最終話 戴冠式ラプソディー

 ガイリア城の再建は断念することになった。

 それよりも、新ガイリア城たるガイリアの五芒星の完成を急いだ方が良いって結論になったのである。

 

 それだけでなく、アザトース襲来で失われた人的資源だって埋めないといけない。

 経済的な損失でって天文学的な数字になる。


「最初っから問題が山積みですよ。だれか代わってくれませんかね」

「そんな物欲しそうな目でチラチラ見ても、代わってやらんぞ」


「将軍~~」

「指名されたのは汝だろうが」


 一日いちじつ、入院中のカイトス将軍のお見舞いにいったら、自分が代わりに王位に就いてやろうかとは言ってくれなかった。

 ごくふつうに、俺の王位継承を認めてくれた。


 むしろ諸手を挙げてね。


「しばらく前、ジーニカから王位を継ぎたくない旨のことを相談されたことがあってな。べつに実子継承にこだわる必要はないとアドバイスしたものだて」

「つまり遡れば将軍のせいってことですね」


 余計なアドバイスをしたせいで、俺のところに玉座が突っ込んできちゃったじゃん。

 どーんってものすごい勢いで。


「べつに某のせいではない。ロスカンドロス王亡きあと、誰がガイリア王国を主導するのが良いか、臣民たちに投票させても良いくらいだ」


 からからと笑う。

 笑えるくらいには体も回復したったことで、めでたいんだけどさ。

 臣民の投票とか、わけのわからないこと言い出すのはやめていただきたい。


「将軍には今まで通り大将軍職を、キリルどのには参謀総長をお願いしたいと思ってます」

「この機会に引退しようと思っていたのだがな。某ももう五十五だし」


「大丈夫です。ガイリア王国政府に定年退職はありませんので、シヌまでこき使います」

「ぬけぬけと言いおる。とんでもない悪王になりそうだの」


 笑った将軍が拳を突き出し、こつんと俺もそれにぶつける。


 軍部の新しい人選はカイトス将軍とキリル参謀にまるっと投げてしまって大丈夫だろう。政務の方も国務大臣が生き残ってるから、ある程度までは委ねてしまえる。


 委ねるわけにも投げるわけにもいかないのは宮廷運営の方だ。


 六人の花嫁だよ?

 どうすんのよ、俺。






 ロスカンドロス王の崩御から百十三日後、ついに戴冠式が行われる。

 王冠をいただくのは、なんとこの俺、ライオネルだ。


 ちなみに、ガイリア王国第二代国王、ライオネル・ガイリア一世ってのが、正式な名前になるんだってさ!

 誰だよ、その偉そうな名前のやつは。


 本当はジーニカを入れると第三代ってことになるんだけど、あいつってば自分はあくまでも代行だからって理屈で逃げやがったんだ。


 どこまでも無関係を貫くその姿勢には、ある意味で感服するよ。けど、絶対に逃がしてなるものかって意思のもと、王冠はジーニカにかぶせてもらうことした。

 前王の遺児としての立場でね!


 簒奪だとか思われないためにって意味もあるしね。



 新ガイリア城の謁見の間。

 赤い絨毯の上を、俺は玉座に向かって歩く。


 そこには誰も座しておらず、横にジーニカが立って両手で王冠を抱いている。 

 右側には文武百官、左側には各国からの来賓が並ぶ。

 さらにその後ろには王宮楽団がいちどり、勇壮な音楽を奏でていた。


 一歩一歩、きざはしをのぼる。

 本当に、こんな未来は予測していなかったな。


 孤児院でルークと出会い、世の不幸を一つでも二つでも減らそうって思いで冒険者になった。

 けど俺とルークの道はいつしか違えてしまった。


 そしてアスカたちに出会った。

 劇的でもなんでもない。金に困ってジェニファに泣きついていたんだよな、あいつら。


 幾度ものの出会いと別れを繰り返して、ここまで歩いてきたけれど、まさか玉座が待っているとは思わなかった。


 まあ、ここがゴールではない。

 まだまだ人生行路は続くんだから。


「軍師ライオネル。貴殿にガイリア王国のすべてを禅譲します」


 空の玉座の前で片膝をついた俺に、ジーニカが声をかける。

 大げさだけど、こういうのは形式だから。


「謹んでお受けいたします。偉大なるロスカンドロス王の遺児よ」

「良きまつりごとを。亡き父もそれをこそ望んでいると思います」


 俺は頭を垂れ、そこにジーニカが王冠を戴せた。

 ゆっくりと立ち上がって振り返る。


「いまこそライオネル王の誕生である! 至高神様もご照覧あれ!!」


 高らかに至高神教会の大司祭が宣言した。


「「国王ライオネル陛下! 万歳!!」」


 玉座の間を埋め尽くす人々が唱和する。

 しかし歓声は長く続かない。式部官が美声を披露し、王妃たち・・の入来を告げたから。


「正妃、アスカ・ガイリア陛下、ご入来!」

「正妃、ミリアリア・ガイリア陛下、ご入来!」

「正妃、メイシャ・ガイリア陛下、ご入来!」

「正妃、メグ・ガイリア陛下、ご入来!」

「正妃、サリエリ・ガイリア陛下、ご入来!」

「正妃、ユウギリ・ガイリア陛下、ご入来!」


 高らかに告げられた肩書きは、全員が正妃である。

 もうね、笑うしかないって状況だよ。


 誰か一人を選ぶのではなく、誰か一人に選ばれるのでもなく、みんな俺の奥さんになっちゃった。

 王国法によって特別に、俺にだけ認められた一夫六妻である。


 入り口の巨大な扉がひらき、純白のドレスをまとった六人の美女たちが横一列に並んで歩く。

 全員が同格の正妃だからね。


「闘神アスカ!」とか、「大賢者ミリアリア!」とか、「聖女メイシャ!」とか声援が飛ぶ。


 それは花嫁に対す声援であっているのかい? 客人たちよ。

 綺麗とか麗しいとか、ほかに褒め言葉いっぱいあるじゃん。


 そして、すぐ調子に乗る娘たちが手を振って声援に応え始めた。


「こらこら。式典の最中なんだからよそ見しない。ちゃんとまっすぐ歩きなさいって」


 思わず注意しちゃった。

 本当に思わずね。


 玉座でどんと構えていなきゃいけないのに。

 娘……いや、花嫁たちが顔を見合わせる。


「「「わかったよ! お母ちゃん!!」」


 そして、満面の笑顔で声をそろえるのだった。


 厳粛なはずの戴冠式。


 参列者の笑い声が響き渡る。

 臣下、来賓を問わず。


 宮廷楽団が、ここぞとばかりに軽快な音楽を奏でだす。


 さながら、小歌劇オペレッタの終幕のように。








おわり

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二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中! 南野 雪花 @yukika_minamino

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