして、そり場所にそういう罠を仕掛けたか、それを読み解かないで解除作業をしちゃうから、素人の斥候は罠を作動させちゃうんだそうだ。


「……なるほど。スリルと冒険スか。だから……」


 メグの手が動く。

 まるでリュートを操る吟遊詩人のように、繊細に、大胆に。


「マンティコアを倒して浮かれていないかどうか、試してみたんスね」


 にやりと笑う。

 カチリと解除の音。そしてカチャリと今度は施錠したっぽい音。


「一つ目の罠を解除して、仕掛け直し、それからでないと二つ目の罠に即ドカン。なかなか良い性格をしてるスね。あんた」


 カチリカチリ、と、外れた音が二つ響き、ゆっくりと宝箱の蓋が開いていく。


「けど、オレの方が一枚上手だったみたいスね」

「ふおおおっ!」


 駆け寄ったアスカが奇声をあげた。


 まあこれはいつものことである。宝箱が開くのをいまかいまかと待っていたのだ。

 そりゃもううずうずしながらね。


 宝箱のなかには金銀財宝だ。

 ざっと見た感じ、普通の労働者世帯なら五十年くらいは遊んで暮らせそうな量である。


「マジックアイテムはなさそうですね」


 ちょっとだけ残念そうなミリアリアだ。

 やはり魔法使いにとっては、財宝より魔法の品物に不等号が開くらしい。

 真理の探究こそ、もっとも興味のあることだからね。


「ビヤーキーの爆弾を研究してるんじゃなかったっけ?」

「それはそれ、これはこれです。研究材料はいくらあっても良いんですよ。母さん」


 そんなこと言ってるけど、ミリアリアの部屋にはまだ手を付けない研究材料がいくつも安置されてるんだよなあ。


 本好きの人が、ばんばん本を買って、でも読み切れないで本棚に積み重ねておくようなもんだ。

 ひとつ終わってから次のを入手すればいいのに。


 ともあれ、そのまま使用したいという武器だの防具だのはなかった。


 すべて換金してクランハウスにいる家宰のアニータに管理を委ねることになるだろう。

 それなりれの額を、孤児院に寄進したり至高神教会に寄付したあとでね。

『希望』は、もうぜんぜん金に困ってないから、そういう善行を積む余裕があるんだよ。

 信じられるかい? 三人娘なんて協賛金が払えなくて泣いてたんだぜ。


 まあ、いまだにアニータに給料の前借りを頼んではぺいって捨てられてるけどねー。




 俺たちは一階のホールを解放したところで引き上げたけど、翌週には二階と三階のホールを『固ゆで野郎』が解放した。


 さらに次の週、四階ホールを『葬儀屋』が解放して、五階のホールは、『御意見無用』が解放するっていう大金星をあげる。


 そりゃあ大騒ぎになったさ。


『希望』『固ゆで野郎』『葬儀屋』がガイリアを代表するトップクラン。『御意見無用』ってのは二流どころだと思われていたのである。

 それが、三大クランを出し抜いて、五階層のボス・・を倒した。


「敵はバルログさね。さすがのあたしももうダメかと思ったよ」


 リーダーのアイリーンが酒場とかで、もう歌う歌う。

 けっして恵まれた身体とはいえない女戦士が率いる二流クランが、なんと炎の悪魔ともいわれるバルログを倒し、宝箱をゲットしたのだ。

 話題にならないわけがない。


「そしてこいつが、宝箱からでてきた金烏きんう玉兎ぎょくとさ」


 マジックアイテムを自慢しまくってた。

 二振りのショートソード。

 前に俺が使っていた焔断より強そうだって、ギルドの鑑定士が言ってた。


 それにプラスして金銀財宝だもん。

 うっはうはなんてレベルじゃない。


「おや? 初日に一階を開放して以来、鳴かず飛ばずのネルちゃんじゃない。元気してた?」


 ある日、ギルドでアイリーンに話しかけられた。

 こいつ……調子に乗りまくってやがる……。


 蜂蜜色の髪と瞳。気の強そうな美貌をもった女剣士で、腰に佩いた二振りショートサーベルは、金烏と玉兎に換装されている。


 たまたま自分が使えるアイテムが宝箱から出てくるって幸運に恵まれやがったんだよな。こいつ。


「くやしくなんかないもんね。俺の月光なんて専用アイテムだし」


 ふんって鼻で笑ってやった。


「ネルちゃん、そんなめっさ悔しそうな顔でいわれても」


 けらけらとアイリーンが笑う。

 うっさいうっさい。

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