第82話 ゴーレムふたたび


 道なき道をかき分けて進むことしばし、上空から確認した建造物が見えてきた。

 つーか、すげーでかい。

 普通のペースで外周を歩いたら半刻(一時間)くらいかかりそうなでかさである。


「何に使われていたものなのか、想像も付かないな」

「それは仕方ないねぃ。遺跡なんてだいたいそうだよぅ」


 サリエリがのへーっと応えてくれた。


 まあなぁ。

 地下迷宮とかだって、なんでそんなものがあるのかよく判らないし。

 この遺跡も、ご多分に漏れずってやつだ。

 遺跡の周辺は綺麗に木が切られ、整地もされている。


「誰かが整備しているってことですよね」


 油断なく氷狼の杖を構えながら、ミリアリアが言う。

 ドラゴンは、たぶん草むしりとかに興味ないだろうから、他に人間型のモンスターがいると考えて問題ないだろう。


 きちんと整備されているところが敷地ってことだろうか。


 そんなことを考えながら俺たちが一歩踏み入れた瞬間である。

 けたたましい警報が鳴り響く。

 なんだ? なにかの罠にでも引っかかったか?


「ワイヤーも鳴子もなかったス。魔法的なものかもしれんス」


 メグが絶望の表情で首を振る。

 罠感知は彼女の本領だから、幾重にも面目を失したカタチだ。


 俺はメグの頭をぽんぽんと撫でる。

 気にするな、と。

 下調べもなにもしていないのだ。未知の罠があったとしてもなにもおかしくはない。


「魔力感知の方はちょっと難しいです。このへん一帯からまんべんなく感じているんで」

「のへーっと薄くのばしたみたいな感じぃ」


 ミリアリアとのへー……じゃなくて、サリエリが現状を教えてくれる。

 遺跡と敷地、全体から魔力を感じており発生源を特定するのは難しいと。


「ネル母ちゃん! 出迎えがきたよ!」


 アスカが鋭く警告し、遺跡を指さした。

 壁の一部が開き、わらわらと何かが出てくる。


「どこかで見たような魔法人形ゴーレムですわ」


 くすりとメイシャが微笑した。

 まだ『希望』に四人しかいなかったころ、森の中の遺跡で遭遇したゴーレムにそっくりである。


「ただまあ、こっちは武装してるけどな! 戦闘態勢に移行!」

『OK!』


 娘たちが唱和し、さっとフォーメーションを組む。


 前衛は三人。

 左から、サリエリ、俺、アスカで、中央の俺だけがややさがった位置だ。


 後衛は、左にメイシャ、右にミリアリア。

 俺の斜め後ろに位置どる。


 そして、遊撃のメグが最後列に待機した。いつでも回り込めるように。隠形はしない。ゴーレム相手には意味がないからね。


「撃ちます! アイシクルランス! スリーウェイ!」

「ならうちはぁ、イフリートカノン~」


 まじか。

 いきなりフレアチックエクスプロージョンかよ!


「メイシャ!」

「判っておりますわ。聖なる守りホーリーシールド


 咄嗟に声をかけたメイシャは、すでに防御魔法を完成させていた。

 さすが。


 パーティー全体を淡い光が包み、直後に衝撃がくる。

 ていうか、相手が生物じゃないからって、無茶苦茶するなぁ。ミリアリアとサリエリは。


「爆炎が晴れます……。残数十六! 半分も減ってません!」


 しかし結果はあまり振るわなかった。

 ゴーレムって魔法耐性が高いからね。


 ていうかミリアリアさんや、はじめてゴーレムと戦ったときに教えなかったっけ? それ。

 すごい魔法が使えるようになったからって、基本的な部分を忘れちゃいかんよ?


「八も削ったんだからたいしたものさ」


 俺はミリアリアに笑ってみせる。


「アスカ! サリエリ! 突っ込むぞ!」

「うん!」

「りょ~」


 左から勇者が、右からは英雄が、それぞれ弧を描くように突進する。


「メイシャはミリアリアを守りつつ回復魔法を頼む。ミリアリアは援護魔法な」

「お任せあれですわ」

「判りました」


 言い残して俺も突進を開始した。

 メイシャが、今まで俺のいた位置に入るのを確認しながら。


「オレは後ろに回り込めないかやってみるス」

「頼んだ」


 素晴らしい俊足で俺を追い越しざまにメグが言った。

 ゴーレムの残りは十六。

 一人頭四体の計算である。






 長剣と盾で武装したゴーレムの強さは、オーガと遜色なかった。

 膂力も速度も、普通の冒険者だったらかなり手こずるだろう。


「けど、動きの本質は変わってないよ!」


 右から躍り込んだアスカが、縦横に聖剣オラシオンを振るって薙ぎ払う。

 彼女は一度ゴーレムと戦っているから。


「どんなに速くても、どんなに重くても、パターン通りの動きしかしないんだったら止まってるのと一緒!」


 いきなり剣筋を変えたり、トリッキーな身体捌きで回避したりするアスカに、ゴーレムが翻弄される。

 単なるスピードで比較すれば、彼らはアスカに勝っているのに。

 パワーに関しても同じ。


「でもぉ、決まった動きしかできないならぁ、練習用の人形と一緒なのん~」


 最小限の動きで避けようとするゴーレムに、ほんの少しだけ炎剣エフリートの軌道を変えることで、次々にサリエリは攻撃をヒットさせていく。


「そういうことスね。オレはゴーレムと戦うのは初めてスけど」


 薙がれる剣を股割りの要領で回避したメグが、起き上がりざまにとんぼ返り蹴りサマーソルトキックを放った。


 ゴーレムは回避すらしない。

 不安定な体勢からの蹴り技など、たいしたダメージではないと判断したのだろう。


 しかしそのゴーレムは、そのままゆっくりと後ろに倒れる。

 ブーツの先端に生えた刃に顎下から脳天までを切り裂かれて。


「人間ってのは、こういう小細工をするんスよ」


 すちゃりと着地したメグが、ニヒルな笑みを浮かべた。


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