第204話 なにか変だぞ
豪腕アレクサンドラというのは、異名からも戦いぶりからも戦いぶりからも、猛将なのだと思っていた。
アスカと一騎打ちしてほぼ互角だったしね。
そんな猛将が双頭の蛇なんて陣形を使うとは思わなかった。
これは、でろーんっと長い陣形で、横から見ると長蛇の陣に見える。
ただ実際は真ん中が分厚くなっていて、最前部と最後部には攻撃力の高い部隊を配置しているんだ。
長蛇の陣、あるいは横陣だと勘違いして攻撃してきた敵を包み込んで叩きのめすって感じの戦い方になる。
ものすごく高度な陣形ってわけじゃないんだけど、相手に先制させないと意味がないのだ。
いわゆる待ちの戦いってやつで、積極攻撃型っぽくみえるアレクサンドラには、あんまり似つかわしくないような気がする。
けどまあ、それは俺の勝手な思い込みだったわけで、完全に裏をかかれたわけだけどね。
「アスカ! サリエリ! 時間との闘いだ! 全力で突破するぞ!」
馬上から叫び、敵陣に突っ込む。
とにかく包囲される前に中央突破をしなくてはならない。
囲まれてしまったら、勝算は限りなくゼロに近くなってしまうのだ。
「まかせて! みんなの心が宿ったこの希望に! 斬れないモノはなんにもない!!」
右に左にとアスカがインゴルスタ兵を斬って捨てる。
屈強なドワーフ戦士といえど、アスカの驍勇と七宝聖剣の威力には対抗できず、彼女が一歩進めば三歩四歩と後退してしまうような有様だった。
「さすがにぃ、なんでも斬れるってことはないのん~」
気の抜けたことを言いながらのへーっと進むサリエリの戦果も、おさおさ劣るものではない。
深紅の炎をまとった炎剣エフリートを振りかざして突き進む。
あとにはドワーフたちの死体を残し。
赤の英雄と黒の勇者の大活躍で、スペンシルの兵どもは活気づく。
高まった士気を俺は効率よく使って、インゴルスタの防御陣を突破しようと図るのだ。
しかし、ついに難敵が現れる。
「また会ったね! 闘神アスカ!」
「今回は負けないよ!」
雷帝の斧『グランダリル』と七宝聖剣『希望』が正面からぶつかり、過負荷の魔力が火花となって周囲に降り注ぐ。
一合二合。
互角ではなく、むしろアスカの方が押し込んでいる。
「さらにできるようになったね!」
「剣が折れちゃうかもって考えながら戦わなくて良いからね!」
「は! こないだは手加減してたってわけかい!」
「それはアナタもおなじでしょ!」
六合七合。
まあ、なんでそんな鋭い攻撃が放てるのか、なんでそんな攻撃を受けられるのか、まったく見えないんだけどね。
インパクトの瞬間は魔力光がぶわって飛び散るから判るけども。
「突破させてもらうよ!」
「そうはいかないねえ。浮世の義理ってやつだ。あいつらがケツをまくる時間を稼いでやらねえとな」
下品。
でも逃げるってことか。グリンウッド軍が。
ちょっと意味が判らないな。
兵力の再編成をおこなったら、とっとと戦線に参加すべきだろう。
まだまだ敵の方がずっと多いし、俺たちの足は止まっているし、絶好のチャンスなのだから。
なんだろう。すごくちぐはぐだな。
インゴルスタ軍の献身的で勇猛な戦いぶりと比較したら、グリンウッド軍の動きはものすごく独善的だ。
正直、同盟しているとは思えない。
なんていうかな、インゴルスタ軍が一方的に臣従させられてる感じだ。
「こればどういうことなんだ……?」
インゴルスタの国力はグリンウッドのそれと互角以上である。
こんな犠牲のヒツジみたいな戦い方をさせられるような関係にはならないはずだ。まともに考えたら。
「ネルダンさん。グリンウッドの連中が逃げ支度を始めたスよ」
と、そのとき背中から声が聞こえた。
いつの間にか後輪にメグが乗っており、俺の背にしがみついてる。
「なんでそこに現れるんだよ。メグ」
「役得ス」
「意味が判らん。で、本当に逃げ支度してるのか?」
「はいス。指揮官っぽいやつが喚き続けてるスね」
アスピムと違うとか、あれは作り話なのかとか、ライオネルは戦術というものが判っていないとか。
半ばパニックを起こしながら、陣をたたんで逃げようとしているんだそうだ。
「俺は戦術が判っていないのか」
「クソとかヘボとか、聞くに堪えない罵詈雑言が飛んでたス。喉笛かっ切ってやろうかと思ったスよ」
「頼むからそれはやめてくれ」
攻撃をするには隠形を解かなくてはならない。
敵陣のど真ん中で姿を見せちゃったらどうなるか。考えただけでもおそろしいわ。
「やらないスけどね。これでも命は惜しんでるんで」
笑いの気配とともに、ふたたびメグの姿かすうっと消えた。
さて、気になる情報を得てしまったぞ。
アスカとアレクサンドラの激戦にちらりと視線をくれる。
押し通ろうとするアスカと、それをとどめるアレクサンドラ。一進一退の攻防だ。
なんでだ?
グリンウッド軍は、あれほどの将が命がけで守るような友なのか?
メグの情報から察するに、グリンウッド軍の指揮官はアスピムの再現を狙ったんだろう。
状況は似てるからね。
グリンウッドとインゴルスタの連携が取れているはずがないとスペンシルは考える。
だから、どちらかがゆっくりと後退すれば調子に乗って押し込んでくるだろう、とね。
同じ状況にして俺を打ち倒せば、すごく名前が売れるとでも思ったのかねえ。
「つーか、自分が使った策の攻略法すら判ってない軍師なんて、いるはずないのになぁ」
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