戦国オカン 2
アシガルたちは動揺するばかり。
どうしていいのか判らないようだ。
だったらなんて包囲なんかしたんだよって話だよね。
「俺はガイリアのライオネルだ。諸君らはなぜ俺の家を包囲しているのか。事情のわかるものを連れてきてくれ」
高飛車にならないように、でもけっして謙らずに要求を伝える。
言葉を喋ってるぞ、とかなんか失礼な声も聞こえたけど、これはまあ仕方ないね。
ランズフェロー人って、ほとんど大陸公用語ができないから、俺たちの方が憶えたのである。
ややあって、ちゃんとした身なりのサムライが姿を見せた。
責任者かな。
「拙者は
詫びようって言ってるけど頭の一つも下げないよね。
黒髪に黒瞳。そして口ひげという典型的なサムライスタイルだ。
「改めて、ライオネルという。どうしていきなり屋敷が包囲されているんだ?」
「それはこちらが訊きたいこと。どうして貴殿の屋敷は突然現れたのか」
おおう。
やっぱりクランハウスごと転移させられたってことか。
ひでぇことするなぁ。
ランズフェローからガイリアに戻ったばっかりだってのに。
「おそらく、という域を出ないけど転移魔法だろうな。驚かせて済まないが、じつは俺たちも困惑している」
「魔法……とは? まじないの類いか?」
おいおい。そこからかよ。
魔法すら知らないようなど田舎に飛ばされたとすると、リカバリーが大変そうだな。
まずはトキオ州に向かって、皇帝ユキシゥラか大将軍カゲトゥラに会うのが近道だろうな。
ただ、クランハウスを残していくのはしんどい。
しんどいけど家ごと移動するわけにはいかないから、諦めざるをえないだろうなぁ。
現金と貴金属だけ持っていくことになるか。
ジークフリート号も一緒に飛ばされていたら荷物の問題はだいたい解決するけど、さすがにそんなにうまい話は落ちてないだろう。
「とりあえず、ここがどこか教えてくれないか、オカベどの。トキオ州に向かうにはどちらに進めば良い?」
訊ねてみる。
教えてもらえたらとっとと出て行くよって表情で語りながらね。
「トキオ州? なんだそれは?」
しかし返ってきた答えは、ちょっと予想の外側だな。
「ランズフェローの帝都がある州だろ。なんで知らないんだよ……」
「……ランズフェローとはなんだ?」
いや、ちょっと待ってくれ。
ここはランズフローじゃないってのか。
でも普通にランズフェロー語を喋ってるよな、オカベは。
どういうことだ?
信じられないハナシだけど、ここはランズフェローじゃなかった。
ヒノモトって国なんだってさ。
そんな国、聞いたこともないよね。
オカベの話を総合すると、どうにもこうにもあり得ない結論が導き出されてしまう。
俺たちの知っている世界じゃないぞ、とね。
どうにもとんでもない事態になってきたぞ。
で、ヒノモトはいま群雄割拠の時代でダイミョウたちがしのぎを削っているんだそうだ。そこはまあ、べつに珍しい話でもないけどね。
人間の歴史なんて、だいたい戦争ばっかりだから。
「母さん。これからどうします?」
さすがに不安げな表情のミリアリアだ。
まあ、彼女でなくとも、この状況を楽しめる人間は滅多にいないだろう。
「大方針としては、ガイリアに帰る方法を探す」
ぐるりと見渡せば、皆、神妙な顔で頷く。
例外はサリエリでいつもどおりのへのへしてるけど、これは俺の精神的な負担を減らすためだ。
『希望』セカンドアタッカーは、同時に俺の副将でもあるから。
「そのためにまず必要なことは、権力者とよしみを通じておくことだ」
つまり、この地を治めるダイミョウと会い、仲良くなってしまうのだ。
そうすることによってある程度の自由を買うことができる。
「イマガワといいましたか。ランズフェローでは聞かないダイミョウです。異世界にきたのだと実感しますね」
ため息を漏らすユウギリはランズフェロー人だから、より以上に感慨深いのだろう。
ほとんどそっくりなのに別の国だもん。
違和感ありまくりってやつだ。
「トゥラさまくらいいい人だったらいいね!」
アスカが楽観的なことを言うけど、さてどうだろうな。
あの人くらいの傑物は、そうそう滅多にいないって。
むしろウサミンみたいな物わかりの良い人物がいることを祈るよ。俺としてはね。
異世界の人間なんか信用できん。殺せ殺せって感じになっちゃったら俺たちだって無抵抗じゃいられないから。
「ところでメイシャ、ミリアリア、サリエリ、魔法は問題なく使えるか?」
大事なことなので確認しておく。
インスマスに飛ばされたとき、メイシャはほとんど魔法が使えなくなっちゃったんだよな。
至高神の力を阻む結界みたいなものがあったせいで。
「私は問題ありません」
「うちもぉ」
「至高神様のお声は聞こえませんが、力はたしかに感じます」
神聖魔法は大丈夫ですが、とメイシャが言う。
声が聞こえないということは天啓などは降りないらしい。
まあ、そこは仕方がないと割り切ろう。
普通の人間は至高神の声なんて、滅多に聴けないからね。
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