第42話 ピラン城防衛戦(1)
どうにも、考えていたものとは違う方向に話が進んでしまっている。
俺の予想ではピラン城はとっくの昔に倒壊していて、そこにあった
ところが、ふたを開けてみればピラン城は健在で、ちゃんと住人もいる。
五百年前の人魔戦争の頃からずっと。
これだけでも驚きなのに、宿場町で遭遇したリッチはピラン城まで襲っていたという情報まで得てしまった。
「びっくりですよね」
椅子に座り、ぎこぎこと無意味に身体を前後に動かしながらミリアリアが言った。
どうでもいいけど壊すなよ?
他人様の家の家具なんだから。
こんなお城にあるような代物、弁償しろとか言われたら泣いちゃうんだぞ? おもに俺が。
「単純化して考えよう。ピラン城とそこに住む人々は、モンスターの変化には無関係だ」
俺は自分の下顎をさすりながら、思考を言語化していく。
「でも、ピランに行けという依頼です。まさか途中でリッチと遭遇することが織り込み済みということはないと思います」
「そうだな。それは偶発的な事態と考えて良いと思う」
ミリアリアが上手いこと合いの手を入れてくれるので、考えがまとまりやすくて非常に助かる。
ということは、だ。
ザックラントに接触してきた人物。
これが問題なのだと思う。
リントライト王国への侵攻をほのめかすようなことを言っていたらしいし。
しかもリッチを操ってピラン城を攻撃したっぽいし。
ゴブリンやコボルドならともかく、リッチを操るなんてそう簡単なことじゃない。
どういう方法かは判らないけど、それをやってのけているってことは、たいていのモンスターは操れると考えた方が良いだろう。
「けど、城攻めにリッチってのは解せないけどな」
相性が悪すぎる。
ゾンビを率い、強大な魔法を行使するリッチだが、攻城戦に向いた戦力とはいえない。
固く城門を閉ざしてしまえばゾンビはもうなにもできないし、あのリッチはゾンビ召喚で魔力がすっからかんだったし。
なんでそういうモンスターを使わなかったのか。
「あるいは実験、かもしれません」
「実験?」
ミリアリアの言葉に、おうむ返ししてしまう。
そのくらい場違いな単語だった。
「どのモンスターなら操れるのか調べていたとか。最初はゴブリンなんかからはじめて、だんだんとキマイラとかリッチとか」
「つまり、ラクリスの迷宮にあらわれたキマイラは」
「はい。実験の一環で使われ、用済みになったから放逐されたモンスターなのではないかと」
それは、たんなる憶測に過ぎない。
なんの証拠もない話なのである。
けど、腑に落ちてしまった。
賢者の分析に対して、軍師の帰納思考が首を縦に振った。
「だとしたら」
と、俺が口を開こうとしたとき。
轟音とともに、まるで直下型地震にでも見舞われたかのように、ピラン城が鳴動する。
一拍遅れて、敵襲を報せる警報ががなりたてた。
森の中から地響きを立てて迫り来るサイクロプス。
その数四体。
手に手に巨岩を持って、こちらに投げつけてくる。
これでは城壁が破られるのは時間の問題だろう。
「大変に学習能力がお高い相手のようで」
遠望台にのぼって戦況を確認した俺は、皮肉とともに吐き捨てる。
リッチでは城攻めには向かないと戦訓を得たわけだ。
「どうやら、私たちの事情に巻き込んでしまったようだな。申し訳ない」
いつの間にか近くに来ていたザックラントが謝罪する。
魔族と魔族の争いに巻き込まれたと考えれば、たしかに面白くもない話ではあるが、一方は人間の領域への侵攻をほのめかしているのだ。
事実として、モンスターの数が増えていたりとか、問題も発生している。
無関係を決め込めるような状況ではない。
俺は笑って手を振り、ザックラントに謝罪は不要である旨を伝えた。
むしろ、ともに戦わせて欲しいと。
まあ現実問題、逃げ隠れもできないんだから戦うしかないんだけどね。
「申し出はありがたいが、あんな連中を相手にやれることは少ないと思うぞ。ライオネルくん」
「そうでもないですよ。サイクロプスの目的はピラン城の攻略と占拠ですからね」
付け入る隙はいくらでもある。
これが最初から破壊を企図していたなら、とっとと荷物をまとめて逃げ出すしか方法がないんだけどね。
「なぜそんなことが判るのかね?」
興味津々といった感じのザックラントだ。
「投石のみですからね。攻撃方法が。しかも城壁とか城門を狙って」
穴を開けて中に兵力を送り込むためなのは明白である。
壊してしまってかまわないと思っているなら、もっと山なりの投球で城の内部を狙うだろう。
そうしないのは、この城を使いたいと思っているから。
もちろんリントライト王国に侵攻するための橋頭堡として。
「ようするに巨大な攻城兵器として使ってるだけなんで、対応は簡単ですよ」
俺はザックラントに策を耳打ちする。
やがて、城壁の上にいくつもの
次々に槍のような巨大な矢が撃ち出される。
投石と弩砲の遠距離戦だ。
威力としては投石の方が上だが、しゃがんで岩を拾っている間にもこちらの攻撃は続く。
あっという間に、サイクロプスどもは身を守るだけで精一杯になる。
そしてそのまま立ちすくんでしまった。
たぶんどうして良いか判らないのだろう。
操っている相手が、こういう状態のときに退くのか進むのかちゃんと指示をしていなかったってことかな。
「撃て撃て! けりをつけろ!」
ザックラントが叫ぶ。
道に迷った旅人を助けてくれるような彼でも、激戦のさなかに動きを止めているよな敵を攻撃しないほどのお人好しではない。
ハリネズミみたいになったサイクロプスたちが、地響きを立てて倒れていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます