第284話 帰ってきたぜガイリア
やがて懐かしのガイリアシティが見えてくる。
空から見るとけっこうぐにゃぐにゃに歪んだ四角形で、ぐるっと街壁に囲まれた城塞都市なんだ。
まあ、区画整理がしっかりされてないから、おもちゃ箱をひっくり返したみたいに見えるよね。
中心あたりにあるのがロスカンドロス王の居城。
ドロス伯爵だったころにはまず立派なお城だったんだけど、ガイリア王国の王城ってことになるとちょっと小さい。
マスルとまではいかなくても、リントライト王国の王城程度のものにはしないと格好がつかないんだ。
住めれば良いってわけにはいかないのよ。国威ってやつは。
なので新築の工事が予定されている。
今の城を離宮ってことにして、郊外に立派なやつを建てるんだ。
つまり王都と王城を分離することになるから、当初は反対意見も多かったんだよね。
すごいぶっちゃけると、王都に住む人々を盾にできなくなるから。
ここに入り込んだ敵軍が住民を殺したり犯したり略奪したりしている間に王族が逃げる、というのが多くの王都の基本構造なんだ。
だから、王城だけぽつんと郊外にあるってのは、
だから俺はカイトス将軍に意見を求められたとき、こう応えたんだ。
王都近くまで攻め込まれる事態になったら、もう逆転の目なんかないからとっとと降伏した方が良いって。
ロスカンドロス王もカイトス将軍も大いに頷いてくれて、新ガイリア城は郊外に建設されることになったんだ。
「でもぉ、ネルネルに宿題が出されたんだよねぃ」
「俺とキリル参謀に、だな正確には」
船窓にうつる景色を眺めていた俺に、サリエリが笑いかける。
あのときは彼女が横にいたんだっけな。
ガイリアは、軍師の天賦を持つ人間が二人もいる珍しい国なんだ。
まあ滅多に見ないからねー。軍師なんて。
キリル参謀、シュクケイどの、リチュー、そして俺。
自分を入れて四人しか知らないし、そのうち一人はもう鬼籍に入ってる。
まず天賦が軍師ってのが少ない上に、簡単に芽が出る才能じゃないから、けっこうスポイルされちゃうんだよね。
通っていた学校では、ぶっちゃけいじめられそうになったしね、俺。
孤児のくせに勉強できるのは生意気だって。
そのたびにルークと一緒にそいつらをボコってたら、いつのまにか誰も俺たちに逆らわなくなったけどさ。
英雄と軍師のコンビって、なかなか最強なんだぜ。
ともあれ、出る杭は打たれちゃって才能を隠すようになっちゃうケースは多いんだ。
キリル参謀あたりがそのパターン。
あの人は軍師の天賦があったのに薬師になって、普通に街で暮らしていたんだってさ。
在野に軍師がいるぞって情報をつかんだカイトス将軍が、わざわざ自分で足を運んで、ものすげー額の支度金や屋敷とかまで用意して幕僚に迎えたんだそうだ。
つまり軍師ってのは、そのくらいしてでも手に入れたい人材なんだよね。
まったく活かせずに使い潰しちゃったダガン帝国は愚かすぎるけど、シュクケイどのを宰相に据えたセルリカ皇国は、最近ぐいぐい国力を伸ばしてる。
東大陸統一も、まんざら夢じゃないんじゃないか、とかカイトス将軍か言ってたな。
とまあ、そんな感じで軍師の天賦を持ってる人間は、上手く使えばものすごい力を発揮する。
そんなのがガイリアには二人いるんだ。
「といってもぉ、そのうち一人はやる気なし一代男だしぃ」
のへのへと笑うサリエリ。
俺は肩をすくめた。
やる気がないんじゃないんだよ。
権力に近づくってことは、娘たちも政争に巻き込まれてしまうってことなんだ。
それはさ、できれば避けたいんだよね。
ガイリアシティ郊外の草原に『フォールリヒター』は着陸した。
ここで『希望』と『葬儀屋』は船を下り、ミレーヌたちはマスルへと帰還する。
で、俺たちはギルドに事の顛末を報告しないといけないわけだ。
都市国家ルターニャのダンジョンと繋がってしまった、というとんでもない事実は『固ゆで野郎』から報告されてるとは思うけど、誰が繋いだのかとか、そいつがどうなったのかとか、みんな知りたくてうずうずしてるんじゃないかな。
「言ってるそばからお迎えだぜ。ネル」
ナザルが言う。
街門から二、三騎が飛び出してきたのだ。
「いやあ、あれってギルドじゃなくて、王国軍じゃないか?」
どこの街でもそうだけど、街中での騎乗は許可されていない。
兵士を除いてね。
「だからお前に用だろって話じゃねえか」
「デスヨネー」
ゲラゲラ笑うナザルに、俺は嫌な顔をした。
一介の冒険者にすぎないはずなんだけど、王様とか将軍から呼び出されるんですわ。
ロスカンドロス王の知恵袋とか、フリーの外交官とか、まあ嬉しくもなんともない称号が付けられてるんだよなぁ。
「仕方ないな……ギルドへの報告は、ミリアリアとメグで頼む」
「判りました」
「了解ス」
魔法使いと斥候が頷く。
この二人なら過不足のない報告ができるだろう。
「メイシャは教会への報告を頼んで良いか? ノーデンス様のことも含めて」
「判りましたわ」
こっちの件も、黙ってるってわけにはいかないからね。
「アスカとユウギリは、先にクランハウスに戻ってアニータを安心させてやってくれ」
「らじゃ!」
「きっと心配しているでしょうからね」
家宰に無事を伝えるってのも大事な仕事だ。
「そしてサリエリは、俺と一緒にきてくれ」
「うちを連れてくってことは、たぶんあの件だと思ってるんだねぇ」
リアクターシップの中で話してた新しい王城の件だ。
最初に話が持ち上がってから、もう半年である。
いい加減、どういう形にするか決めないといけない時期ではあるんだよね。
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