第271話 ミスカトニック大学
「三ヶ月くらい籠もって勉強したいです」
「だねぃ」
ミスカトニック大学から帰ってきたミリアリアとサリエリは興奮冷めやらぬ様子だった。
勉強家のミリアリアはともかく、努力している姿をけっして他人に見せないサリエリまで。
魔術の都の大学は、学究の徒にとってはそれほどのものなんだろうね。
反対に、メイシャの方は仏頂面である。
「至高神様と他の神々を同列に扱うとか、ありえませんわ」
もう、ぷんすかって感じだ。
温厚なメイシャを怒らせるとは、西方の至高神教会はなかなかに剛の者たちである。
「まず至高神様がいて、その下に他の神々がいるのですわ。ネルママだって当然そう思いますでしょう?」
「序列なんでどうでもいいんじゃないかなぁ」
「神罰ヒップアタック!」
「ぎゃーすっ」
よく判らないので適当なことを答えたら、豊かなお尻で弾き飛ばされた。
なんだその謎の神罰は!
「メイの前で至高神の悪口を言うなんて……ばかな母ちゃん……」
そしてアスカが同情するふりをする。
悪口なんて言ってないじゃん。
言いがかりじゃん。
弾き飛ばされた先のベッドの上から抗議するけど、華麗にスルーされた。
ようするに西大陸と中央大陸では、同じ至高神の信仰でもありようが少し違うということだ。
だからこそ、悪魔という立ち位置まで堕された古き神ノーデンスも、至高神信仰の地で普通に暮らせる。
「本当に、神族といっても様々だな」
ひたすらに戦いを求めるアシュラ神族、やってることは悪魔とたいして変わらないスサノオ神、慈愛に満ちたアマテラス神、そして魔道具作成が趣味のノーデンス。
じつに個性的だ。
「それは当たり前ですわ、ネルママ。人間だって人それぞれですもの」
「そりゃそうか」
十人の人間がいれば十通りの個性があって当然。
人間ってひとくくりにしてしまっては、さすがに主語が大きすぎるというものだろう。
「それで母さん。古き神ノーデンスは、協力の見返りになにを要求してきたんですか?」
ミリアリアの問いだ。
「西方魔術結社がなんか困ってるから協力してやってくれ、だそうだ。詳しい話は明日聞きにいく感じだな」
要領を得ないことを言って、俺は肩をすくめる。
たぶんこれって、聖者の天賦をもってるやつがたまに受ける天啓みたいなもんなんだろうね。
ひどく曖昧で、結果についてはなーんにも語られない。
西方魔術結社の困りごととやらがどんなものか、俺たちで力添えできる類いの話なのかもわからない。
人道的に、あるいは政治的に協力して良いことなのかもわからない。
解決したらどうなるのか、失敗したらどうなるのか、そもそも協力しなかったらどうなるのかもわからない。
こんな指示の出し方があるかーってわめき散らしたくなるけど、天啓ってのはこんなもんなんだって、まえにジェニファが言ってた気がする。
で、翌日である。
ここからはバラバラに行動しても意味がないので、全員で西方魔術結社のアーカム本部を訪ねることにする。
ここはミスカトニック大学に併設していて、大学と本部どっちもアカデミーって呼ばれているんだそうだ。
「魔法の研究ではぁ、マスルが一番だとぉ、思っていたんだけどねぇ」
道すがら、サリエリがのへのへと笑う。
彼女とミリアリアは昨日もここを訪れているため、案内役のようなものを務めてくれていた。
「マスルより上なのか?」
だとしたらものすごいことである。
俺だってマスルの技術には驚かされることばっかりだしね。
「上っていうかぁ、方向性がちがうのぉ」
「方向性?」
おうむがえししてしまう。
「音楽性の違いで解散するのぉ」
「おまえはなにをいってるんだ?」
「マスルで研究されているのは
絶対にまともには答えないサリエリにかわって、ミリアリアが説明してくれた。
まえにちらっと聴いたね。魔法には種類があるとか、メイシャたち僧侶が使うのは厳密には魔法じゃないとか。
「西大陸で研究されているのは魔法ではなく魔術ですね」
「正直に言って良いか? ミリアリア。違いがわからん」
「私たち
くすくすと笑うミリアリア。
俺だけでなく、メグやユウギリも首をかしげている。
素人には魔法と魔術の違いなんか判らない。もしかしたら、戦術と戦略の違いが理解してもらえないのと同じかもしれないね。
「ひとまず、私たちとは違う魔法を使ってくるって考えておいてください。母さん」
「判った」
敵対したら、という場合についての注意喚起である。
相手がどういうことをしてくるのか、まったく想像できなかったら作戦の立てようがないから。
「お城?」
「ちがうよぉアスカっち。あれが大学だよぉ」
やがて見えてきた巨大な建物に、アスカが驚いている。
ミスカトニック大学。
三千人もの学生がここで魔術を学んでいるんだそうだ。
ちょっと途方もなさすぎる。
もしかして西大陸の国には、数千人規模の魔法使い部隊とかいるのかもしれない。
ぞくっと背筋を怖気が走る。
想像してしまったのだ。
数千人の魔法使いが一斉に攻撃魔法を撃ち放ったらどうなるのか、と。
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