第11話 デートしよう!
仮称十七号遺跡の調査を終えた俺たちは、少しだけ懐があたたかくなった。
報酬もさることながら、そこそこの数の
それらを金に換えて、クランとしての財産を除け、残りを四人で等分する。
現状、俺がクランリーダーということになっているが、その分の増額はナシ。特別扱いしないこと、というのが俺がリーダーを引き受ける条件だったからだ。
全員が同格の仲間だけど、俺は年長者として三人娘にアドバイスをしている。そういう形が望ましい。
リーダーとして、上からああしろこうしろと命令したのでは、彼女たち自身の自主性も育たないしな。
ともあれ、クラン小屋の屋根と外壁を修理できるくらいの収入があったのは喜ばしいことだ。
次の目標はベッドだな。
あるいは、風呂に壁と屋根をつけるか。
街から四半刻(三十分)も離れたクラン小屋なので、わざわざ覗きにくるような不埒者もいないだろうが、あんまりにも無防備すぎるってのも問題だ。
あいつら微妙に羞恥心ないしな。
裸に近い格好で、俺の前をうろうろするんだぜ?
母ちゃん母ちゃんいわれてるけど、こちとら若い男だっての。
あんまり舐めていると三人まとめて襲っちゃうぞ。
……できないけどさ。そんな下劣な真似。
「ネルさん! 早く行こうよ!」
俺の懊悩をよそに、アスカがぐいぐいと腕を引っ張る。
デートするんだってさ。
クランの休息日に。わざわざ俺なんかと。
まあ、メイシャは教会だし、ミリアリアは図書館で勉強中だから、暇を持て余してのことなんだろうけどね。
「へいへい」
小屋に鍵をかけ、連れだって歩き出す。
いやまあ、盗まれるものなんか、なんにもないんだけどな。
それでも泥棒に入られて嬉しいやつはいないさ。
「肉食べにいこうよっ」
「おまえはメイシャか。休息日くらい肉を食いたくないぞ。俺は」
「肉は正義!」
「やっすい正義だなぁ」
くだらない話をしながら、小高い丘を下って街へと向かう。
『希望』のクラン小屋というのは、残念ながらガイリアの城市の中にはないのである。
ていうか、街壁の中に家を持ってるのはそこそこの金持ちだけだ。
集合住宅か借家住まいが圧倒的大多数。
宿に長期契約してる冒険者もいるかな。
いずれにしてもランニングコストがけっこうかかる。その意味では廃棄される水車小屋を無料で譲り受けたアスカたちの判断は、そう悪いものじゃない。
家賃がかからないっていう長所があるからね。
ちなみに短所は、街から遠いとか、壁の中じゃないから危険だとか、ボロいとか、雨漏りするとか、ネズミが出るとか、数え上げたら二十個くらいはあるだろう。
「そうだ。猫を飼おう」
「どしたの? 藪から棒に」
アスカがきょとんとする。
たしかに唐突だったかもしれない。
ネズミが出るってところから連想しただけなんだが。
「まさか猫を増やして食べるとか?」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ」
猫を飼う目的なんて、ネズミ除け以外になにがあるというのか。
基本的に、猫のいる家にネズミは出ない。おびえて逃げてしまうから。
いるだけで鼠害を防ぐ優秀なハンターなのである。
「餌代はかかるけど、ネズミに足とかをかじられるよりずっとマシだからな」
「それはあるかもね! 夜中にチュっとか鳴き声が聞こえたら飛び起きちゃうもんっ」
ほんとな。あいつら寝てる隙を狙ってくるから。
「じゃあ猫屋にも寄ってみようか」
「さんせーっ!」
街を散策し、軽食を楽しみ(肉は食ってない)、猫屋で優秀そうな猫を手配して、そろそろ良い時間になってきたため、俺たちは冒険者ギルドへと足を向けた。
依頼を見繕うためでなく、大食堂で夕食をとるためである。
なにしろここが一番安くて美味いからね。
上流階級向けのレストランなんて、そもそも冒険者みたいな無頼漢を入れてくれないし。
かといって中流向けの店はけっこう当たり外れが大きい上に、値段もけっして安くない。
じゃあ貧乏人向けのスタンドはっていえば、そんなところに行くくらいなら材料だけ買ってクラン小屋の前で調理して食っても一緒って話だ。
「結局ここに来ちゃうよね!」
「安いしな」
登録している冒険者しか利用できないため、たとえばチンピラに絡まれたりとかってトラブルが起きないのもポイントが高いね。
どっちも血の気が多いから、あっという間に乱闘騒ぎに発展するんだ。
で、そんなのが発生したら、アスカなんて嬉々として飛び込んでいくだろうこと、万に一つも疑いない。
まさに火を見るより明らかだよ。
「このスパイス美味いな……あとで調合訊いてみるか」
白身魚を焼いたものにかかっている香草だ。うまく臭みを消していて、かつ芳醇な香りを加えている。
エールより、ワインを楽しみたい気分にさせてくれる一品だ。
「美味しいけど、わたしは肉の方が好き!」
「へいへい。お前たちは肉食動物だからな」
「がおー! ネルさんも食ってやるー! 性的に!」
「食事中にそんな話をするんじゃありません」
すぐに悪ふざけに移行しようとするアスカをぴしゃりと叱っておく。
女の子はもう少し慎みをもたないとね。
「あ、いたいた。ライオネルさん。アスカちゃん」
ぱたぱたと小走りにジェニファが寄ってきた。
食堂の方に顔を出すなんて珍しい。
「緊急依頼が発生したわ。明日の朝、受付まで来てくれる?」
やや切羽詰まった口調だ。
しかも明日の朝とは、ずいぶんと急な話である。
思わず顔を見合わせる俺とアスカだった。
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