第32話 歓迎! 新メンバー!


 メグの授かっていた天賦は「韋駄天ハイウェイスター」。速く走ったり、素早い動きを要求される場面に才能を発揮する。


「それでオレは同世代の子たちより盗みが上手かったんスね」

「でも、もうやるなよ?」


 冒険者ギルドに向かう道すがらの会話だ。

 彼女は盗賊団にいた子供たちの中で、群を抜いて足も速かったし、手先も器用だった。

 だから仕置きと称して殺されることもなく、十七歳まで生きてこれたのである。


 知らなかったにせよ、この天賦があったから。

 その才能を悪行にしか使う機会がなかったというのは切ない話であるが、これからの人生で取り返すしかない。


 で、次は冒険者としての登録である。

 ジョブは斥候スカウト

 泥棒とかスリじゃ、さすがに外聞が悪すぎるからな。


 所属クランや簡単なプロフィールなんかを、俺が代筆してやる。

 というのも、メグは読み書きができなかったから。


 ほんとな、彼女の境遇を知れば知るほど、ガイリアの街に巣くう盗賊団って盗賊団を全部ぶっ潰してやりたくなってくるぜ。

 現実的に不可能だし、もしそれをやっちゃったらストリートチルドレンたちはその日のメシを食うこともできなくて死んでしまうんだけどな。


 けど、捨てられた子供たちの命を救っているはずの盗賊ギルドを、称揚する気にはちょっとなれない。

 自分たちに都合の良い道具を作ってるだけだもの。あいつらは。


 祝福にも連れていかない、読み書きも教えない、一般社会で生きていく術を何一つ身につけさせないで、救ったなんていえるわけがない。

 少なくとも、俺はそんな救いを認めないぞ。


「ネル母さん。怖い顔になってますよ」


 ぽんぽんと腰を叩き、ミリアリアが気遣ってくれる。

 おっと。いかんいかん。


「誰かのために怒れるのは、母さんの数多い美点ですけどね」


 ふふっと笑う魔法使い。

 数少ないなら判るけど、数多いってなんだよ。

 俺には、そんなにたくさん良いところなんてないぞ。


 そう告げると、にまぁと彼女は笑った。


「義理堅いところ、優しいところ、困っている人を見捨てないところ」


 歌うように言って、ミリアリアはぽんとアスカの肩を叩く。


「料理上手の片付け上手。家計のことも任せて安心」


 今度はアスカが、はい、とメイシャに振る。


「相手によって態度を変えず、やると決めたことは必ずやり遂げ」

「仕事は早くて正確で、その上、頭も切れて」


 メイシャの後を引き継いだのは、なんと冒険者ギルドの鬼職員、ジェニファである。

 すっごい楽しそうに抑揚までつけて。


「腕っ節も強い、良い男ー」


 最後はメグが引き取って、五人で変なポーズを決める。

 どぅわー、と、合唱団か聖歌隊みたいに。


 息ぴったりじゃねえかお前ら。

 いつ練習したんだよこんちくしょう。


「や、やめろよぅ!」


 恥ずかしくなった俺は、頭を抱えて大食堂の方へと逃げ出した。

 後ろから女性たちの笑い声が聞こえてくる。

 じつに楽しそうに。


 ちくしょうちくしょう!





 そして夜は、メグの歓迎会だ。

 もちろん、当然のようにクラン小屋の前でのバーベキューである。


「メグの加入を祝して、乾杯!」

『かんぱーい!!』


 俺がカップを掲げると、三人娘あらため四人娘が唱和した。

 で、そこからはいつものパターンである。


 ちょっと酒でアスカが陽気になって、笑ったり歌ったりする。

 俺とミリアリアは調子を合わせて手拍子をしたり、一緒に歌ったり。

 メイシャは我関せずとばかりに肉を食い散らかす。


 最初はメグも遠慮があったようだが、すぐに打ち解け、アスカと肩を組んで歌い出したりした。


「みんなで騒ぎながらする食事は楽しいスね!」

「そうだろうそうだろう! もっと肉を食え!」

「野菜も食べたいス!」

「はっはっはっ! そんなものあるわけないさ! 肉とパンと酒しかない!」

「頭おかしいスね! ここのメシ!!」


 大騒ぎである。

 もちろんどれだけ騒いでも、誰の迷惑にもならない。


 なにしろクラン小屋は、ガイリアの街壁から四半刻(三十分)も離れたところにあるからね。

 周囲になんか、なんにもありませんよ。

 うちの本拠地の数少ない長所だよね。どんだけ騒いでも大丈夫ってのは。


「ところでネルダン。オレはこの団でなにをすればいいんスか?」

「ネルダンってなに?」

「ライオネルのダンナって意味ス。そんなしょうもないツッコミしないでほしいス」

「お、おう……」


 俺の名前はしょうもないことだったらしい。

 いまさらだけどな。

 ネル母ちゃん、ネル母さん、ネルママ、そしてネルダン。

 どこまで進化を続けるのだろうか。


「そんなことよりオレの仕事スよ。街で泥棒はしてこなくていいんスよね」

「当たり前だろ」


 なにいってんだお前はっていいたいところだけど、いままでそういう暮らしをしてきたわけだからね。

 少しずつ意識改革していかないと。


「メグの役割は偵察だな。普段なら情報収集、街で金になりそうな、名声の上がりそうな仕事を探すってのかメインになると思う」

「ふーむ?」


 今ひとつピンときてない顔だ。

 まあ最初は、俺と一緒にギルドにいって依頼を見繕うって感じになるだろうな。

 慣れたらギルド以外での情報集めをお願いしたい。

 生きた情報ってやつの価値は高いんだ。いままでは集める方法がなかったんだけどな。

 聞こえてくる噂話を忘れないでおく、くらいしか。

 

 

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