第149話 人探しの依頼
ギルドマスターと言えど、執務室は質素なものだ。
豪奢な調度品などはなく、書類が乱雑に積まれた執務机に来客用のソファ。
周りの壁にはいくつもの棚が立ち並び、魔導書や古書などが書類と共に収められている。
しかし、そんな部屋の中でひときわ目立つ物があった。
――壁に掛けられ飾りとなっている赤い魔弓。
禍々しくも惚れ惚れするような威容を感じさせるその魔弓に、奇妙な憧憬を抱いてしまうのは冒険者の性だ。
何せその魔弓は……。
「――気になるか? それは迷宮を攻略した際に手に入れた物だ。
煉たちの視線が魔弓に向いていることに気づいたクレインは、自慢気にそう語った。
確かに三人の目は魔弓に釘付けになっていたが、その内の一人を除いて、彼らはこう思っていた。
「「あの魔弓、アイト(さん)が興味持ちそう……」」
思っていただけでなく、二人は思わず口に出してしまっていた。
二人の言葉にクレインが反応を示し、三人の視線はアイトに注がれた。
そして当のアイトは――。
「迷宮産の魔弓……! しかも
魔道具師としての血が騒いでいた。
記憶を取り戻してからというもの、普段のアイトは元王子らしく気品のある雰囲気を纏っていたのだが、こと魔法や魔道具のこととなると暴走する。
現に今も、ふらふらと吸い寄せられるように魔弓に近づいている。
「お、おい! 何をする気だ!? やめ、やめろっ! 私の相棒に近寄るな!」
「ちょっとだけ……ちょっとだけだからぁぁぁ!!」
「ダメだって言っているだろ! フンッ!!」
「がはっ――!」
クレインの華麗な回し蹴りがアイトの鳩尾を正確にとらえた。
くの字に折れ曲がったアイトの体は、勢いよく扉まで吹き飛び、さらに扉まで壊して部屋の外まで吹き飛んでいった。
容赦のない一撃を喰らったアイトは部屋の外で扉の下敷きになり気を失った。
「ふぅ……危ない。貴様らも、見てないで止めないか」
「いや、何か面白そうだから見てた」
「お言葉ですが、私に止められるはずもありませんので、悪しからず」
「これだから、若いのは生意気で困るのだっ!!」
クレインの心からの叫びが、ギルド内に響き渡った。
◇◇◇
「――改めて自己紹介だ。私はここのギルドマスターであるクレイン。体格については何も言うな。本当の私はもっとスマートでカッコいいからな!」
イバラの魔法で扉を直し、眠った状態のアイトを床に放置したまま、三人はソファを挟み話を始める。
クレインが小さな体で胸を逸らし、威張り散らす姿はまさに子供のそれ。
イバラが頭を撫でたくなり、うずうずしていた。
「そんなのどうでもいいよ。で、俺たちをここに連れてきた理由は?」
「相変わらず生意気だな……。まあいい。まずは、このギルドでの揉め事についてだ。いくら冒険者だからと言って、自由に暴れまわっていいわけではない。例えそれが正当防衛であったとしてもな。ここでは私が許さん」
「正当防衛くらい許してくれよ。俺たちは絡まれたから追い払っただけだ。揉め事って程でもないし」
「奴らにも相応の罰は与える。だが、手を出したのは貴様も同様。故に私の権限で罰を与える」
「理不尽な……」
「なんとでも言うがいい。ここでは私がルールだ」
そう言ってクレインは高らかに笑った。
そして笑い声がピタリと収まると、突然真剣な表情を浮かべた。
急な表情の変化に驚きつつも、クレインの表情からその意図を察し、二人は真面目に話を聞くことにした。
クレインはフッと笑い、少し態度を崩した。
「そう身構えなくても良い。お前たちに与える罰は簡単な人探しだ。元々高ランク冒険者に依頼しようとしていたことだしな。お前たちなら丁度良い」
「高ランク冒険者に依頼するほどの人探しって尋常じゃないぞ」
「確かにそうかもな。お前たちが探すのは……」
一呼吸おいて、クレインの目は何かを心配するようなものに変化した。
「――――私の弟だ。この国のどこかにいる。頼む……あいつが壊れてしまう前に、見つけてくれ……」
今にも涙を零しそうなほど、悲し気な表情を浮かべ、クレインは依頼を告げた。
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