第124話 ガイリアを目指して


 ロンデン王国内における悪魔の捜索と討伐に関して、シュメイン王は全面的な協力を約束してくれた。


 ただ、条件というほどではないが、お願いされたことがある。

 三国首脳への顔つなぎだ。

 もちろんシュメイン王が出向くのではなく、まずは使者を案内する。


「道中、よろしくお願いしますね」


 ぺこりと頭を下げるのは、目元のあたりにシュメイン王の面影がある女騎士だ。名をシュイナ。年齢は十八で、成人したばっかりである。


 そんなのが王の全権代理で大丈夫なのかと思ってしまうが、このシュイナはただの女騎士ではない。

 なにしろ王妹だもの。

 末の妹なんだってさ。目に入れても痛くないくらい可愛がってるんだってさ。


 余計な情報とともに紹介されました。

 つーか、また女性だよ。


 チームに女性が交じると、娘たちの機嫌が悪くなるから勘弁して欲しいんだけどなぁ。

 まあ、最初だけね。気の良い娘ばっかりだから、何日か一緒に旅をしていたら、すぐに馴染むだろうけど。


 ともあれ、この女騎士シュイナを新ミルト市まで連れて行くのが『希望』が受けた仕事である。

 何故にミルトなのかといえば、ロンデンから七日ほどと比較的近いし、魔導通信の設備もあるからだ。


 通信だけでは不足ならフロートトレインで移動しても良い。

 どう動くにしても新ミルト市を拠点にするのが都合がいいのである。


「それではシュメイン陛下、悪魔のことはお任せします」

「任せておけ。交渉の成否にかかわらず、全力で調べ、狩るさ」


 やつらは人類の敵だからなと胸を叩くシュメイン王だった。


 結局、俺たちは王都マルスコイに三日ほど滞在した後、ガイリアへと旅立つ。旧リントライトで二番目に発展している国から、一番発展している国へと。




 マルスコイから新ミルトという旅路は、もちろん初めての行程である。


 ゆえに宿場での情報収集は必要不可欠だ。

 街道の安全性に関する情報、次の宿場までの所要時間、そして治安に関することなど、調べておくことは数多い。


「もちろん名産品もですわ!」

「うん。その情報はべつにいらない」


 出発から三日、今日の情報収集の随伴者おともはメイシャである。単独行動はしない、というのが基本中の基本だから、必ずツーマンセルを組むことになるのだ。

 といっても、俺とメグ、メグとメイシャ、俺とメイシャ、だいたいこの三パターンである。


 アスカは情報収集にはまったく向かないし、ガイリアシティやマスルならともかく、ダークエルフのサリエリは目立ちすぎるんでやっぱり情報収集には向いていない。


 そしてミリアリアは体力的に負担になってしまうのだ。

 虚弱だとかそういうことはまったくないのだが、やはり身体も小さいし、休めるときには休んでもらわないと。『希望』の最大火力だってのもあるしね。いざというとき、へばって詠唱もできないってんじゃ話にならない。


 なので、護衛対象のシュイナとともに宿にいてもらう。

 これだって立派な護衛としての仕事だ。


 で、情報収集のできる三人でローテーションを組みながら調べものさ。斥候のメグは本職だし、軍師だってそういうのはわりと得意だしね。

 メイシャに関しては、そもそもこいつにできないことってないんじゃないかなってくらいユーティリティーなんだよね。


 接近戦もできるし魔法も使えるから事が荒立ったときでも安心だし、容姿が優れている上に神学校で習った話術があるんで、人の心の間合いにするりと入っていくことができる。


 しかも、気さくで物怖じせず下ネタも忌避しないってんだから、ちょっと旅商人たちのテーブルに顔を出したら、小半刻(十五分)後には十年来の親友みたいになってるさ。


「ひたすら食いしん坊で燃費が悪いってのを除けば、メイシャって完璧人間だよな」

「多少の欠点があった方が殿方はお好きでしょう?」

「それは否定できないかもな」


 並んで道を歩きながらくだらない会話を楽しむ。

 栄えているガイリアと、やはり栄えているロンデンを結ぶ街道にある宿場だけに、人も多く店も多く物も豊富だ。


「よし。ではわたくしと結婚いたしましょうか。ネルママ」


 ふんすとメイシャが鼻息を荒くする。


「なにがよしだ。聖女メイシャを娶ったりしたら、俺はファンクラブの連中に殺されてしまうだろうが」

「わたくしにファンクラブなどありませんわよ」

「あるある。お前、まったく自覚ないんだな。モテモテだって」


 ガイリアシティの男どもの人気を三分してるんだぜ?

 闘神アスカ、大賢者ミリアリア、聖女メイシャ、いずれも甲乙付けがたい人気を誇ってるんだ。

 悪い男に引っかかっちゃわないか、お母さんは心配ですよ。


「……おまいう」


 不意に半眼になったメイシャがぼそっとなにか言った。

 通りの喧噪でよく聞き取れなかったけど。


「ん? なんて?」

「なんでもありませんわ。それよりネルママ。あそこのお店は美味しそうな予感がしますわ」


 ぴっと指をさしたさきには、お食事処の看板がある。

 こいつの予感は、まあ外れないよね。


 なにしろ聖者の天賦を持ってる娘だからね。センスラックっていって天啓が降りてくるから。

 メイシャがここだと思った飯屋は確実に美味しい。

 至高神もね、もうちょっと有益な情報を教えてあげれば良いんじゃないかな。


「さあ、突撃ですわよ。ネルママ。情報収集という名目のお食事に!」


 ぐいぐいと腕を引っ張られる。


「名目いうな。そっちが本題だ」


 押しつけられた胸の感触は無視して、俺はため息をついた。


 俺だから良いけどさ。他の男だったら絶対勘違いするわよ。

 ほんと、気をつけなさいよ。あんた。

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