第166話 ただいま


 俺たちを乗せたリアクターシップは、まずガイリアに向かった。

 とくに複雑な理由があるわけではなく、お土産というか荷物というか、それらがけっこうな量になってしまったからだ。


 まずはクランハウスにおろして、それからマスルへと向かう予定である。

 ついでに新規加入者のユウギリもおろす。


 これもまた複雑な理由があるわけではない。

 たんに彼女が大陸公用語を話せないため、まずは我が『希望ホープ』の家宰であるアニータに言葉を習うところから始めなくてはならないのだ。


「お久しぶりです。お帰りなさい。みなさん」


 クランハウス前の草原に着陸したリアクターシップ。

 タラップから降りてきた俺たちを、アニータは暖かく迎えてくれた。


 そしてさっそくアスカやミリアリア、メイシャと抱擁を交わしている。

 というよりもみくちゃにされている。

 相変わらず、どこの奇祭だって思うくらいの濃厚なコミュニケーションだ。


 ユウギリはちょっと引いてるけど、いつものことなアニータはとくに逆らいもせずに身を任せている。

 そしてメグとサリエリは、なまあたたかく見守っていた。


「参加しなくていいのか? ふたりは」

「ネルネルが参加するならぁ、うちもいくよぉ」

「ええもう、全裸で参加してやるスよ」


 簡単に切り替えされてしまった。

 俺は軽く肩をすくめ、懐かしの我が家へ足を踏み入れる。

 ランズフェローから持ち込んだ大量の荷物の運搬は、リアクターシップの乗組員たちに任せて。


 えらそうだというなかれ。

 本気でものすごい量なんだもん。


 俺たちがリアクターシップで帰還すると知ったアサマたちが、これでもかってくらいのお土産を積み込んでくれたんだよ。

 大量のコメとか、大量の種籾とか。

 ランズフェローの服の材料とか。


 商売でも始めるつもりなのかって勢いでね。

 俺が買ったお土産なんて木箱一つで収まるよ。手のひらに乗せられるくらいの大きさの木彫りだ。

 クマがサケをくわえているやつ。


 なかなか味のある一品だから、きっと久しぶりに会う友人たちも喜んでくれるだろう。





「ええ……まあ……ありがとうございます?」


 すっごい微妙な顔でジェニファが俺の土産品を受け取った。

 解せぬ。

 ロスカンドロス王も、カイトス将軍も、キリル参謀さえもこんな顔だったのである。


 到着の翌日、俺は友人・知人にお土産を配り歩いていた。

 順番としては王城、軍務省、そして冒険者ギルドとまわってきたのだが、どうにも反応がいまいちだ。


「いい造形だと思うんだけどなぁ」


 ランズフェローの細工物らしいこまやかな作りで、クマの口からサケが逃れとする躍動感がこっちまで伝わってきそうである。


「それは判りますけど、どうせランズフェロー細工をもらうなら、髪飾りとかのほうが良かったですよ」


 ジェニファさん苦笑いである。


「それは無理だろう。俺のセンスで選んだアクセサリなんて、みっともなくてジェニファも使えないだろうし」


 センス悪いのに、せっかくもらったからからって気を遣って身につけるんだぜ。ジェニファなんか優しいから。

 こういう置物の方が気を遣わせなくていいって話さ。


 だから、知人全員に、このクマの置物ね。


「なにしろ、こんなものを騙されて買ったくらいだしな」


 ポケットからペンダントを取り出す。

 青とも緑ともつかない不思議な光沢をもった石が飾られた、一見するとマジックアイテムなのかなって思えるようなシロモノだ。


 ていうか普通にマジックアイテムだと思って買いました。


「結局、マガタマっていう首飾りで、魔法もなにも込められてなかったんだけどな。しかも使われているヒスイって宝石の質も悪いんだそうだ」


 肩をすくめてみせる。

 こんなのいらないだろ、と。


「え? いりますけど?」

「いるの? こんなガラクタ」

「こういうので良いんですよ。むしろ、こういうのが良いんですよ。ほんっとにライオネルさんって判ってないですよね」


 受け取ったジェニファがくるりと背を向ける。

 首の後ろで紐を縛れと。


「ふーむ。こんなガラクタで良いなら、全員これにすれば良かったな」

「え? 他の人はクマの置物で良いんじゃないですか?」

「クマの扱いが雑すぎる。けっこう高かったのに」


 ひとしきり笑いあう。

 こういう馬鹿話が帰ってきたって実感するね。


「ちなみに、似合います?」

「ちょっと不思議な感じだな。中央大陸こっちにはないアクセサリだし」


 似合うか似合わないかは、正直判らん。

 清楚で上品なジェニファだから、こういう異国情緒なものが似合うような気もする。


「無理にでも褒めてくれようとしたのは判りました」


 なぜかすごく上機嫌に、むっふーと笑うジェニファだった。


「それにしても、今度はマスルですか。大忙しですね」

「数日はのんびりしたかったけど、そういうわけにもいかないらしい」


 俺は肩をすくめてすせる。


 ガイリアシティに滞在できるのは今日まで。

 明日にはまたリアクターシップが迎えにくる。で、俺たち『希望』とロスカンドロス王を乗せてロンデンへ。そこでシュメイン王を拾ってマスル王都リーサンサンに向かう予定だ。


 ザックラントさんは、一足先にリーサンサン入りしてるってさ。


「四ヶ国同盟の元首が集まる会議の護衛なんて、まさにガイリアの冒険者ギルドが誇るトップクランの仕事ですよね」


 感慨深げなジェニファだ。

 彼女は、アスカたちが『希望』を立ち上げたときから知っているからね。

 思いもひとしおだろう。


 あ、これから火の吹くような外交合戦があるってことは、さすがに伝えていない。

 国家機密レベルだから。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る