第190話 庭園での戦闘
着地した煉はすぐさま抜刀、そして勢いよく地面に刀を突き刺した。
「――〈死剣・炎葬磔殺〉」
地中から炎の剣や槍が突き出し、煉の周囲半径五メートル近辺に居たゴーレムが磔にされた。
さらに槍は炎を噴き出しゴーレムの体を炎上させる。
一瞬にして、煉の周囲に居たゴーレムは灰となった。
それをきっかけに、ゴーレムたちは突如現れた煉を敵と認識し、排除しようと行動に移す。
目に埋め込まれている魔石が怪しく光り、岩でできた腕を振り回しながら煉へと襲い掛かる。
しかし、ゴーレムの体は重く俊敏さはない。
煉は悠々と回避し、すれ違い様に刀で斬りつける。
空中庭園に来てから初めての戦闘で、煉は違和感を感じていた。
「……魔法の威力が弱い? それに魔力が制御しにくいような……」
本来であれば、先ほどの魔法を倍の範囲は広げられるのだが、思ったよりも魔力を制御できず、無意識に範囲を狭めてしまったのだ。
自分の身体能力に変化はなく、内から外に放出する魔力のみ制御しずらくなっていた。
首を傾げつつも、開き直った煉は身体強化のみに魔力を回し、刀のみでゴーレムを減らしていくことにした。
「こんだけの数を刀でか……面倒だな……」
思わずそう声を零す。
まとめて倒す力を持っているのに、それを使えないもどかしさが煉を苦しめていた。
それでも、ゴーレムはそれほど強くなく刀でも容易に倒すことができたのは僥倖。
流れる水のようにスルスルと密集するゴーレムの間を縫っていく。
ゴーレムは核を破壊しなければ、魔力の続く限り永遠と動き続ける。
しかし、煉によって切り刻まれたゴーレムは核が残っていようと動くことはできなかった。
徐々に、徐々に中心へと近づいていく。
進むごとにゴーレムの数は増していき、さらにはゴーレムの体も硬くなってきているのを感じる。
一体を斬る時間が少しずつ伸びていた。
「……――だぁぁぁぁ!! めんどくせぇ!!」
我慢の限界を迎えた煉はそう叫び、自身の刀に炎を纏わせた。
上手く制御できない魔力はまとまりがなく、無駄に浪費してしまう。
煉はそれを力技で抑え込み、炎で刀を覆う。
いつも以上に力を込めている分、熱量が刀の許容量を上回り始めていた。
そんなことを気にしている余裕のない煉は、溶解しかけている刀を思い切り真横に一閃。
刀を覆う炎が広がり、煉の進路を塞いでいるゴーレムがまとめて灰となった。
「あと少し――!」
他のゴーレムより一回り大きい、小さな水晶の埋め込まれたゴーレムは煉の目前に迫っていた。
しかし、ゴーレムたちは煉を近づけさせないように止むことなく押し寄せてくる。
そして水晶持ちのゴーレムは、煉とは反対側に逃げ出した。
「あっ!? 待ちやがれ!!」
遠ざかっていくゴーレムの背に向け煉は声を上げた。
だが、ゴーレムが止まる筈もなく、さらに波のように押し寄せるゴーレムが邪魔をする。
だんだんとイライラが募ってきた煉は、大きなため息を吐き盛大に魔力を解放した。
放出された魔力は炎と化し、煉の周囲を炎上させていく。
コントロールを手放した煉の魔力が、まるで意志を持っているかのように全方位に広がっている。
その上煉は、自身の足に蒼炎を纏わせた。
「〈
煉の声と同時に、蒼炎は勢いよく噴き出し煉の体が宙に投げ出された。
制御の利かない魔力の影響により、スピードも溢れ出る炎も桁違いになってしまっていた。
それでも、何とか態勢を保ち刀を構えた。
一直線に背を見せて逃げるゴーレムへと刀の切っ先を向け、渾身の突きを放つ。
「は、はなみや心、明流五の、太刀……〈獅月〉!」
大きな音を立て、転がるように着地をした煉の持つ刀の先には小さな魔石のような物が刺さっていた。
振り返ると、水晶持ちのゴーレムには風穴が空いており、核を失っていた。
そのまま前のめりに倒れ、ドスンッ、という音と小さな揺れを起こした。
それに合わせ、煉の周囲を囲んでいたゴーレムたちも力を失い崩れ落ちていく。
煉は納刀し、大きく息を吐いた。
「ふぅ……。終わったか」
倒れているゴーレムに近づき、額に埋め込まれた水晶を取り出す。
何の効果もないような水晶に見えるそれを懐に仕舞い、空に設置された魔法陣で元の場所に戻ろうとしたところで、ハッとした。
「……上手く魔法使えないのに、どうやって戻ろう」
炎上する平原の中、倒れているゴーレムに囲まれている煉は呆然と空を見上げるのだった。
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