第3章
第31話 天賦とジョブ
『
なんと、メグが加入を希望してきたのである。こんな貧乏クランに。
理由は俺に惚れたから、ではまったくなく、盗賊ギルドに居場所がなくなってしまったらしい。
ルークの殺害に関して、冒険者ギルドの力を借りてしまったからだ。
名目上は冒険者ギルドの仕事として殺人犯を始末した、ということにはなっているし、メグもそれに協力しただけである。
が、化粧を落としたすっぴんは、メグが冒険者ギルドに泣きついて解決してもらったという素顔だから、盗賊ギルドとしてはおもいっきり面子が潰れたわけだ。
解決したから良いじゃない、では済まない業界だからね。
メグのやったことを褒め称えることはできないのさ。かといって解決の一助となった彼女を処罰するってのも義理が立たない。
結果として、盗賊ギルドから出て行ってもらうって運びになった。
追放っていうと言葉が悪すぎるね。
本来やめられるような場所じゃないから。
一生、死ぬまでお日様の下は歩けないってのが裏社会ってもんだ。一身上の都合でやめさせていただきますってことは基本的にできない。
いろいろやばいこととかも知ってるわけだから、逃げたら間違いなく刺客が差し向けられるって世界なんだ。
そういうしがらみからメグが解放されたってのは、あるいは盗賊ギルド幹部の厚意かもしれない。
まったく何の問題もなく足を洗えたわけだからね。
けど、彼女は普通の社会で生きていく術を持っていない。
またぞろ泥棒で糊口をしのぐってことになったら、裏社会に逆戻りだ。
それで縁のあった俺たちのところにやってきたのである。
仲間に入れてくれ、とね。
メグには盗賊よりも冒険者の方が、少しは真っ当な人間に見えたってことだろう。
「それはもちろんかまわないが、メグの天賦とジョブはなんだ?」
名実ともに弱小クランの『希望』である。入りたいという人を拒否する理由はない。
ましてメグは知らない仲じゃないからね。
三人娘と歳も近いから、すぐに親和力だって高まるだろう。
「なんスか? それ」
きょとんとした顔のメグ。
そしてまったく同じ表情の、アスカ、ミリアリア、メイシャである。
前者は天賦もジョブも知らなかったから。後者はそれを知らない人間がいるってのが想像の外側だったからだ。
まあ、ジョブについては仕方がない部分はある。
俺たち冒険者や傭兵、軍人なんかにとってはすごく大事な情報だけど、普通に生きる人にはわりとどうでも良い話だからね。
パン屋さんのジョブなんてパン職人に決まってるわけだし。むしろパン屋さんのジョブが
自分のジョブを気にする一般人なんて、そうそう滅多にいない。
問題は天賦だ。
メグは自分の天賦を知らなかった。
それはすなわち、十歳になった年に至高神教会に連れて行ってもらっていない、ということである。
孤児院育ちの俺たちですら連れて行ってもらえたのに。
祝福の儀に際しての寄進なんて、ほんのわずかなものなのに。
盗賊ギルドの連中は子供が大切だから育てているわけじゃないってことは頭では判っていたけどな。
ここまで道具扱いだなんて。
思わず舌打ちをしそうになってしまった。俺はその程度だったんだけど、うちには感情表現の過激な人たちが揃っている。
「メグ! これから取り戻そう!」
「私たちも協力しますから」
「神の恩寵はあなたに降り注ぎますわ」
アスカ、ミリアリア、メイシャが、三方からメグを抱きしめてもみくちゃにしてしまう。
「なんスか!? これはいったいどこの奇祭なんスか!?」
沈みゆく船から助けを求めるように右手を伸ばす。
だが、ごめん。
俺にはどうすることもできない。
諦めて、もてあそばれてくれ。
「ライオネルのダンナぁぁぁ!」
紆余曲折あったが、俺たちはガイリアの街の至高神教会にきていた。
「一言で済ませないでほしいス。貞操を奪われるところだったスよ? 女の子に」
「女同士ならノーカンじゃね?」
くだらない会話をしながら。
ちなみに、この教会はうちのメイシャも信徒なので、なにかと懇意にしている。
あの子は報酬の分配があるたびに幾ばくかの寄進をしているしね。
さすが敬虔なる
俺もまあ、こないだの一件から寄進をしてるよ。ほんのわずかな額だけどね。
墓なんか不要って遺言をされちゃったら、このくらいしかできることはないからさ。
ともあれ、司教さまに事情を説明してメグに至高神の祝福をもらえるよう頼んでみる。
彼は老顔に驚きを浮かべながらも快く引き受けてくれた。
祝福を受けずに育った子供、というのも存在しているらしい。多くはないけどね。
孤児院だってやってくれるくらいだもの。
それより悪い境遇にある子供たちは、おそらく長生きすることもできないと思う。悲しいことだけどね。
祈りの捧げ方も知らなかったメグに、メイシャが身振り手振りを交えながら丁寧に説明し、なんとか格好だけは決まった。
礼拝堂にひざまずくメグ。
司祭さまが祝福の言葉を紡ぎ、彼女の頭上へとゆっくりと光が降りてくる。
俺たちも軽く頭を下げ、降り注ぐ威光へと祈りを捧げた。
いつ見ても荘厳な光景である。
やがて、儀式を終えてメグが立ち上がった。
はらはらと涙を流しながら。
「オレ……神様の声を初めて聞いたス……」
滅多にできない体験さ。
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