第219話 逃走
「見ての通りだ! グリンウッド王国宰相メテウスは悪魔だった!!」
俺は大音声で告げる。
窓などから戦いを見ていたであろう者たちに聞こえるように。
「人類の敵である悪魔に国政を壟断させた罪! 厳しく問われることになるだろう!!」
はっきりと言い放つ。
こういうのは先に言った方が主導権を握れるからね。
後になってから、あれはこうだったとかああだったとかぼそぼそ言っても、残念ながら説得力はなかったりするんだよ。
一番最初にでかい声でどーんと主張しておけば、はっきりと印象に残るんだ。
まあ、高尚でもなんでもない交渉術だし、いつもこういうことをやってると大変に嫌われることになるから、あんまりオススメできないけどね。
でも、メテウスが悪魔だったってことを揉み消されて、宰相殺しの罪だけを被せられたんじゃかなわないから、ここは「目撃者」を増やしておく手である。
城内のあちこちからざわざわと動揺の気配が漂ってくる。
メテウスの異常な戦闘力は、一目瞭然の証拠だから。
普通の人間は空間から槍を撃てないし、触手も生えてないもん。
「よし。とんずらするぞ。サリエリ」
「あいよぅおまいさん~ うちは哀しいインビジブル屋~」
謎の歌をうたいながら、サリエリが全員の姿を魔法で隠した。
これはこれで理解不能な現象だろうけど、普通に逃げたら追撃されるから仕方がない。
俺がグリンウッドの王様だった間違いなく追いかけさせるもん。
で、口封じする。
宰相が悪魔だったなんて、絶対に、なにがあっても知られるわけにはいけないことだからだ。
証人はすべて殺す、くらいの決意をしたっておかしくない。
そうさせないために、いち早く宣言したわけだけど、それで俺たちが安全になるかというと、まったくそんなことはない。
秘密を守るためって理由のほかに、恨みつらみって理由もプラスされてしまうだけだ。
「ニーニャ。城を出たら走るけど、つらかったら言ってくれ。背負うから」
小声で話しかける。
大きな声を出したら、せっかく姿を消している意味がないから。
「うん……」
ちょっともじもじしながらニーニャが応えた。
なんだ? トイレか?
いまは我慢してくれ。
夜の街を駆け抜けていく。
案の定、ニーニャの体力では俺たちの足に着いてこれなかったため、なぜかアスカが背負って走っていた。
なにがすごいって、背中に一人乗せてるのにミリアリアより表情が楽そうだってことだろうね。
どんだけモンスターな体力してるんだ。
「母ちゃんだと体力的に心配だからわたしが背負う」
って主張心だぜ。こいつ。
つらいなあ。
しかも娘たちがみんな、うんうん頷いてたんだよ。
どんだけ体力ないって思われてんだよ。俺。
泣けるなあ。
「ネルダンさん。やっとお城が騒がしくなってきたス」
メグが注意を喚起した。
ちらりと振り向けば、城のかがり火の数は増え、五町(五百メートル)も離れた俺たちのところまで喧噪が伝わってくる。
「さて、問題はここからだな」
軽く頷き、俺は右手で顎を撫でた。
王都の街門は当然のように閉まっている時刻である。
どこかの宿で夜を明かして、朝になってから王都を出るというのが常識的な手段なのだが、なんとなくとっととジークフリート号に乗ってしまった方が良い気がするのだ。
根拠はない。
ただの勘である。
「ミリアリア。飛行魔法で街壁を飛び越えよう」
「ずいぶんと急ぎますね。母さん。八人で飛ぶとなると、残りの魔力的にギリギリですよ?」
小首をかしげるミリアリア。
余力を残さなくていいのか、と、言外に訊ねている。
メテウスとの戦闘で、彼女は間断なくマジックミサイルを撃ち続けていた。きちんと数えていたわけではないが、おそらく総数で数百発である。
魔力消費の少ない魔法だとはいえ、大魔法使いなんて呼ばれるミリアリアとはいえ、かなり消耗したことは疑いない。
ここで全員分の飛行魔法と使うと、もしすぐに戦闘となった場合、彼女は役立たずになってしまう。
「朝まで王都にいるのはやばい気がするんだよな。なんの根拠もないんだけど」
「軍師の勘ですか?」
くすりとミリアリアが笑い、俺の策に頷いてくれた。
街路を抜け、門ではなく壁へと向かう。
ジークフリート号を隠してある森と最短距離になるような場所だ。
もちろん見えているわけではないが、座標を立体的に把握するのはメグの得意技である。ダンジョンに潜ったときなども能力を発揮してくれている。
「このへんスね」
メグの案内で到着した街壁の近くで、俺たちは息を整える。
さすがに疲れたのか、アスカもニーニャをおろした。
まあ、ここからは走る必要はないしね。
なにしろ空を飛ぶんだから。
「んん~ ネルネルの判断で正しかったっぽいねぇ」
「ですね」
目の良いサリエリとユウギリが遙か後方を見はるかす。すでに兵士たちが動いているっぽい。
速いな。
そして数もかなり多い。
今夜のうちにすべての宿と飲み屋をチェックするつもりか。
絶対に王都から出さない腹だな。
「集まってください」
息の整ったミリアリアが皆を差し招く。
ぞろぞろと魔法使いの周囲に集まる六人。
ん?
一人足りないぞ。
周囲を見回すと、メイシャが芝の上にへたり込んでいた。
て、うぉい! 妙に静だと思ったら!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます