第255話 味方?
「埒があかないな」
追いかけてきた追いすがってくるインスマズ面ども、ときには蹴り飛ばし、ときには切り伏せ、ひたすら逃げ回る。
「土地勘が向こう側ってのがキツいスね」
呟いたメグが道具袋をのぞき込み、ため息とともに口を閉めた。
マキビシは残りは、あと四つしかないらしい。
いよいよ厳しいな。
ともあれ、地の利を握られてるってのは、ものすごく大きいんだ。
俺たちはこのインスマスに放り出されてから、まだ丸一日も経過していない。当然のように町の構造とかまったく把握できてるわけもない。
対してインスマス面どもにとってはホームグラウンドだからね。
この路地を抜けるとどこに繋がっているとか、この小路の先は行き止まりだとか、あの道を使うとショートカットできるとか、そういう情報はぜーんぶ敵側が持ってるってこと。
「割り切るしかないさ。小道を使うとか余計な色気を出さないですむ、とな」
俺は苦笑で応える。
でかい道を通って逃げるしかない。
行き止まりが怖いからね。
ただ、それだって保証の限りではないんだ。
何かの建物に遮られていきなり道が終わっている、なんてことがないとは言い切れない。
城下町なんかだととくにそうだ。
侵入者がまっすぐ城にむかえないように、わざと迷いやすい町並みをしているのである。
「どこかぁ、一ヶ所に敵を集めてぇ、焼き払っちゃったほうがぁ、らくかもぅ」
「怖いわ!」
大量虐殺じゃねえか。
いやまあ、相手をモンスターだと割り切れば、それはそれで全然ありなんだけどね。
あるいは軍隊が相手でもやるかな。
けど、町に住んで生活をしている民草だからさ。
見た目はアレで、こっちへの敵意はむき出しだけど、民草をまとめて焼き払うってのは、ちょっとハードルが高いよ。
「母さん! あの建物を使って防衛しませんか」
走りながらミリアリアが指さすのは、ひときわ立派な石造りの館だ。
小規模な城といってもそんなに違和感がない。
「籠城か。だが援軍のアテなんかないぞ」
防御力の高い場所に拠って戦うってのは、戦術的に間違った判断じゃない。けど、それはあくまでも助けがくることが前提なんだ。
現状、俺たちを助けてくれる勢力は存在しない。この西大陸には。
城に籠もって戦ったところで、いずれじり貧になって詰んでしまうだろう。
「なんとなく、援軍のアテがないのは敵も一緒だと思うんですよね」
「……たしかにな」
ミリアリアの言葉は抽象的だったが、俺は一拍の時差をおいて頷いた。
インスマス面どもが西大陸の人々のデフォルト、ということはちょっと考えにくい。
町のさびれ方を考えたら、むしろ嫌われていると考えたほうがしっくりくるくらいだ。
となれば、永遠に戦い続けられないのは相手も同じ。
「あるいは日中の行動が苦手かもしれないしな。過大な期待は禁物だが」
俺は全員に指示して、進路を建物の方へと変えた。
魔法を撃ったり矢を放ったり、あるいは切り払ったり。
けっこう大騒ぎしながら接近したから建物の側でも気づいたんだろう。入り口が開く。
扉を蹴り破るつもりだった俺たちとしては、非常に幸運だ。
あとは中にいる奴らをやっつけてしまえば、この建物は俺たちの手に落ちる。
「こちらへ! はやく!」
ところが、なぜか招かれちゃった。
インスマス面じゃないね。年配のプリーストっぽい雰囲気の人だ。
仲間たちから、ちょっとほっとしたような気配が伝わってくる。
気持ちは判るけどな。
正直言って、インスマス面っていつまでも見ていたいもんじゃないし。
普通の外見の人物ってだけで、理由もなく善人だと思ってしまうよ。
「ここに
「判りました。お言葉に甘えて」
男性の言葉に頷く。
娘たちには、油断するなよと小声で伝えながら。
じっさい、インスマス面どもは建物はおろか、敷地にも入ってこないようだ。
意味がわからない。
「助かりました。我々は冒険者クラン『希望』。私はリーダーのライオネルと言います」
「バーナードと申します。『希望』の令名はこのような田舎までとどろいていますよ」
そういって男は奥へと導いてくれる。
礼拝堂っぽいな。
至高神教会のそれとはちょっと様式が違うけど、雰囲気は似ているところがある。
「司祭様ですか?」
「ここが教会だったのはずいぶん昔で、私はただの老骨ですよ」
人好きする笑顔だ。
娘たちが、あからさまにほっと息をつく。
この街にきてからずーっと悪意にさらされてきたきたからね。こういう笑顔をみると安心するよね。
「お茶でも淹れてきましょう。おくつろぎください」
「お気遣いなく」
「一人暮らしでしてね。この程度のことは面倒とは思わなくなりましたよ」
笑いながらバーナードが去っていく。
窓の外を見れば、インスマス面どもが敷地の周りをうろうろしている。
ここに入ったのは判っているが、踏み込むわけにはいかないって感じかな。
なぜだ?
そしてバーナードが口にした混ざり者とはなんだ?
「元教会というわりには、まったく神気を感じませんわ。至高神のものも、ほかの神族のものも」
「私もですね」
「わたくしの感覚が鈍くなっているだけと思いましたが、ユウギリもですか」
「私の感覚も同様です。神降ろしも無理ですね」
後ろではメイシャとユウギリが状況を確認し合っている。
聖者と依代。どちらの天賦も神様と深いつながりがあるからね。
厄介な状況だよな。
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