第15章
第211話 逆撃の鐘を打ち鳴らせ
温王ピリムが乗る楼車を守るように中心に入れて展開したスペンシル・インゴルスタ連合軍が進む。
四万っていう大軍だからね。複雑な行軍なんかできない。
凸形陣を保ったまま、グリンウッド軍五万が基地にしているデリンダート平野へを目指して、ゆっくりと整然と。
前衛部隊は五千で、指揮を執ってるのはアレクサンドラだ。
本当は彼女が総指揮を執るべきだと思うんだけど、どーしても最前線に行くって押し切られちゃった。
「あいつらは一万発殴ってやらないと気が済まない」
だそうである。
アスカもアレクサンドラの指揮下に入って、一緒に殴りに行くんだそうだ。
好戦的ですよね。
左翼六千の指揮は騎士ハサール。右翼六千の指揮は騎士ザッシマ。
そして本隊は二万三千で俺が直接指揮するが、俺は全体の動きも見ないといけないので、実際はサリエリが動かすことになる。
中心部がやたらでっかい太っちょの凸形陣だけど、こればっかりは仕方がない。
混成部隊だから、指揮の統一が難しいんだ。
本当はスペンシル軍はスペンシル軍で、インゴルスタ軍はインゴルスタ軍で動いた方が指揮はしやすいんだけど、政治的な効果ってやつがあるから。
人間とドワーフが一丸となってグリンウッドを討つってことに意味がある。
ただ、もろに敵にぶつかる部隊は、さすがにちゃんと戦えるようにしてある。
前衛はインゴルスタ軍だけで編成されていて、それにアスカが客将として参加している感じだし、両翼はスペンシル軍が担っている。
やがてデリンダート平野が近づき、グリンウッド軍が張った陣地が見えてきた。
すでに防御態勢を整えている。
混乱の坩堝とかだったらいいなと思っていたけど、敵将のイノール将軍というのは、そこまで無能じゃないらしい。
「ていうか、ここで俺たちを全滅させれば、それはそれでグリンウッドの勝利ですしね。しかもこっちは混成軍で数も少ない
横にいる女王ピリムに解説した。
実際に指揮を執るのは俺だけど、名目上は彼女が総大将である。
「つまり、わたくしたちが不利ということですか? 軍師ライオネル」
「数の上では。ですが士気で勝ってます。一万程度の戦力差なんか、たぶん問題にもならないと思いますよ」
一度言葉を切り、俺は笑った。
「まして先頭にはアスカがおります」
「アレクもいますよ」
女王も笑みを返す。
敵陣からぱらぱらと矢が飛んできた。
まだ遠いため、簡単に盾で防げる。
間合いも判らないというより、兵たちはイノールほど割り切って考えられないということだろう。
つい先日まで味方だったインゴルスタ軍が矛を逆しまにして向かってくるのだから。
女王が人質にされていたから仕方なく一緒に戦っていた、なんて、一般の兵士は知らされてないだろうしね。
もちろんインゴルスタは雑兵に至るまで周知徹底されていたから、奥歯を噛みしめる思いで共闘していたわけだ。
いや、共闘っていうより矢面に立たされていた。指揮してるのがアレクサンドラだから損害は最小限に抑えられてたけど、凡百の将だったらもっとたくさん死んでる。
この状況でグリンウッドに友誼を感じるほど、インゴルスタ人は博愛主義者ではないだろう。
「全弓箭兵応射、三連。しかる後、前衛部隊前進」
伝声管を通して出した俺の命令は、瞬く間に全軍に広がっていく。
各所から鳥が飛び立つように矢が撃ちあがった。
まだ遠いってのはこっちも同じなんだけど、連携もなく先走りで撃っちゃった矢に対して本格的な一斉射撃で応じれば敵はどう思うかって話だね。
実効というより心理戦である。
案の定、敵の前衛が浮き足立つ。
そのタイミングを見計らい、アレクサンドラ率いる前衛部隊が偃月陣で突入した。
見事だね。
将が先頭に立って突撃する超攻撃的な陣形である。浮き足だったグリンウッド軍に止められる道理がない。
破城槌で壁をぶっ叩いたときみたいな勢いで、グリンウッド軍前衛の約八千が崩れる。
もう、崩壊って表現そのままに。
一撃かよ。すげえな、豪腕アレクサンドラ。
「うーむ」
「どうしました? 軍師ライオネル」
「これたぶん、アレクサンドラの前衛部隊だけで決着してしまいますね」
「そうなのですか?」
女王ピリムは軍事に精通しているわけじゃないから判らないかもだけど、一撃で前衛部隊が崩されるなんてことは、普通は起こらないのである。
どうして普通は起きないことが起きてしまったのかといえば、ひとつは戦意の差だ。
女王ピリムの帰還でインゴルスタ軍の士気は馬鹿みたいに跳ね上がっていた。そこにもってきて攻撃力の馬鹿高い偃月陣での突撃だもの。
混乱してるグリンウッド軍は文字通り粉砕された。
五千対八千だったとか、そんなことは問題にすらならなかった。
そしてもうひとつは兵の質の差である。
「ご覧ください、ピリム陛下」
すっと伸ばした指の先、部隊の先頭で戦うアレクサンドラとアスカの姿があった。
雷帝の斧が一閃すれば、敵兵は上下に両断され。
七宝聖剣が振り下ろされれば、左右に両断される。
凄まじい豪勇に敵は恐れをなし、二人が一歩前進するだけでわっと逃げ出すような始末だ。
これでは勝負になるはずがない。
「あら、リリエンも頑張ってますね」
微笑む女王の視線の先では、忠烈という異名を賜った少女が懸命に槍を振るっていた。
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