閑話 古代の秘宝
捨てるところはなくても、さすがに全部は持って帰れない。
全長で四間(十二メートル)ほどもあるような巨体である。
どうやっても背負い袋に入れることはできないのだ。
「あとから、人を雇って取りにくるしかないだろうな」
「だねぃ。ドラゴンの死体なら腐ることもないだろうしぃ」
ライオネルの言葉にサリエリが頷く。
この部屋には、ドラゴン以外にも魔力の反応があるとミリアリアが感じ取っているのだ。まずはそれを探るべきだろう。
「ここからはオレの領分スね」
手巾でダガーを拭きながら姿をあらわしたメグが、広い部屋をぐるりと見渡す。
一見するとなにもないように見える。
「けど、あのへんがなんか不自然スね」
てくてくと片隅に歩を進めた。
「ほら、隠し扉発見スよ」
手が複雑な動きをすれば、壁の一部ががこんと開く。
なかは小部屋になっており、両側には陳列棚のようなものがあった。
そしてそこには様々な武具と道具が置いてある。
「これは、古代魔法王国時代のものでしょうか」
しげしげとミリアリアが眺める。
ライオネル救出のために彼女らが乗ってきたジークフリート号も、古代魔法王国の生まれだ。
「あ、これ、アスカっちにいいかもぅ」
そういってサリエリが手に取ったのは、かなり丈夫そうな短剣である。
強い魔力の輝きを持っている。
「なにこれ? なんか刀身がやたら太いね」
「敵の剣を受け流すためにぃ、頑丈に作られてるのぉ」
「防御用の剣ってこと?」
首をかしげるアスカ、いまひとつ使い方が判らなかったらしい。
「マンゴーシュっていうんだよぉ。古い古い言葉で、左手って意味ぃ」
サリエリが解説する。
利き腕ではない方の手に持って使う剣なのだと。
これで敵の攻撃を受けたり、流したり、あるいは攻撃に使ったりもする。
「へぇぇぇっ! おもしろそう!」
「うんっと昔に使われていたんだってぇ。でも結局、こんな中途半端なものを使うなら、ちゃんと盾を持った方がいいんじゃねって流れになっていったみたいだよぉ」
「まあ、そうだろうな」
腕を組んでライオネルが頷いている。
流すならバックラー、受けるならヒーターシールドがカイトシールド。ちゃんと防御に特化したものを使った方が良い。
守りにも攻めに使える、という発想が、半端というか貧乏くさい。
「わたし使ってみる!」
新しもの好きで、しかも攻撃は最大の防御などど考えているアスカくらいしか、今の時代では価値を見出さないだろう。
「いいけど、あまりこだわるなよ? 少しでも使いづらいと感じたらすぐに盾に持ち替えること。いいな?」
「判ってるよ! 母ちゃんは心配性だね!」
アスカは笑うが、ライオネルの発想としてはまずは防御なのである。
ちゃんと身を守れなくては、落ち着いて攻撃などできない。
「ちょっとメイシャ! なにをやってるんですか!」
ミリアリアが悲鳴を上げる。
ライオネルたちが驚いてそちらを見れば、なんとメイシャの頭部が消失していた。
『は?』
あまりにも非常識な光景に、全員の目が点になる。
僧侶のローブに包まれた肢体の、首から上がなくなっているのだ。
まず自分の目を疑い、それから正気を疑った。
夢でも見ているのか、と。
「かなり入りそうですわね」
のんきな声とともに、ぽんっとメイシャの頭部が復活した。
「な、な、な……」
大魔法使いと呼ばれるようになっても、やはり突発的な事態には強くないミリアリアが、目を白黒させている。
「マジックアイテムですわ。ミリアリア。落ち着きなさいな」
そう言って、メイシャが右手に持ったリングを振ってみせた。
なにやら不思議な光沢をはなつ金属の環だ。
「
「いつも思うんだが、至高神ってメイシャにはやたらフレンドリーだよな」
あきれ顔のライオネルだ。
とくに気にすることもなく、メイシャは金属環の説明を始める。
亜空間収納魔法がかかっていて、この中にかなりのものが入れられるのだと。
「いやいや……亜空間収納って……」
「思いっきり
ぼーっと呟くミリアリアとサリエリだった。
失伝魔法とは、数千年前とも数万年前ともいわれる古代魔法王国時代に使われていたとされる魔法である。
いまの魔法学では構造の理解すらできず、当然のように再現もできない。
もちろん現物があれば、そこから研究を進めることはできるが。
リアクターシップやフロートトレインのように。
「とんでもないお宝をみつけてしまったな。さすがに俺たちの懐には大きすぎる」
マスルなりガイリアなりに渡して、研究してもらうべきだろう。
「自分で使わないの? 母ちゃん」
「世界中から狙われますよ。アスカさん。このアイテムを欲しがって」
首をかしげるアスカに、ユウギリが困った顔をしてみせた。
歴史を変えるほどの発見である。
ひとつの冒険者クランが独占するには価値が大きすぎる。
「でも、マスルに渡すより先に、これを使ってドラゴンの死体を地上に運べばいいんじゃないスか?」
取り扱いを巡って頭を悩ませる仲間たちに、メグがさらりと言ってのけた。
さすがはクランで一番の実際家である。
利用できるものはなんでも利用しようとするのだ。
マスルに渡すにしたって、べつにそれまで使っていて悪いと言うことはない。アイテムは減るものでも腐るものでもないのだから。
『それだ!』
彼女を除く六人が声を揃える。
目から鱗が落ちた、という表情で。
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