第175話 軍事演習
巨岩やブッシュなどが配置された練兵場。
おそらくというか、疑いなくダガンの侵攻ルートを想定して造られたものだろう。
俺はそこに立ち、二十人の新兵たちに指示を飛ばしていた。
なにやってんだって話である。
欠員が出てしまった正規兵の補充試験をやらされることになってしまった。候補の二十名を率いて、ベテラン兵四十名と戦うんだってさ。
そんで、二十名のうち最も活躍したやつが正規兵になれるんだそうだ。
まずね、四十対二十で戦えってのがおかしいよね。
兵力差二倍なんかで戦ったら、間違いなく負けちゃうじゃん。
ボロ負けじゃん。
活躍どころの騒ぎじゃないじゃんね。
せめて同数で戦わせたらどうだという俺の意見に、二倍程度の劣勢を跳ね返せないようなら、とても実戦では役に立たないと笑った。
つーか、ルターニャっていつもそんな戦いをしてるんだね。
国を取り巻く状況が非常に厳しいことには同情するけど、こんな劣勢で戦って、新兵が死んでもかまわないって言葉はいただけないね。
「ティカ。アルスト。もう少しさがれ。逆にミリアとマリアはもうちょっと前。うん、そのあたり」
新兵たちポジションを確認ししていく。
戸惑いつつも、俺の教えたフォメーション通りに動いてくれているようだ。
新兵たちと触れあう期間が三日ほど与えられたのが良かったね。
名前と顔を一致させることができたし、作戦を理解させることもできたから。
平均年齢は数え十五(満十四)歳ほどで、俺と出会ったばかりのアスカたちと同年代の少年少女だ。
ただ、徹底した軍事教育を受けているから、全身傷だらけだし上下関係をきっちり理解している。
そしてそれ以上に、生まれ故郷を守ろう気概に瞳を燃やしていた。
良い兵士だけど、俺としてはアスカの半分くらいはちゃらんぽらんでも良いと思うんだ。まだ子供なんだし。
やがて角笛が響き、正規兵四十名が進軍を開始した。
「隙だらけの陣形だな。誘ってんのかな」
大きな岩に登り、戦場全体を俯瞰しながら俺はつぶやいた。
四十人が四列縦隊。
まあ普通に行軍しているって設定なんだろうな。
それを迎撃してみせろってのが試験内容だ。
「どこから襲いかかっても先制できそうだけど、すぐに乱戦になってしまいそうだな」
正規兵はダガン設定だけど、強さそのものはルターニャ兵だからね。
一撃で全滅させる、なんて芸当でもやらないかぎり、そのまま乱戦に突入するだろう。
そうなったら数の多い方が有利だ。
「うーむ。これって勝っちゃっても良いと思うか? イザーク」
「はい先生! やっちゃいましょう!」
斜め後ろに立った少年兵に声をかければ、元気一杯に返ってきた。
このイザーク少年とピリムっていう少女を、俺は副官兼伝令としてそばに置いている。
つまり前戦には十八人しかいないわけだ。
ただでさえ少ない戦力をさらに減らしているわけだど、二人ともまだ数え十三(満十二)歳なんだもの、前戦に出したくないのよ。
それにまあ、俺の作戦行動には伝令役が絶対に必要だしね。
「ピリムはどう思う?」
「勝ちたい、です」
「そうか」
俺は軽く頷き、指揮棒がわりの木剣を振りあげ、
「戦闘開始!」
ぶんと振り下ろした。
喊声とともに、新兵たちが姿を見せた。
岩陰から、木々の間から、あるいは灌木の茂みから。
ベテランへ兵たちは驚き、つぎに失笑する。
隠れたままやり過ごし、後背から襲いかかるのが常道だ。数が少ない方が正面に立ち塞がるとは。
敵が近くを通過するという恐怖に耐えられなかったか。
まだまだ未熟。
鍛え直してやろうと、ベテラン兵たちが前進する。
縦隊をとき、新兵一人に対して二人ずつが。
違和感をおぼえたものがいただろうか、新兵は常に二人一組で立っていることに。
つまり、新兵二人に対してベテラン兵四人が向かっているのである。
数の上でも質の上でも負けるわけがない。
ぼこぼこに叩きのめされておしまいだろう。
と、ベテラン兵も、彼らを指揮しているタティアナも思ったかもしれない。ごく短時間ね。
その予測は、小半刻(十五分)もしないうちにひっくり返された。
次々とベテラン兵たちが倒れていったのである。
「ばかなっ!?」
まるでドラゴンにでも出会ってしまったような顔で、タティアナが部隊を後退させた。
とても信じられないという顔で集結するベテラン兵。
その数は三十を割り込んでいた。
つまり、最初の衝突で十以上の被害が出てしまったのである。
「まあ、悪夢だろうね。四年間一人も失っていない指揮官なら、なおさらだ」
岩の上で俺はうそぶいた。
「ルターニャ正規兵は一騎当千。対してこちらは新兵ばかりだから、一騎当
それでも精強なことは間違いない。
少年少女なのに、ガイリア兵より強い子たちなのだ。
なので、俺がとった作戦は、彼らのチカラを増幅させることである。
アスカとサリエリがコンビを組んだときのように。
一人で戦うときの何十倍ものチカラを発揮することができる陣形。
「すなわち、ツーマンセルさ」
にやりと唇を歪めた。
これこそが、俺が発見したルターニャ軍の弱点である。
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