第189話 またまたゴブリン
「無事に帰還されて良かったですよ。誘拐されたってきいたときは、とても心配しました」
「心配かけてすまんな。ジェニファ」
「ええもう、お母さんからお姫様に格上げだなんて。ライオネルさんはいったいどこへ向かっているのかと、とても心配でした」
「うん。心配の方向性がおかしすぎるよね」
馬鹿話をして笑いあう。
もちろん冗談口だが、こういうのを飛ばせるのも無事に帰ってこれたからだ。
冒険者ギルド。
俺たちにとっては最もなじみ深い場所に帰還の挨拶である。
アスカたちはメアリー夫人のところに行っているし、ユウギリはクランハウスで農作業の指導、サリエリはその手伝いだ。
俺の随員はメグで、ギルド長に依頼失敗の挨拶をした後は、新しい仕事を見繕い中である。
あ、『希望』は四ヶ国同盟の首脳会談の警護の仕事をしていたんだ。表向きにはね。
けどリーダーが誘拐されるという大失態を演じたわけだ。
ダガン帝国をなんとかしようっていう四ヶ国同盟の目的は達成したし、会議そのものも無事に終了した。しかし俺たちが護衛の任を全うできなかったっていう事実は動かない。
もちろん四ヶ国の首脳からは不問に付すって通達はきてるけどね。
それでも失敗は失敗だし、ギルドに失敗の報告をしないわけにはいかないのさ。
ちなみにギルド長から、お叱りとかはないよ。
依頼者である国がお咎めなしを宣言してるからね。ここで冒険者ギルドが『希望』を責めたら、ロスカンドロス王の意志に従順ならざるものってことになってしまうのさ。
それにまあ、現実をみれは成功率十割ってわけにはいかない。
不測の事態というのは、いつおきるか判らないから不測の事態っていうんだしね。
だからギルド長からは、一刻も早く失敗を挽回できるように頑張ってくれと激励されただけ。
俺も、次は必ず成功させますと頭を下げただけだ。
ようするに形式的なものだね。
「でも、心配していたのは本当なんですよ」
右手を伸ばし、ジェニファが俺の胸を小突いた。
さっきの冗談めかした口調ではない。
「ん。すまんな」
もういちど頭を下げておく。
俺だって、友人が誘拐されたと知ったら心配くらいするだろう。あるいは救出に動くかもしれない。
「詫びに一杯おごる」
「おつまみは四品くらいつけてくれますか? そしたら許してあげちゃいましょう」
「五品でも六品でも」
「契約成立ですね」
笑いあう。
「うおっほいス!」
ものすごくわざとらしい咳払いが割り込んできた。
めぼしい依頼がないか見に行っていたメグである。
いつの間にか俺の背後に忍び寄っていたらしい。
「油断も隙もないスね。さすがは鬼のギルド職員スね」
「メグちゃんこそ。さすが元盗賊ギルドに恥じない危機管理能力ね」
うふふふーとか笑いながら、なんだか視線を戦わせている。
バッチバチと。
火花が飛び散っていないのが不思議なほどだ。
「なにか良さげな依頼はあったか? メグ」
睨み合わせておくのも怖いので、俺はさっさと話題を変えることにした。
「ハイデン農園でゴブリンの被害が頻発してるスね」
「またかよ」
聞き覚えのある名前に、思わず苦笑してしまう。
アスカ、ミリアリア、メイシャの三人と組んで初めてこなした依頼も、ハイデン農園でのゴブリン退治だった。
「あれから二年ですからね。また数を増やしてきたのかもしれません」
ジェニファが補足してくれる。
となると、大規模な巣があるということだろうな。
それごと駆除しないとイタチごっこだ。
「ちなみに、なんでこの依頼が良いと思った? メグ」
「うちから近くはないスけど、同じ町の外スからね。うちだってコメ育ててるスから、明日は我が身かなと」
「OK。正解だ。この仕事もらうぞ。ジェニファ」
栗色の頭を一撫でし、俺はジェニファに向き直った。
「帰還したばかりでもう仕事ですか?」
「巣の駆除だと、やっぱりそれなりの実力がないと返り討ちだからな」
たかがゴブリンじゃねえか、と向かった新米冒険者が死んでしまうのは、相手が巣穴を持っているというケースが最も多い。
なにしろ敵にとってはホームグラウンドだし、負けたら後がないから必死の反撃もおこなわれるのだ。
加えて、『固ゆで野郎』も『葬儀屋』もまだ『ミノーシル迷宮』から戻っていない状況である。
俺たちが動くのが最も効率が良いだろう。
「そういう判断が一瞬でできてしまうライオネルさんって本当に素敵です。けど、そんなに報酬は良くないですよ?」
あくまで依頼されているのはゴブリンの討伐で、巣の駆除ではないからだ。
ただの討伐と巣ごとの駆除では、報酬額だって一桁違う。
「問題ないさ」
困っている人を助けるというのは『希望』の設立理念だ。
まして放っておけば、俺たちの水田にまで襲われるかもしれないのである。
利益度外視で受けていい仕事だといえるだろう。
「望み薄だけど、ゴブリンの巣にお宝があるかもしれないしな」
笑って見せる。
「いやあ、ないでしょう」
「ネルダンさん。夢見ちゃだめスよ」
ジェニファとメグが、パタパタと手を振った。
判ってるよ。
ったく、こういうときは仲良くするんだから。
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