第218話 作戦変更
「この!」
アスカとサリエリを追い回していた触手が戻り、迫り来る矢をギリギリのところで弾いた。
……ふむ。
「メグ。ちょっといいか」
マキビシにホーリーウェポンをかけてもらおうとしていたメグを呼び寄せる。
メイシャも一緒に。
そして二人に作戦を耳打ちした。
「この作戦のカギはメグだ」
「まじスか……」
「俺も前に出るから、その間はメイシャが指示出しをするんだ」
「やってみますわ」
緊張した面持ちの二人。
俺はぽんぽんと頭を撫でてやる。
まかせたぞ。
「俺も前戦参加するぞ!」
大声で宣言して走り出す。
今まで俺のいたポジションに入り、ニーニャを守るのはメイシャだ。
「アスカとサリエリは各個に戦闘継続ですわ。ユウギリはネルママの援護を優先してくださいませ」
そして指示も出す。
的確だなぁ。前戦で戦う三人の中で最も戦闘力の低い俺をユウギリに援護させて、戦力の均一化を図ったわけだ。
泣ける!
「は! 二人が三人になったところで戦況は変わるまい!」
触手の動きが速くなる。
アスカに三本、サリエリにも三本、俺には二本がうねうねと迫ってきた。
近くで見るとかなり太い上に動きが不規則でさばきづらい。
その上、空間から短槍も飛んでくるのだ。もしそっちをミリアリアが牽制してくれていなかったら、ちょっと手がつけられない状態である。
しかも、最大火力であるミリアリアが防衛に手一杯になってしまっているため、有効打を与えられないってのも厳しい。
スリーウェイアイシクルランスの四連とかを叩き込めば、かなり戦局は有利になると思うんだけど、でかい魔法を使ってる間、空間からの攻撃と触手の攻撃、両方を前衛でさばかないといけないのだ。
さすがにそれは無理筋のため、ミリアリアは
あるいはサリエリが下がって魔法攻撃をするってのも手なんだけど、そうするとアスカと俺だけで触手をさばけるかって話になるんだよな。
まったく、要塞みたいなやつだよ。こいつは。
厄介きわまりないね。
「くっ! なんだこの動き! ぜんぜん近寄れないじゃないか!」
襲いくる触手を月光に弾きながら俺は叫んだ。
しっかりと斬り込めばたぶん月光なら触手を両断できるんだけど、そうするとこっちも隙ができてしまう。
そしたら他の触手にやられてしまうからね。弾くのに終始することになるのだ。
アスカとサリエルも同様である。
二人は俺より多くの触手を相手にしてる。より以上に踏み込めない。
と、メテウスは思ったのだろう。
調子に乗って触手の攻撃が加速する。
俺がわざわざ叫んだことで、アスカもサリエリも狙い気に付いてくれたしね。
触手を引きずり回すのが目的だ、とね。
メテウスの注意が俺たちだけ集中する。
だから、やつはメグが隠形したことに気づかなかった。
そしてもう目の前にいるということにも。
「な!?」
メテウスがメグの姿を認識したのは、腹を刺されたときである。
「こんにちわス」
「小娘!?」
「腹を刺させても後ろにさがらない。ネルダンさんの言ったとおり、あんたここから動けないんスね」
「なっ!?」
「じゃ、さようならス」
右の回し蹴りが一閃する。
ブーツの爪先に煌めく刃。ホーリーウェポンのかかった。
「がっ!?」
ざっくりと胸を切られ、だがメテウスは一歩も動けない。その場に立ち続ける。
に、笑ったメグが身体を反転させた。
振り抜かれた足が戻る。
上段の後ろ回し蹴り。
「ぐあ!」
のけぞったメテウスの頬から血が飛んだ。
「舐めるなよ! 小娘ごときが!」
凄まじい勢いで触手が戻っていく。
メグを貫くために。
「舐めてるのは、どっちスかね」
ひとつの目標に向かってまっすぐに進んでいく触手など、面倒でも厄介でもない。
ただの的だ。
「せい!」
「とりゃ~」
「破っ!」
アスカの七宝聖剣が、サリエリの炎剣エフリートが、そして俺の月光が、すべての触手を斬り捨てる。
一瞬で防御手段を奪われたメテウスが目を剥いた。
同時に、その身体に矢が突き刺さる。
「あらかじめ放っておきました。九本、すべてこのタイミングで到達するように」
「なん……だと……?」
信じられないものでも見るように、メテウスは自らの身体に突き立った九本の矢を見つめた。
信じられないのは俺も一緒だけどね!
ユウギリが弓の名手なのは知ってたけど、時間差射撃とかできるんだ。驚愕だよ。
「ところで、驚くのはかまいませんが、空間からの攻撃を止めて良いんですか? 私がフリーハンドになってしまいますよ」
わざとらしく警告したミリアリアの周囲には、すでに十二本のアイシクルランスが遊弋していた。
「な!?」
「では、ごきげんよう。宰相閣下」
杖をかざす。
高速で飛んだ氷の槍が次々とメテウスに突き刺さり、宰相を不格好な氷像へと変えていく。
「馬鹿な……なんでこんな一瞬で……」
「むしろこっちが訊きたいよ。なぜすぐに勝負を決めようとせず、じわじわ嬲るような戦い方をしたのか、とね」
俺の言葉が届いたかは判らない。
だが、それがメテウスの敗因である。
たとえば最初の空間からの奇襲、あれに気づいたのはアスカだけだった。もしあのとき広範囲攻撃をおこなっていれば、俺たちのほとんどを倒すことができただろう。
慢心なのか嗜好なのかは判らないが、嬲り殺そうとした。
だから作戦を考える時間が生まれた。
それだけのことなのである。
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