特別編

戦国オカン 1


 セルリカやランズフェローに行っている間に、カランビット迷宮は十八層まで攻略されていた。


「そりゃあなぁ、一年近くも留守にしてたらそうなるよなぁ」


 げっそりと呟いてしまう。


 東大陸にある小国の統一のお手伝いなんて、どう考えても冒険者の仕事じゃないよな。

 ダンジョンの攻略こそ、冒険者の生き様だと思うのよ。


「完全に出遅れてますね」


 ミリアリアの言葉に苦笑しか出ないよ。


 きぃ悔しい!

 俺たち、第一階層しか潜ってないんだぜ。


「ダンジョンの中に美味しい料理はありませんわ。でもランズフェローにはたくさんあります」


 そういってメイシャが慰めてくれた。

 慰めっていうか、彼女自身のホンネ?


希望ホープ』内で、メイシャとユウギリはそんなにダンジョンに興味を示さない。ぶっちゃけそんなに潜りたがらない。

 メイシャの場合は食事が保存食ばっかりになってしまうからだ。ユウギリは得意の弓がそんなに活躍できないって理由だね。


 逆に斥候のメグにとっては独壇場。

 むしろ彼女がいないとダンジョンに潜っても宝箱も開けられないし、隠し扉も開けられない。罠の解除だってできないのだ。


 そんなつまらない探索は嫌なので、どんなパーティーだって斥候とか罠師とかがいる。


「ゆーて、オレたちお宝が必要なほど貧乏じゃないスけどね」

「そいつは言わねえって話だぜ。メグさんや」


 おどけてみせる。

『希望』の資産額はものすごくて、曾孫の代まで王侯貴族みたいな生活をしたって使い切れないほどなんだ。


 名声だって、たぶん中央大陸に『希望』の名前を知らない人はいないだろうってレベルで知れ渡ってる。


 にもかかわらず命を賭けてダンジョンに潜るのは、存在意義みたいなものだ。


「ようするに好きってことだよね!」


 きゃはははとアスカが笑う。

 肩をすくめるしかないね。


 結局、伸るか反るかの大ばくちが、生きるか死ぬかのスリルが、オールオアナッシングの緊迫感が好きで好きでたまらないんだよね。

 冒険者なんて生き物は。


「でもネルネルぅ。子供がいないと曾孫なんてうまれないんだよぉ」


 のへーっとサリエリが言う。

 痛いところを突くなぁ。

 泣いちゃうぞ?


「相手をさがすところからか……」


 とっても長い道のりだ。

 酒場に行っても、商売女すら寄ってこないんですよ。


 金があっても名声があっても、いっこうにモテるようにならんなぁ。

 なにが悪いんだろう。


 顔、とか身も蓋もないこといわないでね? さすがに本気泣きしちゃうから。


「相手はぁここに六人もいるのぉ。ニッタンいれたら七人なのぉ。うはうははーれむなのぉ」

「誰だよニッタン……。それ以前の問題として花嫁七人はダメだろ。重婚じゃないか」


 たぶんアニータのことなんだろうけどね。


 ともあれ、王族や貴族が血を残すため、正妻の他に何人もの妾を抱えるケースはあるけど、無位無官の民間人がそれをやったら大ひんしゅくですよ。


 かといってアスカ、メイシャ、ミリアリア、メグ、サリエリ、ユウギリ、アニータのなかから誰か一人を選べるかって話だ。

 まあ、選んだところで拒絶される可能性も充分にあるわけだけどね。





 

 

 というバカ話をした翌朝。


 俺たちはランズフェローにいた。しかもクランハウスごと。

 意味が判らないよ。


 気づいたのは一番早起きなアニータである。

 いつも通り花壇の水やりをしようと勝手口を開け、慌ててドアを閉めた。そして大声でみんなを起こしたのだ。


 見たこともない兵に屋敷が囲まれています! と。


 じつはアニータは見たことがなくても、他のメンバーはあの軍装を知っている。

 ランズフェローの下級兵士、アシガルたちの標準的な装備だ。


「そして知っているからこそ、もっと意味が判らなくなるというな」

「虎ちゃんとこの軍がぁ、なんでうちらを包囲すんのぉ?」

「それな」


 ランズフェローの大将軍カゲトゥラと俺たちは盟友だ。いきなり屋敷を包囲されるような険悪な関係じゃない。


 それ以前の問題として、どうやってランズフェロー軍がガイリアにくるのかって話だよ。

 東海陸から船団を仕立てて? わざわざ内陸都市のガイリアまで?

 普通にあり得ないわ。


「となればぁ、うちらがランズフェローにきたって考えた方がすじがとおるかもぉ」

「どんなに荒唐無稽でも、な」


 ガイリアからランズフェローに一晩で移動する手段なんかない。

 あるとしたら大悪魔ダンタリオンの転移能力とか、そういうやつだけだ。けどダンタリオンはもう滅んでる。


「他にもそういう力を持った悪魔がいると考えていいかもしれないな」


 軽く息をつき、俺は正面玄関から表に出る。

 堂々とね。


 ざわざわとアシガルたちが動揺するような気配が伝わってきた。恐怖の表情を浮かべている者もいる。


「南蛮人だ……」


 とか、意味の判らない呟きまで聞こえてくるし。


 んん?

 こいつら『希望』を知らないのか?


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