第233話 敵の正体?


「や! だからさ! わたしがばしゅっと斬りかかったら、さがんないで前に出て下からどーんってやるのって、ジョシュア兄じゃん!」


 ぶんぶんとアスカが身振り手振りで説明する。


 おう。

 それで判ったら仙人だよ。


 言語化能力ってものを、どこの宿場に忘れてきたんだい?

 忘れ物がないかちゃんとチェックしないとダメだって、お母さんいつも言ってるでしょ?


 ようするに太刀筋にジョシュアの癖があったってことなんだろうなぁ。

 きっと。たぶん。


「スリーステップ目にもフェイント入れるのだって! ニコル兄っぽいじゃん!」


 すごい力説している。


 そんなこといわれても、さすがにジョシュアやニコルの太刀筋まで把握していないぞ。

 性格や、戦い方の傾向くらいは知ってるけどさ。


 助けを求めるようにサリエリを見れば、ふにゃふにゃとした顔が返ってきた。


「そんなふうにぃー、いわれたらぁ、たしかにザルーンやノッチっぽいって思わなくもないのぉー」


 ザルーンってのはナザルで、ノッチってのはライノスのこと。

 てきとうなニックネームで呼ぶのは、まあいつものことである。


 俺なんて、ネルネルだよ?

 いったい何を練るってんだ。


「いわれてみれば、か」

「そおだよぉ、さすがに先入観なしではわかんないよぉ。アスカっちの勝負勘がヘンタイなだけでー」


「ヘンタイっていうなー! ヘンタイっていうやつがヘンタイなんだぞー!」

「それはタイヘンだぁ」


 きゃいきゃいとじゃれ合いを始める。


 アスカは、ライノス、ナザル、ジョシュア、ニコルとは何度も手合わせをしている。

 ギルドの地下の鍛錬場なんか昔は閑散としていたもんだけど、いまはもう、すげー混んでるよ。


 蓋世の英雄であるアスカが頻繁に出入りしてるからね。

 しかも手合わせのお願いとか断るようなタイプじゃないし。

 で、彼女を入れて、この五人がガイリア王国でもトップファイブの剣士だろう。


 俺なんかはもう足元にも及ばない。

 サリエリなら互角以上に戦えると思うけど、なにしろこいつは鍛錬場になんかいかないし、練習している様を他人に見せたりもしないんだ。


「うーん」


 腕を組む。

 いくら太刀筋が似ているといっても、あれはモンスターだ。

 ジョシュアやニコルが着ぐるみをまとっている、なんていう愉快な結論にはならないだろう。


 そもそも俺たち『希望』と、『葬儀屋』『固ゆで野郎』が戦う理由がない。

 べつに敵対しているわけでもないからね。


「母さん。アスカの言っていることが正しいって仮定して話を進めたら、ひとつ腑に落ちる点があります」


 控えめに右手を挙げてミリアリアが発言した。


「それは?」

「自慢に聞こえてしまったらごめんなさい。私が使った攻撃魔法なんですけど、あれは完璧なタイミングでした」


 こくりと俺は頷く。

 自慢だなんてとんでもない。


 魔法は専門じゃない俺だって判るさ。接近戦に万全の備えをした敵に、虚を突くタイミングでの魔法攻撃だ。

 普通は防げるはずがない。


 でも、接近戦をするぞするぞって思わせて魔法を誘ったとは考えにくいのである。

 そうだとしたらその後の連携が良くないし。


「あれを防がれるとは思いもよりませんでした」


 ちょっと下を向き、悔しそうだ。

 俺は伸ばし、ぽんぽんと頭を撫でてやる。


 だから茫然自失しちゃったんだよな。そしてそれが悔しかった。ずいぶん前に、ゴーレム相手にテンパってしまったことを思い出したんだろう。まったく成長できないじゃないか、と。


「そういうときもある。俺だって読み負けることなんか日常茶飯事だ」


 下手な慰めに、ミリアリアは小さく笑った。

 ありがとうございます、と唇が動く。


「そして考えました。あの攻撃を防いで、しかもすぐに反撃の魔法を飛ばせるのはどんな敵なんだろう、と」


 ふむ。

 あれは見事だったな。

 考えてみずとも、あんなことをやってのけるなんて、並の魔法使いじゃない。


「アスカがジョシュアさんやニコルさんの名前を出したとき、ふと思い出したんです。アンナコニー先輩ならできるだろうなって」

「やつか!」


 おもわず頭を抱えてしまった。

 俺の知ってる限り最強の魔法使いである。


 いや、たぶん使える魔法はミリアリアの方が多いし、強力だろうとは思う。思うんだけど、もし二人が戦ったら百戦してアンナコニーの百勝なんじゃないかな。


 とにかくけれん味・・・・のない使い手なんだ。

 堅実で隙がなく、常に理に適った魔法選択をする、ありていにいって超一流の魔法使いである。


 アンナコニーがバックアップしてくれているのに負けるとしたら、前衛がへぼすぎるんだって言い切って良いくらいだよ。


「まじか……」


『金糸蝶』の初期の躍進を支えてくれたのがアンナコニーだ。

 あいつの的確な援護があるから、ルークも俺も存分に戦うことができたのである。


 たしかにアンナコニーが敵にいるなら、あの戦いぶりは納得できるラインだ。


「オレがまいたカルトロップも、ドーゴン師匠ならすぐ気づくスよね。たしかに」


 ため息をついて肩をすくめるメグ。


 おいおい勘弁してくれよ。

 ジョシュアにニコルにアンナコニーにドーゴンて。

 本格的に『葬儀屋』じゃないか。

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