第338話 めざめる
怪我人は国立病院に運び、死人は至高神教会で簡易葬儀をおこなった後で埋葬する。
後日おこなわれる国葬と慰霊祭に向けて、死んだ人のリストも作らないといけない。
「母さん。
「判った。メグ、サラセン隊長にこいつを渡してくれ」
「わかったス」
ミリアリアの
さらさらとしたためた指示書をもって、メグが臨時指揮所を早足で出ていく。
岩石の落下からいち一日、みんな不眠不休で救助と復旧にあたっている。
ガイリア軍の上層部で最高位はサラセン大隊長。文官筋では国務卿のミクリ大臣。
この二人が主となって動いてるんだけど、バラバラだと意味がないからね。
俺が統括的に指揮を執ることになった。
一介の冒険者がって断ろうとしたら、ミクリ閣下に「いいから黙って知恵と指示を出せ。文句言うやつがいたら国務大臣の名において処罰してやるから心配すんな」って血走った目でいわれちゃったんだよ。
とにかく、各地に散ってる方面軍の将軍たちが王都に戻るのだって時間がかかるし、閣僚の三割くらいが大けがで入院してしまったから、指示出しができる人間がいないんだ。
国王代理のジーニカ陛下がくだした最初の勅命は、冒険者ライオネルを救助・復旧の長として任じるから全員がその差配に従って動け、というものだったのである。
ようするに王都ガイリアシティにいるすべての公機関を動かす権利を預かってしまったんだ。
目眩を起こして倒れるかと思ったよ。
でも、倒れるのは事態が落ち着いてからと腹をくくった。
「世界の終わりだぁって騒いでる連中がぁ、街に溢れてるよお。煽ってる連中もいるみたいだねぃ」
「冒険者たちを使って沈静化させるようギルドに通してくれ」
「正規軍はつかわないのぉ?」
「手に余るようなら、盗賊ギルドに依頼をかけるんだ」
「りょ~」
まったく説明してないんだけどサリエリには充分に理解できた感じだ。
正規軍ってのは強いけど、なだめたりすかしたり、あるいは脅迫したりとかは得意じゃないからね。
こういう未曾有の大災害のときに発生する無責任な終末論を沈静化するのは、無法者や無頼漢の方が上手いんだよね。
終末のときはきた、なんて偉そうに喋ってたやつが、次の日になったらボコボコに腫らした顔であれは間違いでしたなんて言い出したら、民衆は白けちゃうだろ? 戯画化していうとそういう話さ。
それでも節を曲げないような人だったらどうするかって? それわざわざ確認する必要あるかい? 争いのない場所に出かけるんじゃないかな。
「ユウギリ。申し訳ないけどひとっ走りクランハウスまで頼む」
「炊き出しですね」
「判ってらっしゃる。アスカも協力してくれ」
「あいあいさ!」
民心を落ち着かせるためには、まずは食い物だ。
人間、暗くて寒く空腹だとロクなこと考えないからね。クランハウスにある大量の物資でカレーライスを作って振る舞えば、しっかり汗もかいて元気が出るだろう。
いま一番ダメなのは、くらーい気持ちになってしまうこと。
英雄の中の英雄である闘神アスカが先頭に立って民衆を鼓舞したら、空元気くらいはみんな沸いてくるだろう。
とにかく、空から降ってきた岩石をどかさないとガイリア城の修復もできない。
新ガイリア城ことガイリアの五芒星はまだ完成してないから、そっちに政府機能を移すってわけにもいかないしね。
昼にはみんなでカレーライスを食べて気分を一新させ、さて岩石の除去作業だ。
さすがに人力では無理なので、魔術協会に依頼してある。
魔法で浮かせ、とりあえず郊外に運んでしまおうっていう雑なプランだ。まあ堀の中に捨てちまおうかっていうもっと雑なプランもあったんだけどね。
「母さん、見に来たんですか?」
「大作業になるだろうからな。さすがに執務室で報告だけ受け取るってわけにはいかないさ」
ミリアリアの言葉に笑ってこたえる。
彼女のほかにも魔法使いたちが何人も集まっていた。お、アンナコニーもいるな。
「直径で三丈(約九メートル)以上ありそうです。重さとなると想像もつきませんね」
「こんなもんが降ってきて、よく半壊で済んだよな。ガイリア城」
「防御結界がそれだけ強力だったって話なんですが、少し腑に落ちないこともあります」
形のいい顎に右手の人差し指をあてて考えるミリアリア。
「お城の真ん中に直撃しなかったのは、たぶんホーリーフィールドのおかげなんですよね」
邪悪なものやアンデッドが入り込めないようにする結界だ。
たいていの村や宿場に施されているし、『希望』のクランハウスもこいつで覆われている。
王城ともなれば、そりゃもう強力なやつが張ってあるだろう。
「けど、ホーリーフィールドは物理的な防御じゃないだろ?」
ていって石を投げたら、普通に素通りだ。
そのために防御魔法での結界が張られているのである。
もしミリアリアの説が正しいとすれば、空から降ってきた岩を防いだのは、魔法的な結界ではなく、至高神の力だということになる。
はたしてそんなことあるのだろうか?
「それはそうなんですけど……」
納得していない顔だ。
視線の先、協会の魔法使いたちが岩に魔力を注ぎ始める。もちろん浮かせるために。
「いけませんわ!
血相を変えたメイシャが現場に駆け込んでくる。
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