第259話 海底都市
扉を開けると、そこには都市が広がっていた。
「このパターンは二回目だな」
げっそりと俺は呟く。
ラクリスの迷宮からインスマスに飛ばされ、今度はいったいどこにきてしまったんだか。
「いえ、母さん。座標は変わっていません。転移したわけではなさそうです。
「そんなことが判るのか。ミリアリア」
「意味もわからず飛ばされるのは一度で充分ですから」
しっかりと戦訓を取り入れたというわけである。
さすが俺の娘。そつがない。
ともあれ『悪魔の岩礁』の地下には都市が広がっていた。
「ここがぁ、ディープワンズの本拠地ってことだねぃ」
見晴るかせば神殿のような建物が見える。
儀式とやらをおこなうにはちょうど良い感じだ。
「行くか」
仲間たちを見渡す。
全員がそれぞれの得物を確認して頷いた。
ここからが正念場である。
大通りっぽいものを進む。
抵抗は散発的だ。
インスマスどものようにものすごい数でうわーって押し寄せてこないから、対処はけっこうラク。身体能力はずっと高いけれど、こうやって各個撃破できるなら怖くもなんともない。
「兵隊として教育されてないってことだろうな」
「あるいは人間を舐めきっているかスね」
俺の言葉とメグの見解は、どっちもありそうな話だ。
「弱すぎ! つまんない!」
「ゲームじゃないですからね。ラクに勝てるにこしたことはないですよ。アスカ」
「判ってるけどさ!」
微妙にフラストレーションをためているアスカだけど、目的を忘れるなよ?
戦いにきたんじゃなくて、ユウギリを助けにきたんだからね。
まあ、ディープワンズどもは全部殺してしまってかまわないんだけどさ。生かしておいて人類の益になることはなにひとつないし。
この海底都市ごとぶっ壊すというのが理想だといって良い。
現実的に可能かどうかはともかく。
「悪魔の気配はどんどん強くなっていますわ。待ち構えているかもしれませんわね」
「さすがに逐次投入の愚かさに気づいたかな? いまさらだけど」
メイシャの言葉に、俺は右手を顎に当てた。
力は集中してこその力。
邪神ダゴンもそれに気づいて手元に勢力を集めたのだろう。
いつの間にか大通りは閑散として、神殿への道が啓開されている。
大歓迎ムードじゃないですか。
「せっかくのお招きだ。ゴチになろうじゃないか。みんな」
『世の中は肉だ!』
唱和する。
いや、そのかけ声はどうかと思うけどな?
入ればすぐに礼拝堂だ。
こういうのはどこの神殿でも教会でも変わらない。
そりゃあ礼拝するためにすごい歩かないといけないとしたら、信徒たちが困ってしまうからね。
利便性を無視してしまったら信者なんか集められないさ。
「とはいえ、不気味な像の前で裸の女がスライムに絡みつかれている教会なんかに、入信したいやつはいないだろうけどな」
目の前に広がる光景に俺は吐き捨てた。
タコかイカかわからないけど巨大な何かをかたどった像。その前でユウギリがスライム状の光るなにかに絡みつかれてもがいている。
そして行く手を遮るディープワンどもが三十から四十ってところか。
「テケリ・リ! テケリ・リ!」
鳴き声か警戒音か判らないが、スライムが発した。
あるいは開戦を告げる鏑矢のように。
「ユウを離せ! スライム野郎!」
まずはアスカが飛び出す。
「剣に宿れ清純の御霊! 其は朋友ユウギリの力なり!」
七宝聖剣が輝きを増した。
三つ叉の槍で受けようとするディープワンズ。
すると、なんと剣光がぐにゃりと槍をよけて伸び、魚人の首を切り飛ばす。
防御をかいくぐる攻撃、というのがアスカがユウギリに持っているイメージらしいね。
あいかわらず大雑把だなぁ。
「秘剣!
「
アスカの左右から飛んだ俺とサリエリの斬撃が、さらにディープワンズの首をはねた。
「つーか炎剣エフリートも斬撃を飛ばせるんだな!」
「魔法使った方が強いんだけどねぃ~」
自身の魔力を消費しないで使えるのが利点なんだと。
その言葉が意味するところは、魔力の残量を気にしないといけないから節約しているよ、ということだ。
連戦だったからな。
サリエリは、まず超一流の魔法剣士だけど、本職の魔法使いと比較したらやっぱり魔力は少ないらしい。
ミリアリアと比較したら半分もないっていってたことがある。
もっとも、凡人の俺にはどの程度なら多くてどの程度なら少ないのか、さっぱり判らない。
なんとなく体感で、サリエリって並の魔法使いより魔力が多いようにも見える。あるいは、それだけ立ち回りが上手いってことかもしれないが。
「マジックミサイル!
俺たちのさらに後ろから、ミリアリアが魔法攻撃をおこなう。
ちょっと、おやめなさいって、広範囲攻撃なんて。
流れ弾がユウギリに当たったらどうするのさ。
ぎょっとして振り返ると、大魔法使い様が不敵な笑みを浮かべていた。
「母さんもサリエリも、まだまだコントロールが甘いですからね。誘導というのはこうやるんですよ」
意のままに楽団を操る指揮者のタクトのように氷狼の杖が踊る。
数十のマジックミサイルが乱れ飛ぶ。
逃げ惑うディープワンズ。
上からといわず、横からも斜めからも魔力弾が追いかけてくるんだもん。
こりゃたまらん、という気分だろう。
いや、ほんと、これちゃんと狙いついてる?
適当に暴れ回ってるだけじゃないの?
場内大混乱だ。
そうこうするうち狙いがそれたのか、何発かが不気味な神像に直撃する。
ほらぁっ!
いわんこっちゃないっ!
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