第276話 横やりは入れさせない
斬りつけ、受け流し。
突き出し、はじき返し。
掬い上げ、叩き潰す。
刃鳴りが連鎖し、魔力が過負荷の火花をちらして、仮面のようなイタクァの顔と不敵な笑みを浮かべるアスカのそれを照らし出した。
なんというか、神話や叙事詩に描かれるような戦いである。
人の身で、どこまで神に近づけるのか。
あるいは神を超えられるのか。
アスカの戦いには、そんな問いかけすら感じる。
やばい。
目を奪われてしまう。
「ネルネルぅ。久々のアスカっち本気だねぇ」
「なんてこった。俺との練習試合のときはがっつり手を抜いてやがったんだな。あいつ」
「なにぉいまさらぁ」
のへのへと笑うサリエリ。
つーかこいつも、アスカに迫るくらいの強さだよな。
なんだろう。
もう逆立ちしても勝てないくらいの実力差になっちまったなぁ。
「ライオネルさん。本当に援護しなくていいのですか?」
いちおう、まだイチイバルを構えたままのユウギリが確認する。
本人も撃てないことは判ってるんだろうけどね。
狙える動きじゃないもの。
ビヤーキーならいくらでも攻撃のしようがある。軌道を読んで飛んでいるその先を狙えば良いからね。
「アスカを信じるんだ。俺たちにできることは、あいつが戦いやすいように場を整えることだな」
そういって俺が指さすのは、名状しがたき教団の方である。
フレアチックエクスプロージョンは魔力を利用されてしまったから、一人も減っていないのだ。
そして、イタクァと戦うアスカを攻撃しようと杖を向けている。
援護のつもりなんだろうけどね。
「あっちをなんとかしよう」
横やりを入れられると面倒だ。
「ですね!」
大きく頷いたユウギリ。
次々に矢を放ち、狂信者どもを射殺していく。
一町(約百メートル)ほども離れているが、外れ矢はまったくない。
さすが。
抜群の腕だ。
「この距離だと、魔法は狙って当てられないですからね」
ほうとミリアリアが嘆息する。
あそこまで魔法が届かないってことではないらしいんだけど、離れれば離れるほどコントロールって難しくんだってさ。
だから最大距離の五町(約五百五十メートル)先くらいでフレアチックエクスプロージョンを使うときなんかは、ただまっすぐに飛ばしてるだけなんだそうだ。
衝突させる場所をサリエリと二人で決めてね。
俺には魔法のことはよく判らないけど、そこまで飛ばせるってだけですごいんだけどね。
逆に、ユウギリの弓矢ではそこまで届かない。
このあたり、魔法と弓矢の運用ってちゃんと特性を考えないといけないって証左だよね。
「ライオネルさん。敵がこっちに向かってきます」
「よし。釣れたな」
ユウギリの言葉に俺はにやりと笑う。
五人、六人と倒された名状しがたき教団が、こちらへと移動を開始した。弓矢での攻撃はべつに嫌がらせではなく、彼らの攻撃目標をアスカではなく俺たちに変えるためだ。
もちろん、アスカの戦いを邪魔しないために。
「大物は譲ったからぁ、うちは
適当なことを言いながら、サリエリが先頭集団に突っ込んでいく。
武勲を挙げることになんか、まったく頓着してないくせにね。
影働きに徹しているんじゃなくて、こいつの場合はただ単に目立ちたくないだけ。
なので、うまいことアスカに手柄を立てさせるように動くんだ。
けど、いまアスカは動けないからね。
サリエリがエースとして活躍するしかない。
一挙動で距離を詰める。
炎剣エフリートが閃く。
さらさらの銀髪が流れる。
彼女の後ろには、狂信者の死体が転がる。
すべて一撃で葬られていた。
「うちはぁ、アスカっちみたいに優しくないからねぃ」
相手の良いところを引き出そうとか、互いに技を高めようとか、そういう発想は
より効率的に、より確実に相手を仕留める。
ただそれだけだ。
まあ慈悲があるとすれば、無用な苦しみを与えずに一撃で息の根を止めていることだろうけど、サリエリだしなぁ。
圧倒的なサリエリの剣技に名状しがたき教団がたじろぎ、動きを鈍らせる。
「おろかな」
「足を止めたら的ですよ」
ユウギリの矢とミリアリアの攻撃魔法が、びびったやつから打ち倒していく。
完全に機先を制した格好だ。
こうなったら、もう数の差なんか活かせない。
こっちに向かってきていた名状しがたき教団の連中は、櫛の歯が欠けるようにぼろぼろと逃げ出していった。
四十人くらいで向かってきて、十人ちょっと倒されちゃって逃げるんだから無様な話さ。
ただ、ここでかさにかかって追いかけると、必死の反撃を受ける可能性がある。
「サリエリ。深追いするなよ」
「にょいにょいー」
謎の返事をしたとき、すでに彼女は足を止め、ぶんと剣を振ってついた血脂を飛ばしていた。
うん。
こいつにはわざわざ指示なんて出す必要ないね。
勇者の天賦は伊達じゃない。
たまに、俺より戦況が見えてるんじゃないかって疑うレベルだよ。
「まったく出番がなかったスね」
すうっと現れたメグが言った。
肩をすくめながら。
いつでも援護に入れるように隠形していたのだ。
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