第69話 クランハウス建設開始


 クラン小屋が建て直されることになりました。

 この際だから街の中にクランハウスを設けたらどうだ、と、伯爵にも将軍にも言われたんだけど、なんと娘たちが嫌がったのである。

 この場所が良い、と。


 とても信じられない話だけど、水車小屋の残骸からスタートしたクラン小屋に、愛着を持っているらしい。


 なので、同じ場所にちゃんとしたクランハウスを立ててもらえることになった。

 費用は伯爵持ちでね。


 しかも今度はちゃんと水車があるんだぜ。

 水汲みが自動化されるなんて、夢のような環境だ。


「水車小屋だった場所にぃ、水車がついたと喜ぶひとはぁ、たぶんネルネルだけだよぉ」


 ってサリエリに笑われたけどね。


 あ、そうだ。サリエリっていえば、彼女の個室も作られることになった。

 しばらくはこっちにいろって命令がきたらしく、『希望』の臨時メンバーって立ち位置で一緒に行動するのである。


 ともかく、新しいクランハウスは、二階建ての石造りで、全員分に個室が行き渡った上に、居間も食堂に繋がる厨房も、ちゃんと脱衣所がついた浴室もあるんだよ!

 すごいよ!

 ちゃんとした家みたいだよ!


「ネル母さん。ネル母さん。家ですから」


 ミリアリアにたしなめられちゃった。

 ハンドメイドで色々と作ってた時代が長かったから、ついね。


 ちなみに、いままでみたいな気密性ゼロで隙間だらけじゃないから、白猫の獅子王が出入りするための猫窓ってのも作られることになった。

 獅子王だけじゃなくて、奥さんと子供もね。


 あ、俺たちがマスルに行ったり、王国軍と戦ったりしている間に、子猫が生まれたんだよ。

 しばらくうちにおいて、ハンターとしての才能があるようなら、猫屋が引き取るんだそうだ。

 優秀な猫は、いつだって引く手あまただからね。


 ただまあ、今日明日に完成って話じゃないから、しばらくの間は宿暮らしだ。


「炊事当番も掃除当番もないのは、なんだか変な気分ですわ」

「そうスね。微妙に落ち着かないス」


 メイシャとメグの会話だ。


 連泊するってことが基本的にないからね。夜露をしのぐために泊まって、朝になったら出発するし。

 何日も逗留ってのはほとんどない。


 ピラン城にいたときくらいかな。ずっと泊めてもらったのは。

 あのときも、雑役の人とか給仕の人とかがいて掃除だの食事の世話だのをしてくれたものだから、大変に居心地が悪かったものだよ。


 孤児院育ちの俺、アスカ、ミリアリア、メイシャ。盗賊ギルドに育てられたメグ。どだい高級とか富貴とかが似合う柄じゃないからね。






 一日いちじつ、俺たちは冒険者ギルドを訪れていた。

 ぶっちゃけていうと暇だったからである。

 クランハウスが完成するまで、ただぼーっと宿で過ごすなんて性に合わない。なんか良さげな仕事でもないかと思ったのだ。


「あのアスカちゃんが街の英雄になるなんてねぇ」


 係員のジェニファも感慨深げである。

 協賛金が払えなくて、足元にすがりついていたわけだからね。三人娘は。


 それがいまや、ガイリアで知らない人なんていないだろうって英雄だもの。

 遠い目だってしちゃいますよね。


「えへへー! もっと褒めて! いっぱい褒めて!」


 そして、すぐ調子に乗るアスカである。


「天狗にならないの。ライオネルさんの力が大きいんだから」


 ぺいって捨てられた。


「わかってるもん! ネル母ちゃんがいなかったら野垂れ死んでたかもしれないもん!」

「わかればよろしい。ちゃんと感謝するのよ」

「ははー! ありがたやありがたや」

「なあお前ら、その寸劇、いつ終わるんだ?」


 俺は半眼を向けてやった。

 全員で来ると、どうしていつもからかわれるのだろう。


「人徳ぅ?」


 のへーっと首をかしげるサリエリだった。

 せめて疑問符をはずせや。


「この時期の仕事はアンデッドの討伐ばっかりですね」

「だろうなあ」


 ひとしきり騒いだあとに訊ねれば、返ってきた答えは常識的なものだった。

 そりゃあ両軍合わせて一万三千以上が死んだからね。

 迷い出てくるゴーストや、墓穴から這い出てくるゾンビに事欠かないだろう。


「依頼元は至高神教会ですから、あんまり報酬は良くないですよ」

「ならやるさ。うちにはプリーストもいるし」

「もちろんですわ」


 どんとたわわな胸をメイシャが叩く。

 やる気満々だ。


 彼女は至高神の信徒だし、至高神教会には世話にもなっている。

 採算度外視というわけにはいかないけど、報酬が多少安くたって教会からの仕事なら受けてあげたい。


「それでは、アメニ村にお願いします」


 受領書にサインを求めながら、ジェニファが詳細を説明してくれた。


 ガイリアからほど近い村が、夜な夜なゾンビに襲われている。

 至高神教会の施した結界があるから村の中には入られてはいないが、気持ち悪いし怖いし、子供たちもかなり怯えているという。


 ガイリア周辺の町や村は、どこもこんな状態らしい。

 教会の僧侶たちも総出で鎮魂にあたってるけど、まったく手が足りないため冒険者ギルドにも仕事が回ってきた。


「一回一回戻ってくるの面倒だから、いくつかまとめて受ける。メグ、効率の良い周り方を考えてみてくれ」

「了解ス」


「メイシャ。今度の仕事はきみが主役だ。頼んだぞ」

「安んじてお任せあれですわ」


「ミリアリア、氷狼の杖の出番はないぞ。残念だったな」

「今回はメイシャに手柄を譲りますよ」


 俺が三人に声を掛けていると、なぜだかアスカとサリエリがじーっと物欲しそうにみている。

 いや、きみたちに特別なアドバイスとかはないよ?


「バ母ちゃん!」

「いけずぅ」


 伝えたら、二人して舌を出して逃げていた。

 仲いいなあ。お前ら。

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