戦国オカン 3


 対面した今川イマガワ義元ヨシモトという人物は、サムライスタイルではなく、皇帝ユキシゥラみたいな貴族スタイルだった。

 ヒノモトでは公家っていうらしいね。


 あ、もちろん簡単に会えたわけじゃないよ。


 岡部には充分な謝礼を渡している。貴金属や宝石類の価値は世界が変わっても変わらないってことさ。

 しかも岡部という人物は、今川家のなかでそれなりの地位にいるというのも幸いしたよね。


「南蛮人でも珍しいというのに、異世界人とはな。つくづく余の常識を置き去りにしてくれる」

「というわりには、落ち着いてますね。ヨシモト卿は」


「亡くなった余の師がな。どんなに荒唐無稽でも目の前にあることを受け入れろと口を酸っぱくしていたのだ」

「慧眼ですね」


「もっともな、雪斎せっさいの教えがなかったとしても信じざるを得ないだろうよ。魔法や魔法の品物を見せられてしまっては」


 笑ってみせる。

 彼がとりわけ気に入ったのはユウギリの霊弓イチイバルと、ユウギリ自身の技倆だった。


 十本の矢を同時に撃てるって性能もすごいけど、ユウギリの技ってかなり変態(褒め言葉)だからね。

 矢羽を咬み千切って曲射したり、たくさんの矢が時差をおいて一ヶ所に降り注ぐようにしたり、あり得ないことをやってのけちゃうんだよ。


 本人の控えめな性格もあってアスカの剣技やミリアリアの魔法の影に隠れているけど、その戦闘力を侮ることは絶対にできない。

 一人で弓箭兵部隊みたいな娘なんですよ。


 ヒノモト人と見た目が違わないってのもあいまって、義元はユウギリをとても気に入ってくれた。

 彼女がいなかったら、ここまでとんとん拍子に話は進まなかっただろう。


 もちろん、クランハウスにあった使ってないマジックアイテムを献上したりしたのも効果的だったと思う。


「しかも、余の天下獲りに協力してくれるというのだからな」

「そこは俺たちの目的にも合致しますし」


 ガイリアに帰るためには、この世界の神の協力が不可欠になるだろう。で、その神と交流できる場所として神社や寺というのがあるらしい。

 で、ヒノモト最大のものは京という街にあるんだそうだ。


 そしてそこにはヒノモトの皇帝がいる。


 ほら、どっかで聞いた話になってきただろ? ランズフェローで俺たちは皇帝ユキシゥラを擁立し、国家統一の大義名分としたわけだ。

 ヒノモトでも同じ。


 京を押さえ、帝を擁立することで天下統一に王手をかけれるんだよね。

 俺たちは義元の天下獲りに協力する。そして義元は俺たちの帰還に協力する。

 そういう盟約が結ばれたんだ。







 そして俺たちはけっこう幸運だった。


 義元ってのはかなり有力なダイミョウで、しかも京までの道のりに強い勢力はあんまりいないんだよね。

 普通に進軍するだけで良さそうな感じ。


「あとは補給の問題くらいかな」


 人数が多くなればなるほど兵站にかかる負担は大きくなる。


「ライオネルはずいぶんと輜重にこだわるのだな」

「人間、めしがなければ戦えませんからね」


 義元の言葉に肩をすくめてみせる。

 けっこう補給を軽視しがちなんだよね。けっして無能な人じゃないのに。

 たぶん育ってきた環境というか、軍事的な思想がガイリアとは違うんだ。


 アシガルたちに自分たちの食料を背負わせるって話を聞いたときは、さすがにナイナイって手を振ったもんだよ。


「ライオネルの語る軍略は非常におもしろい。こういう考えがあるのかと蒙が啓く思いだ」

「あっさり開け入れてくれるヨシモト卿の器量に感心しますけどね。俺はむしろ」


 乾いた砂が水を吸うようにぐいぐいと吸収してくれし、なにかと意見を求めてくれる。

 ピラン卿ザックラントに近い感じかな。

 鷹揚で、鋭いというより骨太い人格だ。


 師匠であったタイゲンセッサイって人は、よほどの人物だったんだろうね。ちょっと会ってみたかったなあ。

 ウサミンもそうだけど、年長の軍師からは本当に学ぶべき事が多い。


 ともあれ、上洛するのに義元が率いる兵力は一万ということになった。


「少なくないか? 倍でも余裕で出せるが」

「数ばかり増やしても食わせるのが大変ですからね。どのみち連戦連勝で京に入らないと意味がないですから、少ない兵力で勝ち続ける方がセンセーショナルです」


 数をどーんと押し出して戦わずに勝つってのが一番ラク。


 だけどサムライってのは負けると判っていても戦う連中ばっかりなんだよね。ランズフェローで、嫌ってほど見てきた。

 なので、大兵力を揃えても戦いは避けられない。


「少数で勝つ方が話題になる、か。言ったのがライオネルでなければ戯言だと一笑に付したであろうな」


 進軍準備の間、何回も演習をしたからね。

 そして俺は何度も勝ってみせたからね。


 正面突破からの背面展開とか、重装歩兵による斜線陣とか、十字射撃とか、どれも義元には新鮮だったみたいだ。

 まあ、俺にとっても鉄砲って武器は新鮮だったよ。


 数を揃えたらかなりの力になるだろうね、あれは。弱点も多いんだけどさ。


「ただまあ、周囲の勢力図をみると、一万でも多いくらいなんですけどね。ある程度の偉容は必要ってことではじき出した数字です」

「そのあたりの差配はライオネルに任せる。戦略の妙を見せてくれ」


 どーんと構えてる義元だった。

 よきにはからえって簡単にいえちゃうくらいの大器なんだよなぁ。



 

 

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