第2話 痛々しき出会い
ギルドの係員に女性がすがりついている。
しかも三人。
借金取りに家財を持って行かれそうになってる貧乏人って風情だ。
「どうか! どうかお慈悲を!」
「あと三日、いえ! 一日だけ待ってくださいぃ!」
「なんでもしますからぁ!」
なんだろう。
とても正視できない痛々しさがある。
三人とも見目麗しい若い女だとなれば、なおさらだ。
係員なんてすっかり困り果ててるじゃん。
あと、助けを求めるように俺を見るなよ。ジェニファ。
なんか面倒くさいことになりそうなんで踵を返そうとしたら、すげえ泣きそうな顔になった。
そんなんで良いのか? 泣く子も黙る
はぁぁぁ、と、俺はため息をつき、騒動の中心部に近づいていった。
「何のイベントなんだ? これは」
「それがですね、ライオネルさん、この子たちが」
あからさまにほっとした顔でジェニファが説明してくれる。
ていうか説明ってほどの話でもない。
この三人娘は一ヶ月ほど前に結成したばかりのクランなのだが、ギルドへの協賛金を納めていないため、除名処分の予告が下された。
それだけの話である。
なんというか、当たり前すぎて笑ってしまう。
冒険者同業組合。冒険者ギルドとも単にギルドども呼ばれるそれは、その名の通り冒険者たちの互助組織だ。
したがって、運営資金は冒険者自身が負担しなくてはならない。
冒険者のための組織に、他にどこが金を出してくれるんだって話だからね。で、それが協賛金といわれるもので、これを納めてない冒険者は当然のように除名されてしまう。
そうすると、たとえば狩ったモンスターのコアや、遺跡などで手に入れた
冒険者としては詰んでしまうわけだ。
非情なようだけど、協賛金も払ってない冒険者が恩恵を受けられるとしたら、払ってる人の立場がなくなってしまうからね。
俺たちが払った金で、金も出してないヤツを養ってやるのか、と。
なので、協賛金を出したくないなら、ギルドに所属しない個人受けの冒険者になるしかない。
それで食っていけるかどうかは、かなり疑問だけど。
「ていうか、協賛金を納められないくらい貧乏なのか? きみたちは」
ジェニファにすがりついている女性たちを引き剥がしながら訊ねる。
さすがに見栄えが悪すぎるからな。
鬼のギルド職員の中でも、彼女はかなり親切な方だ。悪代官みたいな扱いをするのは可哀想ってものである。
「貧乏ってことはないはずなんですよ。すでに二つも依頼を完遂していますし」
「なかなか好成績だな」
ジェニファの説明に頷く。
結成一ヶ月のクランの戦績が二。まったく悪い数字じゃないし、協賛金くらい余裕で出せる報酬を得たはずだ。
なんで払えないって話になる?
「それが……」
「報酬はみんなで等分してしまいまして……」
「残ってないんですわ……」
ぼそぼそと娘さんたちが説明をはじめる。
うん。なんか判っちゃった。
これダメなパターンだ。
三人娘はアスカ、ミリアリア、メイシャと名乗った。
いずれも数え十六歳(満十五歳)で、幼い頃からの友人だという。
ようするに俺とルークのような関係だ。一旗あげようと冒険者となってクランを立ち上げるところまでそっくりである。
アスカは鮮やかな赤毛と青い目を持っており、前衛を務めているらしい。ジョブは
天賦が英雄の場合、ジョブとして剣士や
説明しておくと、天賦ってのは至高神から与えられる才能の方向性のこと。
数え十歳になった年に教会で授けられるんだ。
といっても、これは神からのご祝儀みたいなもんだと俺は思ってる。なにしろ天賦で「凡夫」や「愚者」なんてもんが与えられたなんて話を聞いたことがないしな。
ルークやアスカみたいな「英雄」とか、俺みたいな「
ちなみに俺の「軍師」って天賦はわりと珍しい。
作戦立案や指揮、組織運営なんかに才能を発揮するっていわれてるんだ。
それで、ジョブってのは冒険者としてのクラスだな。
俺もアスカもルークも剣士。ようするに剣の扱いに長けた人って考えてもらうと目安になるだろう。
茶色い髪と同色の瞳のミリアリア。彼女の天賦は「
メイシャは金髪碧眼で、「
わりとバランスの取れたパーティーだといって良いだろう。
幼なじみだから連携も良いだろうし。
結成して間もないのに、立て続けに依頼を成功させているのも頷ける話だ。
ただ問題は、仲良しこよしの悪い部分がもろに出てしまっているってことだろう。
きちんとリーダーシップを取る人間がおらず、すべてがなあなあになってしまっている。報酬の全額分配など、その最たるものだろう。
クランの資金としてちゃんと金をよけておかないから、こういうことになる。
きっと、「みんなで分けようね。きゃぴるん」とかいって、なーんも考えずに分配しちゃったんだろうなぁ。
完全に、ど素人のやることだ。
「私たち……どうすれば……」
瞳を潤ませて、アスカが俺を見上げる。
見捨てるのは簡単だ。というより、助けてやる義理もいわれもない。
けど……。
「ジェニファ。こいつらの協賛金はいくらだ? 俺が立て替えてやるよ」
ため息とともに、俺は係員に訊ねていた。
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