第297話 連携攻撃!
なにもないところから飛んできた投げナイフをアスタロトのソードケインが弾いた。
甲高い音を立てて地面に突き刺さる。
「隠形して死角に回り込み隙をついての攻撃。じつにそつがない。しかしそれだけだな」
昼食のメニューを論評でもするような顔で言う。
可もなく不可もない、と。
「そうスね」
メグの声が聞こえた。同時に、ぱちんと留め金を外したような音も。
「な!?」
つぎの瞬間、アスタロトの顔を布が覆う。
マントだ。
死角からナイフを投げ、すぐに隠形したのは接近を隠すため。
そして接近する目的はこれだ。
マントをアスタロトの頭にかぶせるという、まるで子供の悪戯のようなことをするためである。
「ふざけた真似を!」
アスタロトがマントをむしり取る。
数瞬にも満たない目くらましだ。何の意味もない、と普通なら思うだろう。
しかし、激戦のさなかに数瞬を失うというのは、永遠を失うのに近いものがある。
「ふざけるのは人生最大の楽しみっていうよ。アスタロト」
ハスターの声はアスタロトの至近から。
顔に布が張り付いた瞬間に最接近したのだ。
というより、メグが行動を始めた瞬間からアイコンタクトを取っていたっぽい。
どすどす、と、触手みたいなトゲみたいなものが、ハスターの両手から伸びて、アスタロトの肩に突き刺さった。
「ナイス目くらまし」
「あんたも良いタイミングっス」
一方は楽しそうに、もう一方はシニカルに笑って同時に蜻蛉を切る。
そのまま二転三転としながら距離を取った。
「この程度の小細工で我の……ぐああああああっ!?」
「お話の途中で申し訳ありませんが、ここは神前ですわ。頭を垂れなさいませ、悪魔アスタロト」
地面から柔らかな光が立ち上がりアスタロトを包む。
メイシャのホーリーフィールドだ。
ハスターの攻撃でいきなり致命傷を与えられないのは最初から判っている。だからメグたちの目的はアスタロトの足を止めること。
もちろん、ホーリーフィールドの効果範囲に留めるために。
「この! 至高神め!」
ソードケインを振ってアスタロトが光の柱を切り裂く。
紳士然としていたのに、髪は乱れ口調は乱暴になり、だいぶ粗野な感じになっている。
こっちが本性?
「八つ裂きリング!」
そこに高速回転する氷の輪が迫る。
まともに喰らったら大悪魔といえどもただではすまない。大きく飛びさがりながら、アスタロトがソードケインを振るった。
ぱりん、と甲高い音を立てて砕け散る八つ裂きリング。
いや、その仕込み杖の強度も頭おかしいよな。
アスタロトほどの大悪魔が使う武器だから、並のマジックアイテムではないんだろうけど。
ハスターからも俺たちからも、それなりの距離をおいた場所に危なげなく着地する。
その瞬間である。
まさにそこを狙っていたかのように矢が降り注いだ。
「三十本。同じ場所、同じタイミングで、到達するように射ちました。いかがでしょうか」
艶然と微笑むユウギリ。
白皙と紅唇のコントラストが、禍々しいまでに美しい。
霊弓イチイバルは十本の矢を同時に射ることができる。加えて、曲射も精密射撃もなんでもござれの彼女の技倆だ。
たった一人で、弓箭兵部隊みたいな真似までできてしまう。
「くらあああああっ!!」
アスタロトの方はとえば、ユウギリの美貌を観賞する余裕すらなく矢を切り払っている。
ソードケインを風車のように振り回して。
矢の雨がようやく止んだとき、アスタロトの身体には十本以上の矢が咲き立っていた。
「ライオネル……! キサマの指示かっ!」
髪は乱れ、目は血走り、紳士なんて言葉は知らないよって姿になっちゃってる。
「ずいぶんと色男になったじゃないか。アスタロト」
月光を右手に提げ、俺は笑ってみせる。
「これが希望の実力か。すごいね」
いつの間にか横に立ったハスターが言った。
すごく楽しそうだ。
ちょっとやめてよ。なんそんな親友みたいなポジションに入ってるのよ。あなた悪魔じゃん。
討伐対象じゃん。
「ネル母さんの知略はこんなものじゃないです」
「ママからお離れあそばせ、邪神ハスター」
すかさずミリアリアとメイシャが割って入り、しっしっと手を振って追い払った。
ちょっとあんたたち、悪魔は野良犬とかじゃないんだから。
あと、まだ戦闘中だからな。
くすりと笑うハスター。
「あまり妬かせるのも悪いしね。そろそろ仕上げといこうか」
「きさまらぁぁぁぁっ!」
同時にアスタロトが突きかかってくる。
目を剥き、牙のように犬歯をぬめらせて。
小細工抜きで正面からやり合おうって腹づもりだな。最適解ではあるけど。
そもそも悪魔の戦闘力ってのは人間なんかよりずっとずっと高い。なんでも数字であらわすのは味気なくて好きじゃないんだけど、人間の戦闘力を一とするなら、悪魔のそれは千とか二千とかそんなレベル。
まともに正面から力で戦ったら勝ち目なんかないのである。
けど悪魔って基本的には人間を舐めてるからね。
妙な計略を仕掛けたりとか、搦め手を使うことが多いんだ。
そこに付け込む余地がある。
こうやって正面から力押してのが、一番厄介なんだ。
「ゆーて、対応策の十や十五、つねに頭にはいってるけどな」
さっと俺は手を振った。
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