第14話 山麓の戦い(3)
戦場に躍り込んだ俺とアスカは、右に左にと反乱軍を斬って捨てる。
もう、バッサバッサと。
無双の勇者みたいだろ。
じつはちゃんとカラクリがある。
正規兵も反乱軍も、異常な戦場でまったき興奮状態だってのがひとつ。誰も冷静な判断ができてないのだ。
カッカしちゃって周囲が見えてないから、簡単に隙が突ける。
それにプラスして、俺のブロードソードにはメイシャの
つまり、鉄製の鎧だってチーズかバターみたいに斬れちゃうってことだ。
冷静で、かつ強大な戦力が投入されたことで反乱軍の勢いが止まり、王国正規兵たちが落ち着きを取り戻していく。
そうなったら、もう普通に数の差が生きてくる。
反乱軍は各所で分断され、血祭りに上げられていった。
「若いの! なかなかやるではないか!」
いつの間にか俺の横まで移動してきたカイトス将軍がお褒めの言葉をくださった。
よっし。
これで追加報酬確定である。
戦場でおおっぴらに褒めるってのはそういうことなのだ。
「お褒めに預かり恐縮! ですが今はこの窮地を切り抜けましょう!」
大げさに叫んで、俺は剣を振るう。
いやまあ、もう窮地でも何でもないんだけどな。
反乱軍の足は止まったし、正規兵は元気を取り戻したし。
多少の揺り返しはあるかもしれないけど、このまま王国軍が勝利するだろう。
わざわざ叫んだのは真剣さのアピールである。
あと、褒められましたよってことを周囲に知らせるためね。
「この借りは忘れん! おぬしのおかげで命拾いしたぞ!」
それだけ言って、将軍は激戦へと戻っていった。
魔法の大剣を振り回して。
元気な中年である。
そうこうしているうちに、俺とアスカの身体を回復の光が包む。
メイシャの魔法だ。
乱戦の中にいるから、無傷ってわけにはいかないのである。
なので、メイシャとミリアリアには、すこし離れた場所から魔法での援護を頼んであるのだ。
さすがに一緒に接近戦ってわけにはいかないからね。
正規兵を攻撃しようとしている反乱軍の背中をマジックミサイルで撃ったり、ダメージをうけた正規兵を回復したり。
あ、こういう状況なので、ミリアリアはマジックミサイルしか使えないよ。
複雑なことをやらせようとしたらテンパるからね。
とにかく味方を攻撃しようとしてる反乱軍を撃て、としか指示は出してない。
もし反乱軍に
うっとうしくて仕方ないんだから。
もちろんそんな冷静さは残っていないと踏んでの作戦だ。
「うーりゃ!」
気合いの声とともに、アスカが三人目の反乱軍を斬り倒す。
と同時に、戦場の各所から、「降伏する」とか「抵抗せぬ」とかって声が聞こえ始めた。
王国軍にも降伏勧告を出す余裕が生まれたんだろう。
それにしても、
二人合わせて六人撃破。
少ないように見えるかもしれないけれど、相手も武装しているし乱戦だし、上出来な方だろう。
「名を聞いておこうか。若いの」
「ガイリアの街の冒険者、『希望』クランのライオネルと申します。カイトス将軍閣下」
地面に片膝をつき、俺はぐっと頭を下げる。
その背後に整列した三人娘も、同様のポーズで名乗った。
結局、戦いは夜明けまで一刻(二時間)ほどを残して決着する。王国軍の死者は十四名、反乱軍のそれは八十二名という圧倒的な勝利で。
まあ、傭兵や冒険者に三十名ほどの戦死者が出たが、これは計算に入れる必要のない数字である。
「ライオネル。汝の天賦は
「恐縮です。閣下」
べた褒めだ。
社交辞令じゃなしに恐縮してしまうね。
俺の天賦である軍師というのは少し珍しい。珍しいんだけど、だからどうしたっていう天賦でもあるんだ。
ただ、作戦立案や計略の才があるってだけ。
軍隊ならともかく、日常生活ではびっくりするほど役に立たない。
「在野にこれほどの人材が埋もれていたとは驚きだ。どうだ?
そらきた、と、思った。
じつは軍隊からのスカウトって、いままでもなかったわけじゃない。軍事的な天賦だからね。軍師なんて。
さすがに将軍クラスからの誘いは初めてだけど。
ここで頷いたら、たぶん俺はいきなり将校だ。王国正規軍の。
そういうのが夢物語じゃない地位なのだ。
孤児院出身の若造が、とんでもない立身出世である。
けど、俺はゆっくりと首を横に振った。
「ありがたいお話です閣下。しかし私は、この娘たちの師たる責務を自らに課しております。彼女らが一人前になるその日まで、どなたにもお仕えするつもりはございません」
「そうか! 軍師ではなく教師か! ならば仕方ないな!」
そんなに執着はないみたいで良かった。
「アスカとやら!」
「はいっ!」
「ミリアリアとやら!」
「はい」
「メイシャとやら!」
「はいですわ」
大きな声で呼ばれ、面食らいながらも三人が応える。
「汝らは良い師を持ったぞ。誇るが良い」
一転して優しく語りかける。
『はい!』
声を揃え、満面の笑みで返事をする三人娘。
やめろよぅ。
こういうのは照れるんだって。
俺はといえば、なんだか身の置き所がなくて小さくなっていた。
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