第3話 スカウトされた! 女の子に!
「えええぇっ!? そんな! 悪いですよお……兄さん……っ」
「いま、おじさんって言おうとしただろ」
「言おうとしてないよっ。思ってないよっ」
じろっとアスカを睨んでおく。
十六のお前さん方から見たら多少は年上だろうけど、俺はまだ二十三である。
おじさんって呼ばれる年齢では、けっしてない。
念のため、あくまでも念のために説明しておいた。
誤解が生まれないようにね。
大事なことだからね。
「二十三……ずいぶんとふ……大人っぽいですね! ライオネルさん!」
「ミリアリア。いまキミは老けていると言おうとして言い直したね?」
「そそそそんなことはありませんです!」
もっのすごい勢いでミリアリアが視線をさまよわせた。
テンパりすぎである。
これでパーティーの頭脳、魔法使いだというのだから片腹痛い。
「…………」
「どうしてメイシャは黙り込んでいるのかな? 口を開かなければ誤魔化せると思っているからではないかな?」
「……なんでお見通しなのですか!?」
メイシャが動揺する。
カマかけに引っかかるなよ聖職者。
「もももも申し訳ありませんライオネルさんっ」
「見捨てないでください見捨てないでくださいっ」
「なんでもしますからぁっ」
三人がすがりついてくる。今度はジェニファではなく俺に。
なんなのお前ら。
そういう芸風なのか?
あとメイシャ。お前さんは聖職者なんだから、その豊かすぎる胸を押しつけるな。
けしからん。
「見捨てないから離れろ。うっとうしい」
ぺいぺいぺいって三人を捨てて、俺はジェニファと一緒に受付カウンターへと向かう。
彼女らの協賛金を納付するために。
筋からいえばおかしな話なんだけど、ギルドとしては誰が納めようと問題ないはずだ。
「本当によろしいんですか? ライオネルさん」
「いいさ。今日で冒険者をやめるつもりだったんだ。新人の立て替えをしてやるのが最後の奉公ってやつだ」
苦笑しながら提示された金額を支払う。
これで俺の財布は、すっかり軽くなってしまった。
『金糸蝶』に預けてある金と、まだ受け取ってない給料を合わせたら、けっこうな金額になるんだが、それをよこせと主張するのは、なんとなく俺のプライドが許さない。
ほぼ文無しになったことだし、とっとと新しい仕事を見つけないとな。
「ライオネルさん……」
なにか言おうとしたジェニファだったが、結局は言葉を飲み込んだ。
他人の財布を覗かないってのが冒険者の不文律だから。
あ、これは本当に財布を覗き見るってことではなくて、他人の事情を根掘り葉掘り訊かないって意味ね。
誰だって、知られたくないことの一つや二つはあるもんだ。
十年も一緒にやってきた親友と、ついに決定的な仲違いをしちまった、とかな。
最初は金。二回目は女。
人間のトラブルなんて突き詰めれば金と異性問題に集約される、なんて言葉があるけど、どうにも地で行ってしまったようだ。
情けないことに。
苦笑交じりに考えて肩をすくめる。
結局、俺もたいして価値のある人間じゃないって話さ。お前しかいないんだなんていわれて戻ったのに、女と天秤にかけられたらあっさり負けちまうんだからな。
「ねえねえ。ライオネルさん」
つんつんと背中をつつかれた。
アスカだ。
「どうした? お前さん方の協賛金は納めたぞ。次の納期は忘れないようにしろよ」
言って赤毛を軽く叩いてやる。
恩に着せるつもりはない。
ジェニファにも言ったとおり、最後の奉公だ。
くだらん先輩が後輩のためにしてやれることなんて、金を出すくらいしかないからな。
「ライオネルさんって軍師なの?」
「ああ」
「それってやっぱり、激レア天賦の軍師?」
「他に軍師ってのは聞いたことがないな」
回りくどいアスカの言葉に苦笑した。
いったい何を確認したいんだか。
「冒険者をやめるって聞こえたんだけど。もしよかったらなんだけどさ……」
なんだかもじもじしている。
金の無心なら、申し訳ないがこれ以上は出てこないぞ?
「わたしたちのクランに入らない?」
「えらく唐突な誘いだな」
やや面食らってしまうが、話としては珍しくない。
フリーになっている人材に声をかけるというのは、クランを大きくしていくための第一歩だからだ。
引き抜きとかやってしまうとトラブルになるけど、浮き駒なら積極的に取りにいきたいところである。
『金糸蝶』だって、そうやって戦力を充実させていったのだ。
「スカウトの理由を聞いても良いか?」
「困ってるわたしたちを助けるような人だから」
「ずいぶんと薄弱な理由じゃないか? それは」
「わたしたち、困っている人を助けるために冒険者になったの。だから、そういう人に一緒にきてほしいんだ」
両手を組み合わせたアスカが、無意味に指を動かしている。
たぶん初めてのスカウトで緊張しているんだな。
それはともかくとして、困っている人を助けたい、か。
ご大層な理由だ。笑ってしまうくらいに。
まさに英雄気質。
そういってクランを立ち上げたバカがいたっけな。十年ちょっと前に。
あいつに手を引かれて俺は冒険者になった。
そしてまた、英雄の卵に手を差し伸べられている。
なんともかんとも、妙な星の下に生まれてしまったらしいな。俺は。
あるいは軍師ってのは、よくよく英雄と縁があるものなのかね。
「俺は前のクランを、口うるさいからってクビになった人間だぞ」
「そういう人が欲しいです」
「わたくしたちだけだと、お互いに強く言えないのですわ」
ミリアリアとメイシャも近づいてきた。
そういうものなんだろうか。
俺とルークは、かなり言いたいことを言い合っていたけどな。殴り合いまでしたけどな。
女性同士の友情というやつは、男のそれよりも繊細なのかもしれない。
「まあ、そこまでいうなら。どのみち職探しはしようと思っていたし」
照れたように言って、俺は右手を差し出した。
もし、軍師だから誘ったって言われたら断ったんだけどな。
アスカ、ミリアリア、メイシャが、自分の手を重ねる。
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