第154話 エルフVSダークエルフ


 結論からいうなら俺の装備方法は、ある意味で間違ってはいなかった。

 しかし、正解というわけでもなかった。


 剣帯に佩くってのいうのは騎乗して戦うときの装備方法なんだそうだ。こういうときは刃が下で問題ない。

 徒歩のときには、刃を上にしてしっかりと腰に差す。


 べつに儀式的な理由があるわけではなく、その方が使いやすいからだ。


「たしかに、言われてみたらその通りだ」

「だろう? ライどのは騎士ゆえ馬上で戦うことも多く、こんなものだと思ってしまったのだろうな」


 アサマから借りたカタナをベルトに差したり、剣帯に吊したりしながら確認する。


 徒歩のときには、刃が上の方が抜いてから攻撃に移行しやすい。

 そして佩いているよりも、しっかりとベルトに差し込んであった方が抜きやすい。


「盲点だったなぁ」

「それはやむをえんだろう。拙者とてブロードソードやロングソードの振るい方など想像もつかん」


 まずは基本中の基本、カタナの持ち方を教えてもらった。

 正直、いままではかなり適当に使っていたのだと実感する。

 これは基礎からやり直さないとダメだ、とね。


「殿、お持ちいたしました」


 中庭でちょっとしたレクチャーを受けていると、アサマの部下が布に包まれたなにかを持ってやってきた。

 うむと頷き、アサマが布を取る。

 金属っぽいものの塊が、台の上に鎮座していた。


「当家秘蔵の玉鋼だ。これを使い、ライどのの刀を打たせるとしようぞ」

「打つ? 新作するということか?」

「うむ。既製品ではなく、貴殿の体力や身体能力に合わせ、世界に一振りだけの、ライどの専用の刀を作るのだ」


 おいおい。

 なんだかすごいことになってきたぞ。


 俺のためだけに作られる剣だなんて、ちょっともったいなさすぎる。

 そりゃあ、ひとかどの剣士だって自負はあるけれど、『希望』にはもっと強い剣士がいるんだ。アスカやサリエリが打ってもらった方が良いんじゃないかな。


「わたしは母ちゃんからもらったオラシオンがあるから良いの!」

「うちはエフリートと契約してるからねぇ。持ち替えるには契約解除しないといけないからぁ。めんどいの~」


 ちらりと視線で問いかければ、二人は躊躇いもなく首を横に振った。


 まあ、祈りという意味を持つ聖剣と、炎の上位精霊の力を宿した魔剣だもんな。

 長いこと使って手に馴染んでるってこともあるだろうし、そう簡単には変更できないか。


「母ちゃんのための剣なんだから、母ちゃんが使うのが良いんだよ」

「……ライどのは母と呼ばれているのだな。父ではなく」


 アサマが微妙な顔をする。

 この説明が面倒なのよね。毎度毎度。

 なんとかならないものかしら。






 アサマから預かった玉鋼をもって、紹介された工房へと向かう。

 見慣れぬ街を興味深く眺めながら。


 インダーラのマリシテ、セルリカのサントン、そしてランズフェローのルーベルシー。同じ東大陸なのに文化も風俗もまったく異なっていて、じつに面白い。


 中央大陸の国って、どこもそんなに見た目的な違いはないからね。


「言語が統一されなかったからこそ文化の個性が失われなかった、ということでしょうか?」


 ミリアリアが学術の徒らしいことを言う。

 俺は曖昧に笑って見せた。

 残念ながら、俺程度の頭からは正解は転がり落ちてこない。


「どこの国にもどこの街にも美味がある。それこそが真理ですわよ。ミリアリア」


 そしてメイシャは、いつも通りまったくブレないのだ。

 いつ買ったのか、手には甘い匂いの串料理を持っている。


「ダンゴンというそうですわ。ネルママも一本どうぞ」

「ありがとうよ」


 もちもちしたなにかと甘塩っぱいタレが、なんとも楽しい食感である。

 現地の美味いものを見つけることに関しては天才だよね。メイシャって。


 まさか天啓とか降りてるのか?

 こいつの口を通して至高神も各地の美味を味わってるとか。

 だとしたら、至高神ってちょっと愉快すぎるな。


「こっちっぽいねぃ」


 アサマが書いてくれた地図を片手にサリエリが指をさす。ランズフェローの言葉はみんな話せるようになったけど、さすがに文字を読めるのは彼女だけなのだ。


 入り組んだ路地の先、カーンカーンと音が響いている。


「ここか」

「刀鍛冶って書いてるんだよぅ」

「ランズフェローの文字は、まるで絵みたいスね。これを憶えたら暗号に使えるんじゃないスか?」


 きゃいきゃいと騒ぎながら、工房の引き戸を開けた。

 東大陸のドアってたいてい横に開くんだよ。おもしろいよな。


「いらっしゃ……あ。ダークエルフ」


 応対に出てきた女性が、サリエリを見てちょっと固まる。

 それから何かを思い出すように天井を見上げ、すごく意地悪そうな顔を作った。


「エルフの郷を捨てた黒エルフが何の用? あんたに売るものなんかないんだけど」


 すごく失礼な態度だ。

 こんな店に注文するのはやめよう、と言おうとしてサリエリを見ると、こいつもものすげー邪悪な顔を作っている。

 いつもののへーっと眠そうな顔じゃなくて。


「進歩も進化も捨てて伝統にしがみつく白エルフに用なんてあるわけないじゃん。バカなの?」


 吐き捨てるように言ってるよ。

 なんだこの一触即発の空気は。


「こんなもん?」

「そうだねぃ。不倶戴天っぽい空気も出したしぃ」


 ハラハラして見守っていると、エルフとサリエリは普通に相好を崩した。


 えー?

 今のって茶番だったの?

 むしろ、それをやる必要ってあったの?


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