二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!
南野 雪花
第1章
第1話 2度目の追放
「いい加減にしろ! なんなんだよお前は! 俺のやることなすこと文句ばっかりつけやがって!」
怒声とともに投げつけられたペン立てが俺の顔をかすめ、わずかに切れた頬から血がたれる。
「落ち着けよ。ルーク。なんにでも文句なんか言ってないだろ」
「言ってるじゃねえか! いま! このときも!」
なんとかなだめようと両手を挙げるが、まったく効果がなかった。
むしろ怒りの炎に油を注いでしまっている。
困ったな。
「たしかにこの
ばんばんとデスクを叩きながら、ルークががなり立てている。
交易都市ガイリアの冒険者クランでも五指に入る名門『金糸蝶』のクランリーダー。それが彼の肩書きだ。
正対している俺はライオネル。
クランの副長で、立ち上げからルークと一緒にやってきた親友、だと自負しているんだけどな。
「お前の恋愛に文句をつける気なんかない。ただ、公私の別をはっきりしろって言ってるだけだ」
ことの始まりは一ヶ月ほど前。団員募集の張り紙を見てやってきたフィーナという女に彼が一目惚れしてしまったことだ。
それだけなら、べつに妙でも珍でもない。
職場に男と女がいれば、そこに恋愛関係が生まれるのは不思議な話ではないし、『金糸蝶』では構成員同士の恋愛や結婚を禁止してもいないのだから。
ただ問題は、ルークがフィーナを特別扱いしすぎたことにある。
入団一ヶ月ちょっとの新人を中隊長に抜擢とか、普通に考えたらありえないだろう。しかも給料が俺たち幹部団員と同額とか。
実力がすべての冒険者とはいえ、いや、むしろ実力主義だからこそコネ人事はまずい。
とくに女性団員たちの不満は爆発寸前だった。
それより多少は温度が低いけど、男連中だって不平たらたらである。
そりゃそうだろう。クランに入りたての実力があるかどうかも判らない若い女が、中隊長としてああしろこうしろと命令するんだ。
これで気分は上々って人は、あんまり冒険者に向いてない。
で、団員たちから相談されたのと、俺自身もこれはやばいって思ったから、ルークに忠告することにしたんだ。
そんなに好きならクランをやめさせて、結婚でもして家庭に入れろってね。
そしたら大激怒ですよ。
プライベートなことに口を挟むなって。
どこがプライベートなんだよ。思いっきりクランの運営に悪影響が出ちまってるじゃねえか。
「あのなあルーク。お前が誰を好きになろうが、誰と結婚しようが、俺は何も言わない。むしろ祝福してやるさ。けど、それと仕事はべつだろ?」
情理を尽くして説得しようと試みる。
「うるせえよ! なんだその言い草! いっつもいっつも上から目線で説教しやがって! お前は俺の母さんか!!」
誰が母親か。
俺は男だ。なんで母親扱いされないといけないんだ。
せめて父さんっていえ。
「お前と俺は同い年だ! けどもし仮に! 千歩譲って! お前が俺の息子だとしたらこんなに馬鹿なわけがねえだろうが! このタコ!!」
だからついカッとなって言い返してしまった。
売り言葉に買い言葉ってやつだ。
「誰がタコだこの野郎! もういい! お前はクビだライオネル! いますぐ金糸蝶から出て行け!」
「言ったなこの野郎! もう取り消しきかねえぞ! 次は絶対に戻らないからな!」
ばーんと力一杯に団長室のドアを蹴り開け、俺はクランを飛び出した。
最低限の私物だけを持って。
あーあ、やっちまったなぁ……。
二回目の追放である。
笑ってしまう話だけど、俺とルークの大ゲンカはこれが初めてではない。
もともと『金糸蝶』ってのは、俺たちふたりで立ち上げたクランなんだ。十年ちょっと前にね。
そこから頑張って大きくしてきた。
何度も一緒に死線をくぐり、卑劣な罠を幾度もともに食い破り、ときには泥水をすすりながら生き延びて、今ではガイリア有数の冒険者クランである。
けど五年前に俺は一度クビになった。
原因はルークの浪費癖を俺が注意したことだ。
クランが大きくなり、収入も支出も増えて、それまでのようなどんぶり勘定でズブズブな会計をやっているわけにはいかなくなったのである。
クランの金で飲み食いするとか女を買うとか、もってのほか。
それを注意した俺とルークは激しく対立し、俺は追放された。
しかし、追放から半年もしないうちにルークは俺の前にあらわれ、地面に頭をこすりつけて謝罪したのである。
俺がいなくなってからクランの財政はめちゃくちゃになってしまい、冒険者
やっぱり副長はおまえしかいない、と。
謝るから戻ってくれ、と。
もちろん言いたいことは山ほどあったけど、全部心におさめて俺は戻ることにした。
ひとつには、ルークはバカだけど悪党じゃないって知っていたから。
ちゃんと自分の行為を反省して改めることができると思ったからなんだ。
事実として、いままで多少のトラブルはあったけど、なんとかかんとかやってきたし。
「結局、俺には人を見る目がなかったってことかな」
ぼそりと呟きながら、クランからほど近いところにある冒険者ギルドの扉をくぐる。
冒険者にとって最大の拠点ともいえるギルドの近くに居を構えることができたってのは、『金糸蝶』の成功の証だろう。
もうどうでも良いけど。
俺は上役に恵まれず、仲間を選ぶ眼力もなかった。
同じクランを二回もクビになったのがその証拠だ。このまま冒険者を続けても繰り返しになるだけだろう。
だから冒険者登録を抹消しようと思ったのである。
「そこをなんとか! どうかひとつ!」
ところが、建物に入った瞬間に聞こえてきたのは、やたらと切羽詰まった女の声だった。
なんの騒ぎだ?
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