第19話 ヒロイン爆誕!
強姦魔どもは縛り上げて荷台に転がし、俺たちは王都ガラングランへと出発した。
残りの行程は五日ほどなので、べつにガイリアに戻っても時間的には変わらなかったのだけれど、せっかくだから王都観光をしたいという三人娘の主張に押し切られた格好である。
遊んでる時間があれば良いけどね。
彼女たちはなんにも考えてないだろうが、王都についたらヒーローだよ。あなたたち。
女性の敵をやっつけたんだから。
新聞とかの取材だってあるんじゃないかなぁ。
俺? 俺は
一頭立て四両の馬車は、二頭立て二両に繋ぎ直して王都への道を進む。それぞれが一両を曳航する形でね。
なんでこんな変則的なことをやってるかっていうと、御者をやれるのが俺とアニータだけだからだ。
まさか強姦魔どもにやらせるわけにもいかないし。
「わたしも今度練習するよ!」
「そうだな。ちゃんと全員に教えてやるよ」
横に座ったアスカが、元気に決意を表明する。
乗馬技能にしても御者技能にしても、日常生活では滅多に使わないんだけど、旅をするときには便利なのだ。
それにまあ、戦争のときとかな。
乗馬できるってことになると、徴募されたときに騎兵として採用される。
そしたら歩兵なんかよりはずっと生き残る確率は上がるわけだ。
戦争は国の大事で、俺たち庶民にはどうすることもできないけれど、生き残る手段を一つでも二つでも積み重ねておいた方が良いに決まってるからね。
ともあれ、次の宿場で王都の冒険者ギルドへの先触れを頼み、ついでに囚人用の拘束具も用意してもらった。
強制労働とかのときに使われてる、手と足が繋がれていて走ったり跳んだりできないやつね。
芋虫状態だとトイレにも行けないからさ。
そんなわけで、そこからの旅程は数珠つなぎで歩いてもらう。見せしめってことじゃなくて体力を奪うために。
ずっと荷台で座ってたら元気一杯になってしまう。どんな隙を突かれるかわからないから、彼らには疲労困憊してもらった方が良いのさ。
「アニータにしてきたことを考えたら、こんなの生ぬるいけどね!」
激昂しているのはアスカだ。
彼女たちが聞き出したところによれば、あの強姦魔どもはそうとう酷いことをしてきたらしい。
男の俺が聞くのは躊躇われるような。
「み……水……」
「次の休憩は一刻(二時間)後ですわ。それまで我慢なさい」
後方からは男どもの哀願と、聖職者の冷たい声が響いている。
当たり前だけど、やつらに与える水も食料も最低限だ。
べつに死んだら死んだでかまわないからね。
王都が近づくと、街門のあたりに人だかりができているのが見えてきた。
先触れに走ってもらったからね。情報が伝わっているのだろう。
門兵が小走りに向かってくる。
俺は馬車を停め、手綱を数日の練習で少しは操れるようになってきたアスカに預けて地上に降りた。
まさか高いところから挨拶ってわけにはいかないからね。
「冒険者クラン『希望』か?」
「は。代表者のライオネルと申します。捕縛した婦女暴行犯どもを連行して参りました」
「苦労である」
そういって門兵が手を挙げると、兵士がわらわらと寄ってきて、強姦魔どもの鎖を手に取る。
このまま連行していってくれるんだろう。
「諸君らには守備隊長よりご下問がある。このまま馬車を進めて西門をくぐり、第三番営舎に赴くように」
「承知いたしました」
儀礼的なやりとりの後、俺はふたたび馬車を動かして王都の街門をくぐった。
大歓声の中ね。
中には、アスカやミリアリア、メイシャの名を叫んでいる声援もあった。
すっかり英雄だね。
ちなみに俺の名前を呼んでくれる人はいない。リーダーなのに。
こればっかりは仕方がないんだけどね。
女性の敵をやっつけたのは、やっぱり女の勇者であった方が見栄えがするもんだから。
愛想良く三人娘たちが手を振って声援に応じ、馬車を操る俺とアニータは無表情で手綱を操る。
他意があるわけじゃなくて、真剣だからさ!
すごい人混みなんだもん。馬を興奮させないよう、車輪で人を引っかけないよう、細心の注意を払っての手綱捌きですよ。
もうちょっと道を空けてくれぇ。
たのむぅ。
「
重々しく守備隊長さんが告げる。
どういう事情かってのは、書簡にして先触れに預けておいたからね。王都の冒険者ギルドからちゃんと伝わっているはずだ。
「恐縮です。治安維持の一助となれたのであれば、これに勝る栄誉はありません」
「うむ。女子供に無体を働くとは、まさにダニの所業よ。生きる価値もないわ」
守備隊長は息巻いているが、詮議はこれからだからね。
まだ強姦魔ども処分が決まったわけじゃない。
がっつり金を積んで無罪放免って可能性だってないわけじゃないんだ。
「公正な判断を、と、願うのみです」
俺は深く言及するのを避けて頭を下げる。
お任せしますって態度は、もちろん処世術だ。
俺たちみたいな冒険者風情が意見することを嫌う官憲も少なくないからね。
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