第18話 女性の敵をやっつけろ
ガイリアからガラングランまでは、通常なら七日ほどの距離だ。
途中の宿場町も充実しており、旅程としてはかなり楽な部類に入る。
しかし、三ヶ月近く前の大雨で街道の一部が崩落し、まだ全面復旧に至っていない。
そのため少しばかり迂回しなくてはいけないのだ。
問題はこの迂回路である。
主街道ではないため整備は行き届いておらず、宿場もない。
「つまり、明日と明後日は野営になるということだ。けっして火を絶やさず、変事に対応できるようにしておいてほしい」
地図を示しながらの俺の言葉に、アスカ、ミリアリア、メイシャの三人が真剣に頷いた。
冒険者にとって野営なんぞは慣れたものであるが、だからといって積極的にやりたいわけではない。
ちゃんと屋根のある部屋に泊まることができるなら、それに越したことはないのである。
で、問題はこの三人以外だ。
男たちはにやにや笑いを浮かべているし、アニータはうつむいてるし。
なんていうか、宿場のない迂回路で、野営中に襲う気まんまんですね。しかも野営二日目あたり。
俺たちの集中力が途切れたタイミングを狙って。
ここまで彼らの行動を観察した結果、非常に慣れていることが判明した。すごく親切を装って警戒心をほぐしてくるし、話術も巧みで食事のときなどは三人娘は笑いっぱなしだ。
騙されているフリのメイシャとミリアリアはともかく、アスカなんかはすっかり打ち解けちゃってる。
たぶんこの一、二ヶ月の間、同様の犯行を繰り返してきたんだろう。
女冒険者だってプライドがあるから、商売人ごときに強姦されましたなんて訴え出ることはできない。
返り討ちにできなかったのか、弱いな、って笑われるのがオチだからね。
冒険者ってのはそういう世界なんだ。
腕一本で生きてるから、弱いことが格好悪いのと同義。
食事に麻痺毒とか盛られたら、抵抗も返り討ちもない話なんだけど。
ちらっとメイシャに目配せする。
この二、三日が山場だぞ、と。
輝くような笑みが返ってきた。
最初に狙われるとしたらまず彼女だ。金の髪に青い瞳、とろけるような美貌と、わがままボディの持ち主だもの。
反対にミリアリアは、わりと特殊な性的嗜好のものじゃないと食指が動かないかもしれない。
可愛いんだけどね。ものすごく。
でも、セックスアピールという点ではいささか弱いのだ。
アスカは十六歳の女の子として平均的な体つきだから、これはこれで狙われやすい気もする。
商人どもを信頼しきってるってのも問題だし。
いずれにしても、ここ数日が勝負になるだろう。
で、野営一日目である。
「いやあ、いきなり動くとは思わなかったなぁ」
ロープでぐるぐる巻きにされた男どもを見下ろし、俺は頭を掻いた。
十重二十重に罠を張り巡らし、水も通さぬ計略を用意していたのに、まったく使う機会がなかったわけですよ。
今日の夕食は我々で用意します。なんて、無駄に爽やかな笑顔で宣言したくせにアニータに料理をさせた彼らは、俺たちが麻痺したと思い込んで襲いかかってきた。
まあ、アニータに麻痺毒を仕込ませたのである。
しかし当然のように、彼女は俺たちに抱き込まれていた。
麻痺したふりにまんまと騙されて襲いかかってきた七人を、あっさりふん縛って事件解決である。なんともつまんない幕切れで申し訳ない。
だまし討ちとかしようって考える人間ってさ、自分が騙されるとは考えないもんなんだよね。
「詐欺師なんかも一緒だけどな。自分だけが相手を騙せるとでも思ってんのかね」
しゃがんで、リーダー格の男の頭を、剣の鞘でつついてやる。
「てめえら……冒険者風情が商人に手を出して、ただで済むと思うなよ?」
凄んでくる。
芋虫みたいな状態なのに。
元気なことだよ。
「ただで済むなんて思ってないさ。俺たち冒険者は必ず復讐する。何年何十年かかろうと。本人が死んでいたらその子孫にな。絶対に恨みを忘れないし、クランの代替わりごとに語り継いでいく」
歌うように教えてやった。
冒険者の不文律を。
復讐は何も生み出さないが、必ず復讐するのだという評判は、冒険者の身の安全をある程度まで保障してくれるのだ。
「お前さん方が手込めにした女性冒険者たちが、このまま黙って泣き寝入りするなんて思わないことだ」
自分だけの恥だと思って口を閉ざしてきた女性も、こいつらが常習犯だと知った以上は黙っていないだろう。
そしてことが公になれば、冒険者ギルドだって重い腰を上げる。
所属している冒険者が被害に遭ったわけだからね。
「それに! アニータにしたことも許さないからね!」
腰に手を当てて仁王立ちしているのはアスカだ。
彼女は今夜、麻痺したフリをする段になって事情を聞かされた。疎外感からか、男どもを捕縛するときには八面六臂の活躍を見せたものである。
動ける状態の剣士が貧弱な商人ごときに負けるはずもなく、彼女一人で四人捕まえちゃった。
あとの三人は、俺とミリアリアとメイシャね。
まあ、魔法使いや僧侶にすら勝てないって話さ。麻痺してる女を襲うしか能がないような男どもだもの。
「同業者の女にまでひどいことをして、主家が許してくれればいいけどなぁ」
くつくつと俺は笑う。
反比例して悪くなっていった男どもの顔色は、死人のそれとたいして変わらなかった。
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