第165話 大人な娘?


 慌ただしく月日は走り去り、新年となった。

 アスカ、ミリアリア、メイシャの三人は数え十八(満十七歳)となり、晴れて大人の仲間入りである。


 通常であれば、ロスカンドロス王やメアリー夫人といった普段からお世話になっている人に成人の挨拶にいくのだが、いまは遠くランズフェローの空の下だ。挨拶は帰ってからということになるだろう。


「大人じゃーん!」

「大人です」

「大人ですわ」


 と、威張っている三人娘の中身は、まだまだ子供である。


「自分が大人だと思ってるうちは、まだまだ子供スよ」

「うちの心はぁ、いつでも十五歳なのぅ~」

「それは若すぎないスか? 長命種のくせに」

「永遠の十五歳~」


 くだらない会話でも盛り上がっているのはメグとサリエリ。前者は昨年に、後者は一昨年に成人している。


 そしてもう一人、ユウギリもメグと同い年なので、中央大陸風にいえば去年に成人したのだという。

 どうして彼女を数えたのかといえば、『希望』に加入したからだ。


 大名ミフネはヤマタノオロチ討伐に多大な貢献をした『希望』に対して非常に興味を持ち、俺たちの戦闘技能を自らの国にも取り入れたいと願ったのである。


 とはいえ、『希望』はいつまでもランズフェローにいるわけではない。

 俺の修行が終わり、月光が完成したら当然のように帰国するし、英雄的な活躍をした異国人があまり長く居座っても良いことはあまりないのだ。


 そんな感じで、戦術顧問になってくれという大名ミフネの懇請を断ったわけだけど、では代わりにユウギリに修行をつけてくれという話になったのである。

 ゲスト扱いはできない。どうしてもというなら『希望』に加入し、一緒に仕事をしながら技術を盗んでくれ。という条件にミフネとユウギリが同意したため、このような運びとなったわけだ。


 だからまあ、加入とはいってもミフネ家から預かったような感じだね。


 ちなみにユウギリの天賦は「依代ヨリシロ」でジョブは|射手(アーチャー)。

 俺の軍師以上のレア天賦である。

 むしろ依代なんて天賦、初めて聞いたってレベルだ。


 聖者のメイシャに時々起きる天啓、それが常時パッシブ発動しているようなものだって話なんだけど、ちょっとよく判らない。


 ともあれ、またまた女性の加入とあいなったわけである。

 娘たちはまた少し不機嫌になっていたけどね。


 ていうか、そろそろ男性のクランメンバーが欲しいよ。

 ジョシュアとかニコルとか元気かなぁ。


「どうしたの母ちゃんため息ついて! 今夜から誰と一緒に寝るかって悩んでたの! それならわたしが一緒に寝てあげる!」

「誰とも寝ない。俺は一人で寝るのが好きなんだ」


 俺のため息をめざとく見つけて異常な発言をするアスカを、ていっと流しておく。

 ほんとな? もうみんな年頃なんだから、慎めよ?


「じゃあ明日の試験のことでしょ! なんとかなるって!」


 ばっしばしと肩を叩かれた。


 たしかに明日は剣術道場での試験なんだけど、落差がすごいな。アスカさんや。あなたの中には、男女問題か免許試験のふたつしかないんかい。


「そうだな。緊張しすぎないように心がけるよ」


 ふ、と笑ってみせる。

 べつに免許皆伝をもらえなかったからって困ることはなにもない。カタナを使った戦い方はだいぶ判ったし、強敵と戦ったことで自信もついた。

 書面上の資格に意味はないのである。


 ただ、アスカが応援してくれるなら、全力を尽くして戦う価値くらいはあるだろう。





「強くなられましたな。ライどの」

「なんとか、さまにはなってきましたかね」


 木刀を構えたまま笑い合う。


 試験の内容は三番勝負。門下生の代表者、師範代、そして師範のアキヤマ。この三人を連破して免許皆伝がもらえる。

 俺はなんとか二人に勝利し、いまはアキヤマと対戦中だ。


 そして、やはりマスターサムライは強い。


 彼の攻撃をかろうじてさばけているのは、俺には軍師としての戦術眼と先読みがあるから。

 どこを狙っているか判るからヒットはしない。かわすことができる。しかし反撃に転じる隙はない。


「しかし、軍師としての能力ではなく剣士としての力量で戦いなされよ」


 一気にアキヤマの剣が加速する。

 俺は防戦一方だ。

 先読みが追いつかない。


「貴殿は賢い。それ故に相手が何を考えているか読めてしまう。しかし、それを上回る者に出会ったとき、智に頼っていては後れを取りまするぞ」

「くっ!」


 距離を取ろうとバックステップするが、アキヤマはそれにもついてくる。


 彼の言うとおりだ。

 シュクケイと戦ったときも、俺の動きを読まれた上に相手の狙いが判らなかったことで敗北した。


 今後、こういうことは幾度でも起こりうるだろう。


『希望』は有名になりすぎた。

 それはすなわち、研究も分析もされるということである。

 相手の分析を、想像を超えるような手を打たなくてはいけない。


 アキヤマの鋭い突き込みに対して、さがるのではなくこちらの木刀を当てて軌道をそらす。

 やわらかく。さからわずに。


 そしてそのまま身体をくるりと回転させ、体勢が流れたアキヤマの腕をとんと打った。


「小手、でしたか」

「お見事。ライオネル流剣法の開眼ですな」


 スピードやパワーでは、もうアスカにもサリエリにも及ばない。

 だからこそ相手の力を利用し、最小限の動きで戦闘力を奪うのだ。

 戦い方が見えた、気がする。


「免許皆伝にござる。これからも研鑽を積まれよ」

「精進します」


 差し出されたアキヤマの右手を、俺はしっかりと握り返した。

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