第189話 火山の魔法陣
さらに日をまたぎ、同じように魔法陣を潜り続けていた。
前に行った「幻死の迷森」とは違い、太陽の位置が把握できるため、時間の感覚を忘れることなく、探索ができた。
それに浮遊島内の環境が過酷なだけであり、魔獣も出現しない。
戦闘せず、基本的に移動しているのみであるため、体が感じる疲労もそう多くはなかった。
さらに、拠点には温泉が備えられている。気軽にリフレッシュすることもできることが作用し、この面倒な作業も前向きに行うことができていた。
――そう思っていた。
「……なあ。さっきから同じところグルグルしてるだけじゃねぇか?」
「火山、海、密林、無。同じ順序で繰り返していますね。そのせいか極端な環境の変化にも慣れてきました」
「それはそうだが……。他にも浮遊島はあるのに、どの魔法陣に乗ったら次の浮遊島に行けるんだよ」
「そんなの俺がわかるわけないだろ。大体の魔法陣は通ったし、他にもないか隅々まで捜索したがなかった。考えられるのは、俺たちが魔法陣を見つけられていないか、または何らかの条件を満たしていないか、だな」
アイトが自分の推測を述べる。
浮遊島に点在していた魔法陣は概ね記録している。
漏れがないか、幾度も確認し浮遊島内で魔法陣を隠せる場所ももうない。
これ以上何をすればいいか、三人の歩みは止まってしまった。
「……神殿の中も見た。ジャングルでさえ木陰や土の中、茂みも全て確認したんだぞ。もう探せるようなところなんて……」
「――まだあるだろ?」
煉はニヤリと笑みを浮かべ、頭上を指さした。
その指の指し示す方へと目を向けるイバラとアイトは、驚愕の表情を浮かべ嫌そうな目で煉に訴えかける。
煉は二人の視線なぞどこ吹く風と気にせず、単身歩き始めた。
煉が向かうは見上げるほど大きな断崖絶壁の聳える火山。
噴火の前兆である、山の膨張、度々起こる地震、そして燃え盛るような熱気を発している。
イバラが耐炎魔法を施しても、火山の熱気に耐え切れず山頂に近づくことすらままならない。
しかし、煉は違う。
その身に罪深き炎を宿す煉にとって、火山の熱気などあってないようなものだ。
断崖絶壁の山を軽い足取りでするすると登っていく。
一時間もしないうちに山頂に辿り着いた煉は、火口を見下ろす。
マグマがせり上がり、あと数時間もすれば噴火するのでは、というほどで辛うじて留まっていた。
「……やっぱりな」
予想していた通りのことに、煉は声を漏らす。
火口内部には、マグマを押し留める原因となっている巨大な魔法陣が設置されていた。
激しく魔力を放ち、次への道を指し示しているその魔法陣は、まるで誰かを呼んでいるかのよう。
煉は一度麓にいる二人の下へと戻った。
そして淡々と結果を告げる。
「あったぞ。魔法陣」
「そうですか……。火口の中にあるなんて」
「俺たちじゃどうやったってあそこまではいけねぇぞ」
「だとしても、行かないわけには」
「さすがに私たちではこの熱に耐え切れません。登頂しきる前に力尽きてしまいます。――ですので、レンさんにお任せしても良いですか?」
イバラの提案は、煉一人による探索。
煉の側で、彼を支えたいと思っているイバラにとっては苦渋の決断であった。
それは自分の力不足を痛感する言葉。
悔し気な表情でそう言われてしまえば、煉も否とは言えない。
「私たちはここで待っています。魔獣もいませんし、火山を登よりは安全です」
「だな。火口の魔法陣は気になるしその先の島も興味あるが、辿り着けないのなら我慢するしかねぇ。その代わり、しっかりと探索してこいよ!」
アイトは煉に向かって拳を突き出した。
笑顔を浮かべているが、瞳に宿るのは激しい慙愧の念。
煉はその想いを汲み、アイトの拳に自分の拳を突き合わせる。
「ああ、任せろ。――行ってくる」
煉は同じような足取りで火山を駆け上がる。
先ほどと異なるのは、悔しさに満ちた仲間の想いを背負っていること。
山頂まで駆け上がった勢いのまま、煉は火口に身を投げ出した。
落下する煉の体は、吸い込まれるように魔法陣へと落ちそのまま別の浮遊島へと転移した。
転移した先は――空。
空中に設置された魔法陣から投げ出されるように、煉は落ちていく。
空から一望した島の景色は、単なる平原。
しかし、平原は無数のゴーレムによって埋め尽くされ、足場すら見えない。
「魔獣……と言うより人口的なものだな。何かを守っている、のか?」
落下する中、煉が目にしたのはひと際大きなゴーレム。
平原の中心に佇み、動かないそのゴーレムの額には澄んだように透明な極小の水晶。
「あれが、怪しいな。何にせよ、あのゴーレムまでたどり着けばいいってことだな。簡単な話だ」
全身に炎を纏い、煉は無数のゴーレムの中に降り立った――。
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