第217話 悪魔人間?
すっと走り込んだサリエリが、右側から炎剣エフリートで斬りかかる。
そして左側からは無銘短刀を構えたメグ、正面からは七宝聖剣をかざしたアスカだ。
ホーリーフィールドの中で苦しむメテウスは避けようがない。
しかし足元から伸びだ触手のようなものが三人を阻む。
「これなら!」
ユウギリが矢継ぎ早に矢を射かけるが、それも触手が弾いてしまう。
「やってくれたな。貴様ら」
ばりんと音を立て、ホーリーフィールドの光が砕け散った。
くっそう。たたみかけたかったなあ。
月光を構え、ニーニャを背後に庇いながら俺は短期的な作戦を考える。
あの触手は厄介だな。
それに、ホーリーフィールドの効きも悪い気がする。
もっと大ダメージを与えるはずなんだよな。普通は。実際、ナイアラートホテップにだって、もっと効いてたし。
となると、あんまり考えたくない結論になってしまいそうだ。
「お前、悪魔と人間の混血か?」
「このわずかな戦闘の結果からそこまで演算するか。稀代の軍師とはよくいったものだが、不正解だ」
にいと笑う。
すごくすごく気味の悪い笑みだ。
背筋を悪寒が走り抜けていく。
「語ってやろう。正解も知らずに死にたくはないだろうからな」
両手を広げる。
本当は語ってる隙に攻撃したいんだけど、足元から生えてるうねうね触手のせいで接近できない。
魔法と弓矢で崩してからじゃないと無理だな。こいつは。
「グリンウッド百年の計を練る私の前に、悪魔が現れたのだ。そして取引を持ちかけてきた」
あるあるだな。
いっけん人間が有利なような取引を持ちかけるんだ。
「それに乗ったわけか」
「いいや? なぜ私が悪魔ごときの提案に乗らなければならない? その場で斬り殺し、犯し、喰らってやったに決まってるだろう」
決まってない。
どんな精神構造してんだよ。こいつ。
けど判った。ようするに悪魔を体内に取り込むことで、悪魔の知識や能力を奪ったわけか。
けど、そんなことが可能なんだな。知らなかった。
「そりゃあ~ 悪魔を食べようなんて滅多に思わないのん~」
俺の表情を読み、サリエリがのへーっと笑う。
「そもそも悪魔は死ねば塵になりますから。生きたまま食べないといけませんよ」
「気持ち悪いね!」
ミリアリアの言葉にアスカが率直な感想を述べ、メテウスは嫌な顔をした。
「冒険者のごとき無頼漢に、国を背負うということの重みが貴様らに判るものか」
「アンタの言う国を背負うってのは、他国の女王を監禁することかい? そっちの方が国を誤る行為だって、悪魔の知識は教えてくれなかったのか?」
「は。しょせんは亜人どもの頭目ではないか。なにが国か」
鼻で笑った。
ん。充分だ。よく判ったよ。
「冒険者ごときに亜人ども。アンタのメンタリティはよく判ったよ」
「貴様もたいして変わらんだろう。女どもをはべらせて王様きどりなのだから」
「もう話す必要はないぞ。メテウス」
俺は右手を振って遮った。
本当は、どんな悪魔を食ったのかとか、どんな能力があるのかとか、そういう情報を引き出したかったんだけどね。
もう良いわ。
これ以上聞いていたら耳が腐る。
「アンタは殺した方が良いってのは充分に理解できたからな」
「よく言った。すぐに舐めた口をきけなくしてやろう」
言うが早いか、俺の方へと触手が伸びてくる。
避ければニーニャに当たってしまうから俺は動くことができない。
「秘剣!
しかし、月光には飛び道具もあるのだ。
触手を遠距離で迎撃する。
そしてそこに、アスカが走り込んできた。
「せいっ!」
一刀両断、七宝聖剣がまとめて触手を断ち切る。
苦悶するようにうごめいた触手が、メテウスの足元へと消えていく。
「ぐ」
顔をしかめたメテウスの周囲の空間が歪み、またまた単槍が飛び出す。
ぱっと目算できない数だ。
「マジックミサイル!
しかしそれらは、すべてミリアリアの魔法に迎撃される。
同じようにものすごい数の魔力弾を放って。
「な!?」
「さっきの防御結界。ただ防いだだけだと思ってました? ちゃんとその槍の威力も測らせてもらいましたよ」
メテウスが驚愕の表情を浮かべ、ミリアリアが微笑んだ。
「撃ち落とすだけならマジックミサイルで充分です」
「ばかな……」
一瞬の動揺。
それを見逃す前衛チームではない。
アスカとサリエリが左右から迫る。
「小娘ども!」
足元から現れた触手が迎え撃った。
「アスカっち~」
「うん!」
当たる寸前、サリエリが右へ、アスカが左へと跳ぶ。
互いの位置を入れ替えるだけの単純なフェイントだ。
「そんな目くらましが通用するか!」
惑わされることなく二人を正確に追尾する触手。
本当に厄介だな。
切ってもまた現れるし動きも速い。
韋駄天メグですら隙を突いて突っ込むことができないほどだ。
「もういっちょ~」
「わかった!」
呼吸を合わせ、今度はアスカが右へサリエリが左へと跳んだ。
二回目のクロスについていけず、触手が絡まりそうになる。
「そこです!」
それは、砂時計からこぼれる砂粒が数えられそうなほど短い停滞でしかない。
だがそのチャンスを虎視眈々と狙っていたユウギリにとっては、充分すぎる時間だった。
三本の矢が同時に放たれる。
一本はまっすぐ、残り二本は矢羽が咬み千切られており、不規則な軌道を描いて。
普通はこんなのが当たるわけがない。
しかし当たるわけのない射撃を当ててしまうのがユウギリの技倆なのだ。
三方から、メテウスに矢が迫る。
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