第268話 軍服ユウギリ
イハ・ンスレイから『フォールリヒター』とマーシュの船に分乗してインスマスの町に戻り、ゆっくりと眠って疲れを取る。
そして翌日、俺たちはさっそくアーカムへと向かって出発した。
いつも通り、アスカ、ミリアリア、メイシャ、メグ、サリエリ、ユウギリ、俺っていう七人チームだけど、じつはちょっとした問題を抱えている。
ユウギリが装備品をすべて失ってしまったのだ。
服とか下履きとかはインスマスでも調達できたけど、さすがにランズフェローの弓矢は手に入らなかった。
というより、ろくな武器が売ってなかった。
「アーカムでちゃんとした装備が手に入ればいいのですが……」
「ランズフェロー製のは無理だとおもうけどねぃ」
「この際、実用に耐えればなんでも良いです」
「ギリっちの使い方に耐えれる弓なんてあるかにゃあ」
う、と黙り込むユウギリと、にゃははと笑うサリエリ。
まあユウギリの曲射はやばいからね。
三本の矢を同時に射たりとか、矢羽を切った矢をいろんな方向に射て、時差をつけて一ヶ所に集中的に当たるようにしたりとか。
ちょっと頭おかしいレベルの射撃技能の持ち主だもの。
似たようなことを俺もやってみたら、いきなり真下に矢が飛んで足に刺さったんだよな。
あんときは痛かった。
あと、何やってるんですのって怒ったメイシャが怖かった。
「でもさ! ユウのそういう格好も新鮮だよね!」
「意外と動きやすくて、わりと気に入っています」
先頭を歩いていたアスカが振り返って親指を立てる。
かっちょいい、と。
普段のハカマ姿ではなくナングンとかいう国の軍服だ。インスマスの道具屋で、昔従軍していたという人の古着を買ったのである。
詰め襟っぽい紺の上着と同色のズボンで装飾もなく実用一点張りだが、それがむしろ質実なユウギリに上手くマッチしていた。
でも弓はろくなのが売ってなくて、狩猟用のショートボウをしぶしぶ購入した感じ。
「曲射もできないので、支援はあまりアテにしないでください」
とのことだった。
そして街道沿いに南下すること三日。
アーカムの街壁が見えてきた。
「地図の通りスね」
「だな。ひとまずは安心だ」
野帳になにやら書き込みながら言ったメグに頷く。乗合馬車を使わずに徒歩移動にしたのは、インスマスで調達した地図の正確性を確認するためだ。
宿場の位置や街道の状態など、自分の目で確かめておきたいことは数多い。
あと、この周辺の地図が正確だということは、軍事的にはそんなに重要な場所ではないっていう証拠でもある。
「アーカムというのは魔術の都なんですね」
ミリアリアは興味津々だ。
街道筋の宿場で集めた情報によると、アーカムには西方魔術結社というものが存在しているらしい。
なんと、魔術を研究する大学まであるんだとか。
向学心の強いうちの大魔法使い様としては、無視できない情報ですよね。
西方魔術結社の研究成果というのは、中央大陸にある魔術協会のそれにおさおさ劣らないんだってさ。
なにしろ大陸が違うから、ほとんど交流がないけど。
こればっかりは仕方ないね。
外海を越えるってのは、なかなかに大事業だから。
マスルのエーテルシップだって、何十年かに一回くらい海難事故が起きるって話を聞いたことがある。
まして帆船とかだったらどうなるかって話だよね。
「母さん。アーカムについたらミスカトニック大学に顔を出してみたいです。魔術結社にも」
「そうだな。俺も一緒に」
「ネルネルは町で情報収集だよぅ。魔術の話を聞いたって、どうせわからないんだしぃ」
話しきる前に却下されちゃった!
そうなんだけどさ!
話を聞いたってちんぷんかんぷんなんだけどさ!
「ミリミリとはうちが一緒にいくのんー」
「くっそくっそ。魔法が使えるからっていい気になりやがって」
のへーっと笑うサリエリに、俺は地団駄ダンスを踊ってやる。
もしかしたら、大学に行ったら俺だって魔法が使えるようになるかもしれないじゃん。
夢見させてよ。
「母さんが魔法使いになる必要なんかありませんよ。私がいるんですから」
やれやれといった感じで肩をすくめるミリアリアだった。
なんか、日に日に俺の扱いが軽くなっていくよね。
結局、大学とか魔術結社にはミリアリアとサリエリが赴き、『フォールリヒター』を修理するための情報を集める。
メイシャはアスカを伴って至高神教会に挨拶に行く。
中央と西大陸では同じ至高神の教えを説く教会でも立ち位置が違うんで、挨拶もしないってわけにはいかないんだそうだ。
そういうしがらみとかがあるんだね。
一応アスカは護衛だって。
同じ教徒でもトラブルになることもあるから。
あと、インスマスが邪教から解放されたことを伝え、司祭の派遣を提案するらしい。
俺はメグとユウギリと一緒に町を歩いて、道具屋をあたったり職人を探したりだ。
ユウギリの弓もなんとかしないといけないしね。
「町で宿を取ったら行動開始だ。で、夜に報告し合う感じで良いな?」
俺の言葉に、娘たちはそれぞれの為人で応じた。
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