第83話 余計なことしかしない!


 それでも無傷で勝てるほど生やさしい相手ではない。

 ダメージが蓄積している仲間にはメイシャの長距離回復ロングヒールが飛び、囲まれそうな仲間はミリアリアが援護する。

 四半刻(三十分)ほどの戦闘でゴーレムは全滅させたものの、俺たちもそれなりのダメージを受けた。


「集まってくださいな。まとめて回復してしまいますわ」


 メイシャの回復魔法が司祭級でなかったら、完全回復は不可能だっただろう。

 オーガくらいの強さの武装したゴーレム十六体を全滅させてこのダメージだから、かなり上出来な方だけどね。


「なんなんでしょうね、このゴーレムたちは」

「施設を守る兵隊ってことだろうな。こんな崩れかけた遺跡に何があるんだか」


 ミリアリアの問いに、俺は肩をすくめる。


 ゴーレムの持っていた剣や盾を一ヶ所に集めているアスカやメグを視界の端に捉えながら。

 もちろん持ち帰って売るためだ。


 仕事の報酬は魔王イングラルから出るけど、それはそれである。

 間違いなく金になるものを放置して帰るというのは、冒険者としてどうかという話だろう。


「森の中の遺跡でも思いましたけど、なんだか切なくなりますね」


 主がいなくなったのに、何百年も何千年も稼働し続ける魔法人形。

 なんのために動き続けるのか、と。

 俺は無言で、かるくミリアリアの肩を叩いてやった。






 小休止を終えた俺たちは、いよいよ遺跡の反対側にまわりこむ。

 ドラゴンと対面するために。


「……ドラゴン?」


 そして俺は首をかしげてしまった。

 それ・・を見て。


 たしかにカタチはドラゴンに似ている。大きさだってだいたい一緒だといって問題ない。

 でも、どう考えても生きてないでしょ。これ。

 ドラゴン型の魔法人形ゴーレムなのか?


「ということは、これが空を飛んでリアクターシップを追いかけ回していたってことかぁ……」


 黒く巨大な身体と、おなじく黒く巨大な翼。

 こんなのが空を飛ぶなんて、ちょっと信じられない。

 本当に古代魔法文明ってはかりしれないよなぁ。


「ようするに、敷地に入ってきた私たちをやっつけるためにゴーレムたちが現れたみたいに、リアクターシップも敷地的なところに入ったから追いかけ回されたってことですよね」


 ミリアリアが言う。

 たぶんそれで正解なんじゃないかな。


 敷地ならぬ敷空? いや、領空っていうべきか、とにかくそこにリアクターシップが入ったから、このドラゴンゴーレムが飛んでいった。


 そしてこいつの担当は空だけ。

 こうやって俺たちが近づいても動く気配すらないし、フレアチックエクスプロージョンで遺跡が揺れても、まるっと無視してるしね。


「動かないなら怖くもなんともないね!」


 そう言って漆黒のドラゴンゴーレムに近づき、オラシオンをぶすっと突き刺す。

 てい、と。

 もうね。止める暇もなかったよ。


「にゃははは! これでわたしもドラゴンスレイヤー!」


 とか笑ってるし。

 なんでそういう考えなしなことしかしないのっ! あなたはっ!


 その瞬間である。

 ドラゴンの眼が赤く光った。

 ぶぉんっていう起動音とともに。


 ほら! やっぱり!


「ううう動いた!?」


 慌ててアスカが跳びさがる。


「攻撃されたらぁ。さすがに反撃するよね~」


 のへーっとサリエリが解説してくれた。

 そのとおりだよ。空中戦用のゴーレムだとしてもね。

 だまって殴られていろって命令を出すやつなんていないだろうって話だ。


「判っていたなら、アスカを止めて欲しかったよ!」

「アスカっちの動きが速すぎてむりぃ」


 ですね!

 よく判ります!


 なにをするか判らない上に、止めるより速く動ける身体能力ってやばすぎない?

 なんとかに刃物とか、そういう次元でやばいって。


「くそ! 戦闘は避けられないか。全員、フォーメーションA!」


 前衛をアスカとサリエリと俺、後衛をミリアリアとメイシャ。メグが遊撃の位置に付くという、『希望』の最も標準的な配置だ。

 相手の能力も思考法も判らないからね。

 こっちから奇策を仕掛けることはできない。


 ドラゴンゴーレムが翼を動かしながら前進する。


「アイシクルランス! スリーウェイ!」


 まず口火を切るのはミリアリアの魔法だ。

 高速で飛んだ氷の槍がドラゴンの巨体に突き刺さる。


 吠え声のひとつもあがらないのは相手が魔法人形だからだが、効いているのかいないのかすら判断できない。

 戦いにくい相手だ。


「いくよ! サリー!」

「りょ~」


 左右から距離を詰めたアスカとサリエリが斬撃を加えるが、胸や頭などは狙えない。

 相手の身体が大きすぎるためである。


 こいつは困った。

 だいたいの場合において身体の大きさというのはそのまま武器なのである。簡単なたとえ話をすれば、どんな剣の達人だって暴走する二頭立て馬車にはねられたら死んでしまう。

 そういうものだ。


 小兵が巨漢に勝利したって例もないではないけど、すごく稀で、だからこそ賞賛されるってことなんだよ。


 さて、それにしてもどうするか。

 ドラゴンゴーレムが立っている状態では有効打を与えるのは難しい。となれば四つ足状態になってもらうしかないのだが……。


「ネルダンさん! ブレスがくるス!」


 メグの鋭い警告が飛ぶ。

 しまった。自分の考えに没頭してしまうとは。

 戦闘中に。


 俺が気づいたときには、炎の舌が目前に迫っていた。


 

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